「産後パパ育休」制度が始まってもうすぐ1年がたつ。少しずつ育休をとる男性が増えてきて、2022年度の男性の育休取得率は過去最高になったが、まだまだ高くはない。また「パタハラ」という、育児休業などを理由にした男性への嫌がらせも問題になっている。

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どうすれば男性が育休をとりやすくなるのだろうか。日本の子育てなどの社会課題に取り組む認定NPO法人フローレンスの中村慎一さんに聞いた。中村さん自身は3人目のお子さんが生まれてから、育休を取得した経験があるそうだ。

認定NPO法人フローレンス 中村慎一さん:
以前勤めていた会社で、男性社員では初となる半年間の育休を取得しました。その間は家事・育児全てにフルコミットして、とても豊かな時間を過ごすことができました。(育休の取りにくさについて)確かに上長とやり取りがあったなと少し思い出しました。ただ 、元から子供の保育園のお迎えなどもやっていましたので、周囲の方たちの理解もあって、私は半年間育休を取ることができました。

男性の育休取得率2022年度は17.1%

関西テレビ「newsランナー」の吉村功兼キャスターの場合、8年前に子供が生まれた時、周りの同僚や上司が育休を取っていなくて、後ろめたさを感じて取得しなかったと言いう。関西テレビ 加藤さゆり報道デスクは4年前に子供が生まれた時、夫が直前まで取るつもりでいたものの、部署の異動があり取れなかったと言う。結局、「newsランナー」のスタジオでは誰も育休を取っていなかったのだ。

全国的な男性の育休取得率は、2012年度に1%台だが、そこから伸びてきて、2022年度は17.1%で過去最高になった。ただ政府が掲げる目標は、2年後の2025年度に50%、2030年度に85%で、現状と大きな開きがある。

中村慎一さん:
取得率は上がっているんですけれど、進んでいるのは大企業が中心で、中小企業はまだまだ伸びしろがあるかなというふうに思います。また取得日数も数日から1週間程度が多いようです。家事・育児の本質を知って、育休後も妻と家庭を同等に回せていると言える人はまだ少ないのではないでしょうか。一方で女性の取得率は80%台で推移していますので、男女で大きな不均衡があるという点に目を向けるべきかと思います。

こういった現状について、中村さんが言いたいのは、「日本の育休制度は世界一なのに!」ということだ。

中村慎一さん:
実はそうなんです。ユニセフの報告書で、父親に認められている育児休業の期間が41カ国中第1位で、最長2年まで取ることができます。また“産後パパ育休”制度では2回に分けて取れるといった柔軟な取得も可能です。なので実は制度としてはとても使いやすいものなんです。

育休を取らない理由 最後に残るのは本人と周囲の意識の問題

制度は世界一なのに、取得率が伸びていない理由があるようだ。

厚労省のアンケートによると、男性が育休を取りづらい理由として、
・1位は「収入を減らしたくない」で、4割近い回答があった。
・次いで「周囲の理解がない」「自分にしかできない仕事がある」と答えた人がどちらも2割近くいた。

また、街の声として
30代会社員:戻ってきたときに自分の席があるか心配
30代会社員:シフト制なので人数が足りなくなる
といった金銭面以外の理由もあがっていました。

中村慎一さん:
育休中は、雇用保険から賃金の67%に当たる給付金が支払われます。また社会保険料が免除されるので、実質の手取りはほとんど変わらないんです。さらに政府は男女ともに育休を取得した場合に給付金の水準を80%に引き上げる方向で見直しを検討していて、収入面の不安は、制度側からほぼカバーされています。 最後に残ってくるのはやはり本人と周囲の意識の問題になると思います。家事・育児は女性の方が得意であるとか、男は稼いでこそで仕事に穴を開けるなんてとか、そういったジェンダーにまつわる思い込みにとらわれていないでしょうか。男らしさ・女らしさにとらわれている限り、制度がいくら整っても男性が仕事から離れられない問題を変えていくことはすごく難しいと感じます。

現状の空気感のままだと、さらに、「パタハラ(=パタニティハラスメント)」の被害が生まれるおそれがある。「パタハラ」とは育休などを理由にした男性への嫌がらせを意味する。

