寛永11年(1634年)から続く長崎の氏神「諏訪神社」の秋の大祭「長崎くんち」が4年ぶりに10月7・8・9日の3日間で行われる。新型コロナの感染拡大などで奉納踊が中止になったため、今回、出演がかなった踊子がいる。10年分の思いを胸に本番に臨む最年少の踊子と支える家族の思いを聞いた。

神官と巫女の清めの舞い「諏訪祭紅葉錦絵」

長崎くんちの初日である前日(まえび)の7日に、諏訪神社の踊り馬場で一番町を務めるのは「本踊(ほんおどり)」を奉納する桶屋町だ。

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演目は、長唄「諏訪祭紅葉錦絵(すわまつり もみじのにしきえ)」。登場するのは、神官と巫女(みこ)に扮(ふん)した踊子たちで、初日の一番町にふさわしい清めの舞だ。

2013年の前回は、傘鉾(かさぼこ)の飾になっている町のシンボル・象を率いる子どもの踊りから始めたが、指導の藤間金彌(きんや)さんは構成を変えた。

指導藤間金彌師匠:
4年ぶりのお諏訪さんで、図らずも神官と巫女という形なので清めるというか露払い、一番に踊らせていただいて、それから子どもが出る

子どもの踊りのあとは、にぎやかな踊りの一座が登場。金彌さんの社中の6人の弟子が、3つの役柄に分かれ、錦絵のように華やかな舞で諏訪の舞台を盛り上げる。

初々しさとはつらつとした動きが特徴の踊子は、最年少の近藤礼音(れおん)さん(14)と、この春大学に入学した吉村風花こと、藤間弥寿花(やすはな)さん(18)が務める。

藤間弥寿花さん:
4年待った分楽しみなところがある。自分が楽しむのも大事に初めて踊らせていただくので、先輩たちをしっかり見ながら、自分も成長できるような奉納にしたい

近藤礼音さん:
ずっと延期になって皆さん待っていてくれたと思うので、期待に応えられるような踊りを奉納したい。前は緊張したことしか覚えていない

近藤さんは4歳の時、桶屋町の子どもの踊子として初めてくんちの舞台を踏んだ。

あれから10年。今は中学3年生になり、長崎・諫早市の長崎日大中学校に通っている。長崎くんちにあまりなじみがなかったクラスメートも、近藤さんの出演を喜んでいる。

友人:
めっちゃ誇らしい。頑張って!

6月の小屋入り以降、稽古がある日は放課後の講座を休んで稽古場に向かう。

近藤礼音さん:
最初はみんな「くんちって何?」みたいなところからだった。学校のみんながきょう授業でしたところとか送ってくれたりする。休むことは少し申し訳ないなと思うし、自分が勉強にもついていけなくなるが皆のおかげで成り立っている

将来の夢は「俳優」 幼いころからの目標

学業に、踊りの稽古だけではない。近藤さんは小学校5年生から長崎市内の芸能事務所に所属し、ほぼ毎週、演技やウォーキングなどレッスンを受けている。

近藤礼音さん:
将来の勉強もしたいので。くんちの稽古もレッスンも楽しいことだから頑張っている

将来の夢は「俳優」。その道に向かって努力を続けている近藤さんだが、くんちへの出演は、幼いころからの特別な目標だ。

近藤礼音さん:
小学3年生の時に書いた。

近藤さんが小学3年生の時、授業で書いた「将来の夢」。くんちに関わり続けるためのステップを着実に歩んでいる。

芝居のレッスンを受ける近藤さん(長崎市内)
芝居のレッスンを受ける近藤さん(長崎市内)

近藤礼音さん:
踊子さんとして出ることが一番の夢。それがこの年でかなったのがとてもうれしくて、名取になって、今後もくんちに出たい。女優もひとつの夢なので、くんちと女優と踊子さんという夢をかなえられるように今後も努力したい

夢に向かって進む娘のことを、母の由紀さんはずっと側でサポートしてきた。

母・由紀さん:
お姉さん方に足並みを揃えるのにプレッシャーもあると思うけど、頑張っているなと

場数や経験が少ないからこそ、1回1回の稽古が成長の場だ。

藤間弥寿花さん:
私が見てきた藤間はすごく揃っている。藤間らしさを見せられたらいいなと

スキマ時間を活用して「揃える」ための努力も欠かさない。

近藤礼音さん:
この動画はお母さん(が撮った)。お父さんも撮って送ってくれたりします。先輩と(動きが)合っているか、違ったらそこを改善したりとか、顔の向きとかも違うことがあるので気をつけて見ている

稽古に励む姿を、妹の安穏(あのん)さん(11)も近くで見てきた。

妹・安穏さん:
家とかでも自主練してて、こっそり見に行っている

安穏さんも今回初めてくんちに出演する。姉妹で切磋琢磨(せっさたくま)しながら本番に臨む。

母・由紀さん:
どんなに願っても、年齢や条件が揃わないと姉妹で奉納させていただくのはかなわなかったと思う。恵まれた環境と町内の方に受け入れていただいた。色んな方々のおかげで奉納できること自体、ありがたいと思っている

子どもの踊子は4歳から11歳までの9人が出演する。最年少の安穏さんは、本番ではうちわを手に他の子どもたちを馬場に招く。

かつて町の火事を愛宕山の天狗が、うちわをあおいでおさめたという言い伝えから、桶屋町は天狗を大切にしていて、町印に取り入れてきた。

安穏さん:
2人揃って出られることはなかなかないので楽しんで、自信が持ててるって自分で思えるように頑張りたい

「悔いが残らないように…」 本番に向け稽古

おけをつくる職人が住む町として栄えた桶屋町。長崎警察署が別の場所へ移り、向かいには長崎市役所が建つなど風景は大きく変わった。町印や踊りの表現を通して、町の歴史を今に伝えている。

本番まで1カ月。稽古は最後の仕上げに入っている。

藤間金彌師匠:
楽しみにしてくださっているくんちですから、一番町として最後まで無事くんちを奉納できるようにとの気持ちと、晴れやかなすがすがしい気持ちで奉納させていただきたい。

近藤礼音さん:
今までの練習の成果を全力で発揮できるように、悔いが残らないようにお客さんにもいい奉納ができるようにしたい

厳かに、そしてにぎやかに大人も子どもも心ひとつに、くんちの開幕を飾る。

長崎くんち・2023年の踊町

(テレビ長崎)

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