情報通信技術を教育に取り入れようと、国が2019年から全国の小・中学校で進めたのが「GIGAスクール構想」だ。この構想実現のため、鹿児島県内でも児童・生徒1人につき1台、タブレット端末が配布された。ICT化の波は小・中学校にとどまらず、高校教育の現場にも押し寄せている。高校での先進事例を取材した。

問題用紙はダウンロードする時代に

地域有数の進学校として知られる薩摩川内市の県立川内高校、1年生の数学の授業。生徒一人一人がタブレットを所有し、グループ学習を行っていた。

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すると担当の前野弘樹先生が「数A第2章「図形の性質」というところに問題を用意しているので、各自グループでダウンロードしてください」と指示。画面に表示された図形の問題を、生徒同士で話し合いながら、解き進めていった。通常だと黒板に書かれるさまざまなメモは全て、タブレットに記録されていた。

1人1台タブレットを使用して授業に臨んでいる
1人1台タブレットを使用して授業に臨んでいる

すると「問題1から解説いきます。ちょっと画面共有をかけるので、いま作業中の人は画面が移り変わるけどいいかな?みんなが頑張ってくれた解答を今から共有します」という先生の声。まるでリモート会議のようだ。

川内高校では2023年度に入り、指導者用のタブレット端末も整備された。

「(設問などの資料は)全部自分で用意しているので、あとは読み込ませたものを見せていくことで、答え合わせもできる」と話す数学担当・前野弘樹先生。これまで設問や解説を一から黒板に書くのに費やしていた時間を「みんなの指導や教え合いの時間に全て回すことができているのが利点かな」とタブレット導入の効果を感じている。

生徒も「解説をペンで示してくれるから分かりやすい」「黒板だと見えない人もいるかもしれないけど、タブレットだと手元にあるのでみんなに伝わりやすい」と好意的に受け止めていた。

データにすることで管理しやすく

高校教育現場で進むICT化。これに伴い、川内高校では2023年からペーパーレス化にも取り組み始めた。週4回行われる朝の職員朝礼では、これまで毎回、教員50人にプリントを配布していた。現在はデータを事前に共有し、全員がタブレット端末を持参して参加している。

ペーパーレス化は授業でも進んでいる。1年生の「情報」の時間。プレゼンテーション用のアプリを使って生徒が発表を行う中、活用されていたのが、アンケート機能だ。生徒の発表に対する感想や良かった点、改善すべき点などを、自分たちの端末から入力し、送信していた。

数学担当・前野先生は「1人の発表に対し39人分の評価をしていくとなると、それがさらに40人分出てくるから紙にすると1,600枚ぐらい。それが各クラスとなると、7クラスあるから1万枚が必要になるがそれをデータだけで出せる」ペーパーレス化による変化を話す。

このように様々な場面でペーパーレス化を進めた結果、川内高校では1学期の3カ月間だけでコピー用紙の使用量が前年度の約半分まで減少した。金額にして10万円以上の節約となり、ICT化された授業で使う必要なものを購入するなど教育環境整備に活用できたという。池俊人教頭はペーパーレス化について「非常に有意義ではないかと思っています」と語った。

ただ、完全なペーパーレス化には課題もある。数学の前野先生は、別のクラスでは紙のプリントも併用して授業を進めていた。「数学という教科ということもあり、実際に書いてほしいから、宿題としては紙で渡し、回収するとき、チェックするときにはデータでという風に工夫をしたりすることはある。紙との併用が一番大事なのかな」と話す前野先生。

川内高校ではタブレットと紙の利点、それぞれを生かした形で最適な教育の在り方を模索していた。

いつ、どこからでも質問できる

現在、鹿児島県内の県立高校全61校では生徒・指導者のタブレット端末が整備され、教育のICT化が進められている。県が各学校に行った、タブレット端末活用の調査結果をみると、県外や海外の学校との交流、各種アンケート調査、就職の企業説明会まで、幅広い場面で活用されていることがわかる。

鹿児島県教委・学校教育ICT推進班の永倉紀仁指導主事は「教員と生徒同士のやりとりをしながら学習を進めていくなど新しい学びの形というのが今出てきているので、双方向のやりとりができるように指導者用の端末が配布されている状況」と現状を話す。

タブレット端末をペーパーレス化にもつなげた川内高校。
前野先生は生徒に「何か分からないところがあったら写真を撮って送ってくれれば答えるよ」と呼びかけている。いつ、どこからでも、先生に分からない問題を質問できる仕組みだ。

「授業中、なかなか手を挙げて聞くことができない子にも「文字で送ってくれ」と言えば結構送ってくれるので、それを見て「あ、こんなこと思ってるんだな」と改めて見たりできる」前野先生は手応えを感じていた。

ICT化を飛躍的に進めるタブレット端末の登場で、高校の教育現場では今、さまざまな形で変化が起きている。

(鹿児島テレビ)

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