毎年10月に行われる秋の大祭「長崎くんち」。新型コロナなどの影響で2023年、4年ぶりの開催となる。2013年の奉納以来10年ぶりの出演となる船大工町。そこには、町に活気を取り戻したい思いがあった。

激流を進む…「川船」で船頭を務める8歳の男の子

囃子(はやし)に合わせ、重さ約2トンの総ヒノキの船を、時に激しく、時に軽快に回す。船大工町の「川船(かわふね)」だ。

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かつて、町には船を修繕する船大工が多く住んでいて、町名にちなみ、伝統的に「川船」の奉納を続けている。川船は、捕らえたコイを諏訪神社に献上するため激流を進むという筋立てで、見せ場の1つが「網打ち」だ。

船頭が目指すは、7匹のコイを一網打尽にすること。しかし、投網をうまく扱うのは決して簡単なことではない。

船大工町・殿村育生 自治会長(72):
さー、よいよい。しっかり見て!ターゲット見て。

2023年、川船の船頭を任された8歳の光安悠真くん。
指導はこれまで何人もの船頭を育ててきた自治会長の殿村育生さんが担い、伝統の所作と網打ちのコツを丁寧に伝える。

船大工町・殿村育生 自治会長(72):
その状態だよ。さー、よいよい。もっと前に体重をのせて!

指導にも熱が入る。

船大工町・殿村育生 自治会長(72):
(網の)ふり幅が一定に、大きく一定になればいい

体勢を崩さず、投網を広げられるかが悠真くんの課題だ。

船頭・光安悠真くん:
最初練習した時は、もっとひどかった。まだまだ力を抜いて投げないと

コロナでの中止…悔しさを背負いながらも「弟に頑張ってほしい」

くんち初参加で船頭という大役を務めることになった悠真くん。
役目がまわってきた背景には、3年間の奉納踊の中止があった。

本格的に稽古が始まるのは、6月1日の“小屋入り”。その前の2023年5月、悠真くんは船頭への決意を語っていた。

船頭・光安悠真くん:
(船頭に決まった時は)ドキドキした。お兄ちゃんの分まで頑張ってやりたいと思います

町内で歯科医院を構える光安家は代々、くんちに参加してきた。
今回「根曳(ねびき)」で出演する父の健一郎さんも、39年前に船頭を経験した。本番の投網も父親が使っていたもので、親子2代で受け継ぐことになった。

船大工町が本来出演するはずだった2020年、長男の怜史くんが船頭を務めることが決まっていた。しかし、新型コロナの感染拡大などで、奉納踊はその後3年にわたって中止に。
年齢の関係で、船頭は弟の悠真くんに依頼することになったのだ。

悠真くんの兄・怜史くん:
船頭をすることが決まっていたけど、コロナのせいでできなかったから、くやしい

父・健一郎さん:
本人も「そうなんだ」という形。しょうがないですよね。社会情勢的に祭りをやる状況ではなかった。正直、少し残念な気持ちがあったし、気の毒だった

悠真くんの兄・怜史くん:
弟に頑張ってほしいと思った。網打ちで全部魚をとってほしい

悔しい気持ちはあった。しかし怜史くんは、船頭の弟を支えてあげたいと考えるようになったという。

日頃から仲がいい2人。稽古用のコイはお母さんと一緒に手作りし、家では稽古のおさらいをしている。怜史くんが掛け声をあげ、悠真くんをサポート。

悠真くんの兄・怜史くん:
さー、よいよいよいそーりゃ。

囃子で船に乗り込む怜史くん。
網を打つ時、かねの音で弟を後押ししたいと思っている。

悠真くんの兄・怜史くん:
最初は上手じゃなかったけど、徐々にうまくなってきた。弟が投げやすいように、網を投げやすいようにしてあげたい

船頭・光安悠真くん:
お兄ちゃんを困らせないように、みんなを楽しくさせるような、くんちにしたい。コイをたくさん取りたい。頑張りたいです

コロナで街を去った人、亡くなった人…“みんなの思いを込めて”

船大工町の川船が激流を進む様を表現するのは、20人の根曳(ねびき)だ。
水流を表し、船回しの要となる根曳はこれまで、できる限り町にゆかりのある人でそろえてきた。
しかし、今回は伝統を守るのが難しい状況に陥った。

船大工町は飲食店が多いため、新型コロナによる行動制限の影響が大きく、店を閉めて街を去った関係者も少なくなかった。3年間の中止を経ての人集めは、想像以上に困難だった。

長采・平良光一さん:
なるべく町内の関係者を集めるようにしているが、うまくいかなかった。人数が足らずに、予定よりも2カ月集まらずに伸びてしまって大変だったが、やっと20名という人数が集まってよかった。くんちを通して、少しでも元気が取り戻せたら

根曳20人のうち、初参加を決めてくれたのは10人。今回の船大工町は、経験が浅い人たちに「どんな動きを求めるのか」、具体的に伝えることを大切にしている。

初参加の根曳・島航平さん:
(船回しの)2人の位置調整と体勢の確認、教えてもらっていた。くんちはぼんやりとしたイメージしかなかった。実際に船を触らせてもらって、稽古をさせてもらっている中で、町の皆さんの思いとかを感じながら楽しませてもらっている

2回目の参加 根曳・南信さん:
僕たちも勉強しながらだが、初めての時とは違って責任を持って、言ったことが続いていくことになるので、注意してやっている

長采・平良光一さん:
説明をして分かってもらえる。皆さん理解が早くて助かっている。コロナの関係で出られなくなった人もたくさんいる。先輩は3人ほど亡くなった。そういった人たちの思いを込めてがんばりたい。

船頭・光安悠真くん:
一緒に全力で頑張りたい

悠真くんの兄・怜史くん:
弟と力を合わせて、いい奉納ができたらいい

伝統をつなぐ10年ぶりの奉納に向け、船大工町は大人も子どもも、全力で稽古にのぞんでいる。

長崎くんち・2023年の踊町

(テレビ長崎)

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