林芳正前外務大臣が突然の交代となった。林前外務大臣を評価していなかった麻生副総裁と、岸田派内のライバルを封じた岸田総理との思惑が一致したという見方がある。

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岸田総理と上川外務大臣の外交に関して「なぜ林前外務大臣を交代させたのか?」について、政治部の高田圭太デスクが解説する。

前外務大臣が“突然交代”

「林前外相はなぜ交代になったのか?」というのが今、永田町でもミステリーとして話題になっている。

林前外相には何か大きなスキャンダルや失点などがなく、永田町でも林前外相は続投とみられていた。現在、上川外務大臣が行っている国連総会も、林前外相が出席する前提で準備していたため、急きょの変更に追われている。

外務省幹部も「うちの大臣はなぜ交代になったのか?」と驚いていた。

では、岸田総理が林前外相を交代させた動機は何なのだろうか。

まずは「岸田総理が女性を外交の顔にしたかったから」と考えられるが、これはどちらかというと表の動機で、裏には他の動機があったのではという話がある。

そこで出てくる裏の動機が「麻生副総裁が林前外相を外せと言っていた」ということだ。

麻生副総裁は20日に83歳の誕生日を迎えたが、岸田総理にとって、外交の一番大事な相談相手でもある。その麻生副総裁が、林前外相のことを常々評価していなかった。そのことが、交代の一つの答えと言われている。

麻生副総裁が、林前外相のことを評価しない最大の理由は、林前外相が中国とパイプの太い政治家だということだ。麻生副総裁は、台湾との関係を重視していて、中国には強硬に対応すべきだとの姿勢だ。

処理水の問題で中国が強硬姿勢に出る中で、「林を置いておいていいのか」というのが麻生副総裁の考えだったと言われている。

岸田・麻生の“思惑”一致か

さらに、3月のG20外相会合を林前外相が欠席したことも影響した。

国会日程の都合での欠席だったが、G20というのは麻生副総裁が総理のときに始まった会議だ。麻生副総裁は、国会への根回しが足りずに欠席した林前外相を、外務大臣として「不適格」だと感じたようだ。

そしてもう一つが人間関係で、林前外相は麻生副総裁の天敵とも言える古賀元幹事長に近く、元々よく思っていなかったという背景もある。

ただ、麻生副総裁がいくら進言しても、岸田総理が林前外相を高く評価していたら交代とはならないはずだ。そのため、ある関係者は「岸田・麻生の思惑が一致したからだ」と話している。その麻生副総裁の考えに、岸田総理が乗った動機が「岸田派内のライバルを封じた」という見方だ。

自民党関係者は記者の取材に「岸田総理は自分の後を狙っている人間のことを嫌っている」と語っている。

林前外相は今、岸田派のナンバー2の立場で、将来岸田派が林派に衣替えする可能性もある。

岸田総理としては、今後の影響力を保つためにも林前外相が外交で力をつけすぎるのは面白くないので、ポストを外して力を抑えたという見方だ。

ただ、こうした人事のやり方には、波紋が広がっている。

ある党内の大物議員は「G7議長国で各国との調整もある中で、外相を明確な理由がなくはずすのはありえない」「さすがにやりすぎ。岸田総理が権力に執着する姿が見えてしまった」と話している。

一方で、岸田総理の周辺は「何も思惑なんてないよ。いかに女性を増やすかのパズルの中で、自分の派閥の林前外相を外すしかなかった」と思惑を否定している。

それぞれの動機が複雑に絡み合って今回の交代になったのだが、真実は一つではなく、受け止めた人の数だけあると感じる今回の人事だ。
(「イット!」 9月20日放送より)