厚労省の調査で、過去5年間に26.2%の男性が経験したと出ている。実際に街で取材した30代の男性会社員では、「育休を取りたいと上司に言ったら、『帰ってきてから分からんで』と言われた」と、脅しのような言葉が返ってきたいう例もあった。

トータルで男性は育休を取りにくい雰囲気があるという声がある。

中村慎一さん:
やはり最初に誰かが空気を変える“勇気のアクション”が大事になってくると思います。ただそれを広げていけるかどうは、また違った問題になってくるかなと思います。「パタハラ」という言葉が出てきて、注目や話題が集まっているということは、「ハラスメントがおかしいよね」っていう声があるということだと思います。つまり、みんなのアンテナが立ってきた。個人的な悩みは社会の悩みであると言ったりしますが、こんなことで悩むのは私だけかもと遠慮する必要はありません。なんでこんなこと言われて嫌な気持ちにならないといけないのかとか、そもそも何が自分たちを息苦しくさせているのかということについて、まず自分から声をあげて、隣にいる同僚と話し始める事から始まるのかと思います。そういったことが職場の空気とか、雰囲気を変えていくことにつながるではないかと思います。

“雰囲気づくり”と“中小企業支援” 

「パタハラ」という言葉が表面化されたことはよいことだが、このような問題をなくし、育休取得率を向上させるカギが大きく2つあると考えられる。

1つめは雰囲気づくり。
会社側から動くことや、社内で専門スタッフに相談できるようにする。上司の方から「いつから育休取るの」と聞く義務も定められている。

中村慎一さん:
雰囲気作りについて、育休だけでなくて病気などでメンバーが急に離脱するリスクは誰にでもあることで、誰かが仕事を抜ける時はチームにとって業務の棚卸しをするチャンスでもあり、その棚卸しを通じてスリムで筋肉質なチームになれる可能性を秘めていると言えます。休みを取りやすくなって、結果的に生産性もアップして、しなやかで強靭な組織へと成長できるかと思います。

2つめは中小企業支援。
国は育休社員の同僚に手当て支給した中小企業への助成金を、現在の10万円から、2024年度最大125万円に増やす方針だ。 ただ国が支援を検討している一方で、ある中小企業の社長に話を聞くと、「お金をもらっても、抜けた人の穴は埋まらないし、仕事の効率が上がらない。付け焼き刃の政策」だと言う。

中村慎一さん:
体力のある大企業だと企業努力でいろいろな施策を打てるんですが、ギリギリでやっている中小企業はそうもいかないというのが、こうした声に現れているのかと思います。育休を取る人の代わりの要員を早めに入れて、仕事のトレーニングをする場合、その期間人件費が二重にかかってしまうわけです。そこに対して早い段階から支援していくとか、妊娠が分かった段階からどう周囲のフォローをデザインしていくかというのがすごく大切だと思います。取り組みをした中小企業に対して、必要なコストを支援するといったきめ細やかな制度支援があるとなおいいのではないかなと思います。

Q:勤務先の中小企業から「代わりがいないからダメ」と言われた。

中村慎一さん:
仕事を肩代わりした同僚に手当てを支払うという工夫をしている企業もあって、2024年度から金銭的な助成が厚労省からつく見込みですので、企業としてはそういったものを導入していただきたいです。そうすると、「ダメ」といった声はあがらなくなっていくはずだと思います。仕事の属人化を減らして、誰もが働きやすい職場を作ることは、すなわち若い人たちをひきつけることにもなります。今の若い男性たちは育休を取って積極的に子育てしたいという割合は上がっているので、そういった取り組みをしないと若者から選ばれない企業になってしまいます。その対策をすることが、企業広報より有効かもしれませんので、少し勇気がいるかもしれませんが、経営に対して会社のことを考えるならぜひやった方がいいとアプローチするのもありではないかと思います。

国の仕組みも大事ですが、1人1人が意識を持って、行動していくことも大事だと言える。

(関西テレビ「newsランナー」2023年9月27日放送)

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