2023年10月から、ふるさと納税の経費と地場産品をめぐるルールが厳格化されるが、それに伴って寄付額を引き上げたり、返礼品の量を減らす自治体が相次いでいる。そのほかの注意点もあわせて解説する。

寄付数が前年の7割増に

ふるさと納税をめぐる寄付が、今月(9月)、急増する事態となっている。

ふるさと納税の“駆け込み寄付”が急増している
ふるさと納税の“駆け込み寄付”が急増している
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仲介サイト「ふるさとチョイス」を運営するトラストバンクによると、7月から今月中旬にかけ、全国の自治体に寄せられた寄付の数は、前年の1.7倍にのぼっている。

返礼品の人気ランキングには、順位が急上昇した魚介類や肉類、果物などが並んでいるが、物価高が続く中、生活必需品を返礼品で求める動きも広がっていて、トイレットペーパーや箱ティッシュなども人気の的になっているという。

経費と地場産品めぐるルールが厳格化

「駆け込み寄付」が起きている理由は、ふるさと納税の経費と地場産品をめぐるルールが来月(10月)から厳格化されるからだ。

10月から「ふるさと納税」のルールが変わる
10月から「ふるさと納税」のルールが変わる

ふるさと納税では、返礼品の調達費を含めた経費を寄付額の5割までとするルールがあるが、来月から、自治体は、これまで含めていなかった手数料や事務経費もあわせて5割以内に収めないとならなくなる。

10月からは手数料や事務経費なども含め寄付額の50%までに
10月からは手数料や事務経費なども含め寄付額の50%までに

仲介サイト事業者へのすべての手数料のほか、ワンストップ特例や寄付金受領証発行についての事務費用なども経費として扱う必要がある。

相次ぐ来月からの寄付額引き上げ

返礼品競争が激しくなるなか、寄付の半分以上を自治体の収入にするという制度の趣旨を徹底するためだというのが総務省の説明だが、来月からの寄付額の引き上げを決める自治体が相次いでいるほか、寄付額が同じでも、返礼品の量を減らすといった対応が増える可能性が指摘されている。

熟成肉・精米は原材料が地場産のものに限定される
熟成肉・精米は原材料が地場産のものに限定される

このほか、「熟成肉」と「精米」は、来月以降、原材料が同じ都道府県内で生産されたものでないと、返礼品として認められなくなる。熟成や精米作業をその地域で行っているとしても、産地がほかの都道府県のものは、返礼品としてはNGになるのだ。

「9月30日受付終了」の返礼品も相次ぐ
「9月30日受付終了」の返礼品も相次ぐ

仲介サイトには、肉類やコメの返礼品で、「9月30日受付終了」と記載されるケースが相次いでいる。

年収が減れば上限額も下がる

ふるさと納税は寄付を行った場合、自己負担額2000円を引いた分が、所得税や住民税から差し引かれるという仕組みだが、注意したいのは、2000円を除いた分が全額控除される額には上限があって、その額は、年収や家族構成などによって変わるという点だ。

総務省がウェブサイトで公表しているモデルケースでは、たとえば、ふるさと納税をした本人の給与収入が500万円で、夫婦で共働きをしていて、高校生の子どもが1人という世帯の場合、上限の目安は4万9000円だ。

4万9000円までの寄付であれば、自己負担額2000円を除いた額を税金から差し引くことができ、2000円の実質負担で返礼品を受け取れるという計算になる。

こちらは、あくまで一定の前提を置いた場合の目安の額で、具体的な数値はそれぞれの世帯で異なるので、実際にはシミュレーションソフトなどでくわしく算出してみる必要があるが、注意したいのは、今、急いで寄付をしようとしても、正確な年収から正しい上限額がわかるのが年末になる可能性があるということだ。

正しい上限額を計算できるのは年末になる可能性も
正しい上限額を計算できるのは年末になる可能性も

たとえば、先ほどのケースで、冬のボーナスが減るなどして、年収が500万円でなく450万円になった場合、上限の目安は4万1000円にまで下がる。500万円の年収を見込んで上限の目安の4万9000円を寄付していたとしても、差額の8000円分については、税金から差し引くことができなくなる。

心配だという人は、今は寄付額を想定される上限ギリギリではなく、ある程度手前にとどめておいて、年末に会社からもらえる源泉徴収票などで正確な年収がわかった段階で、追加で寄付をするという選択肢もありえる。

医療費・住宅ローン控除利用の人は注意を

さらに、気をつけたいのは、病院にかかるなどして医療費を払った人のケースだ。

医療費控除や住宅ローン控除との併用には注意
医療費控除や住宅ローン控除との併用には注意

医療費控除という税金が軽くなる仕組みがあるが、この控除を使うことで、課税対象となる所得額が少なくなると、ふるさと納税の上限額が減るという点に注意したい。
また、マイホームを購入して住宅ローンを組んだ人が、住宅ローン控除とふるさと納税を併用する場合、税金から差し引ける額が変わってくる場合がある。

物価高が続いて家計のやりくりが厳しくなる中、食材や日用品をふるさと納税で調達する人も増えている。今回のルールの見直しは、自治体を応援するという制度の仕組みをあらためて理解し、日々の暮らしにあわせた利用方法を考えるきっかけになるかもしれない。

智田裕一
智田裕一

金融、予算、税制…さまざまな経済事象や政策について、できるだけコンパクトに
わかりやすく伝えられればと思っています。
暮らしにかかわる「お金」の動きや制度について、FPの視点を生かした「読み解き」が
できればと考えています。
フジテレビ解説副委員長。1966年千葉県生まれ。東京大学文学部卒業。同大学新聞研究所教育部修了
フジテレビ入社後、アナウンス室、NY支局勤務、兜・日銀キャップ、財務省クラブ、財務金融キャップ、経済部長を経て、現職。
CFP(サーティファイド ファイナンシャル プランナー)1級ファイナンシャル・プランニング技能士
農水省政策評価第三者委員会委員