家で揚げ物を作った後の食用油をどのように処理しているだろうか。
流しに油を流すと、下水管の中で固まって詰まり悪臭の原因になる。さらに、大雨が降れば付着した油が川や海に流れ出し、環境を汚染してしまうこともあるようだ。

例えば東京都下水道局は、使用済み食用油は流しに捨てずに次のように処理してほしいと案内している。
・炒め物などで使い切る
・鍋や皿についた油汚れはふき取ってから洗う
・紙に吸わせたり市販の凝固剤を使って固めて可燃ごみに出す
・リサイクル
適切に処分することも大事だが、リサイクルできるならしたいと思う人もいることだろう。しかし、どうすればいいのかわからない。あるいは、居住地の自治体がリサイクルを行っているとしても、指定する回収場所や日時に行くのが難しい人もいるかもしれない。
そんな中でイトーヨーカドーが、使用済み食用油回収の取り組みを8月から始めている。
専用容器を使ってカウンターで回収
イトーヨーカドーの曳舟店(東京・墨田区)・木場店(同・江東区)・アリオ北砂店(同)の3店舗で行っているのが、使用済み食用油の回収だ。サービスカウンターで無料配布している専用の回収容器に詰めて渡せばOKだ。

回収できるのは使用済み食用油と賞味期限切れの食用油のみで、鉱物油やガソリン、マヨネーズなどは対象とならない。
現在はモデルケースとして3店舗のみの実施となるが、イトーヨーカドーによると今後、店舗を増やす予定だとしている。
イトーヨーカドーは、今回の3店舗に先行して、今年(2023年)2月からネットスーパー西日暮里店で使用済み食用油回収の実証実験を行ってきた。この実証実験は、置き配サービスで商品を配達する際に、専用容器に入れた油を回収してリサイクルに回すというものだ。
ネットスーパー西日暮里店の実証実験は、10月3日の同店閉店に先立ち、すでに終了している。なお8月に始まった3店舗では置き配時の回収は行っていないという。
専用容器でペットボトルも無駄にしない
環境保護の観点からも重要なことだろうが、イトーヨーカドーの取り組みの特徴はどこにあるのだろうか。また、サービスをスタートしてわかったことは何だろう。イトーヨーカドーに聞いてみた。
――回収された使用済み食用油はどのようなものにリサイクルされるの?
現状、廃油リサイクラーの工場にて精製され、化粧品、インク、石鹸などにリサイクルしております。

――なぜ専用容器を使うの?ペットボトルではダメ?
現状、自治体が行う廃食油の回収では、ペットボトルに油を入れて持参されています。しかし、一度回収容器として使用したペットボトルは、リサイクルできずに廃棄となります。
弊社はペットボトルの水平リサイクル事業(ペットボトルからペットボトルへ循環型リサイクルすること)についても、2012年から回収機を設置するなど、積極的に推進してきました。
そこで、家庭系廃食油回収の際にリターナブルボトルを繰り返し使用することで、ペットボトルのリサイクル率向上にも貢献できると考えております。
「買い物する店で回収できて便利」
――ネットスーパー西日暮里店での実証実験の感触は?
実証実験前には、廃食油のリサイクルが広まっていないのは、廃食油がリサイクルできることについて認知度が低い、また、既存の回収拠点に持参するのは面倒で、固めたり吸わせて廃棄されてきたのではないかと想定していました。
そこで、ネットスーパー西日暮里店では、廃食油がリサイクルできることをHPやチラシなどで周知したうえで、置き配で使用したコンテナに入れておくだけで「回収・リサイクル」できることの利便性を体感いただけるような仕組みにしました。
その結果、良い取り組みであるとのお褒めの言葉をいただけたので、店頭での対面回収というかたちでもご参加いただけると感じました。
――8月から始まった3店舗でのサービス利用者からはどのような反応があった?
まだ正式に集計したわけではありませんが、現場では、「良い取り組みである」とのお褒めの言葉をいただいたほか、「使用済み食用油がリサイクルできることを知らなかった」や「いつも買い物をしているお店で回収してもらえるのはとても便利だ」という声があったことを聞いております。
利用者のリサイクルへの熱意を信じて
――なぜこのような取り組みを始めた?
(事業協同実施者の)廃油リサイクラーである吉川油脂様から、ドイツでは家庭系廃油について、自治体が回収機を一般道に設置し、市民が専用容器で投入する環境が整っていることや、日本では家庭系廃食油の多くが廃棄されていることをご説明頂きました。

一方、スーパーにおいて、資源回収ボックスはほぼ常設され、お客様はお買い物ついでに家庭で洗った資源物(トレーや紙パック)を投入してから買い物を始めることがルーチンとなっており、環境、リサイクルに参加したい、貢献したい、との熱意を日頃より感じていました。
ペットボトルなどは、昨年度(2022年度)グループ計で4.7億本を店頭にご持参いただいており、家庭系廃食油についても環境を整え、周知をすれば、お客様は必ずご賛同いただけると感じたためです。
――今後の展開は決まっている?
まずは東京都内において回収店舗を拡大していく計画です。目標値として、3年間で25トンの回収を目指します。
――使用済み食用油の回収について伝えたいことは?
油は捨てればゴミとなりますが、店頭にご持参いただければ適切にリサイクルいたしますので、ぜひ、ご協力のほど、よろしくお願いします。
イトーヨーカドーの取り組みは、店舗の営業時間に回収を受け付けているだけでなく、専用容器を使うことでペットボトルのリサイクルにもつながることが特徴だ。今後の取り組み拡大にも期待したい。