不十分な装備による「思いつき登山」で遭難する人が増えている。サンダルやスニーカーでの登山など、準備を怠ると遭難のリスクも高まる。日本山岳ガイド協会の公認ガイドに「山登りのポイント」を聞いた。

危険な「思いつき登山」

福岡・太宰府市に鎮座する標高829メートルの宝満山は、年間10万人以上が訪れる、福岡県内で最も登山者が多い山として知られている。

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登山客:
爽快です。エネルギーを宝満山はくれるんですよ。だいだい月に1回は登っている。疲れた時に登ると元気になる

多くの人が登山を楽しむ一方で今、問題になっているのが「思いつき登山」だ。

日本山岳ガイド協会・秋山和敏さん:
低山で「登りやすいかな」と思って登る人が多いんですが、装備が不十分だったりとか、地図がなかったりとかで遭難が増えている現状があります。宝満山も登る人が多いんですが、九州の中では2番目に遭難者が多い場所になっています

日本山岳ガイド協会認定ガイドの秋山和敏さんと一緒に宝満山に登ってみると、スニーカーを履いている人や、なんとサンダルで登山をしている人もいた。

ーーサンダルで大丈夫ですか?

登山客:
足が痛いです…

福岡県警によると、県内では2022年に山で遭難した人は70人に上り、2人が死亡しているという。発生件数は10年前と比較して2倍以上に。

また、遭難事故の約7割が登山道の未確認など、事前の準備不足が原因となっている。準備不足による「思いつき登山」には注意が必要なのだ。

創業47年、福岡市のアウトドア用品店「ラリーグラス」で話を聞いた。

ラリーグラス大名店・貞苅誠さん:
絶対必要な装備は足元、まず靴が大事かもしれませんね。木の根っこ、土の上、ごろごろした石なんかがあるわけですから、街中の靴よりもリスクに対した靴が必要です

登山靴は、足首の高さで登る山やコースに応じた靴を選ぶ。福岡県内の山なら高くても1,000メートル級のため「ミッドカット」がおすすめだそうだ。

ラリーグラス大名店・貞苅誠さん:
足首が固定されていますが、登りには邪魔に感じられるかもしれません。しかし登山は下りの時にケガが多い。石ころを不用意に踏んで足首をひねったり、そういうひねりに対して足首が固定されるようになっています

ポイントは「ゆっくりべた足で登る」

装備をそろえ、いよいよ登山開始。山ではどんな点に注意すれば良いのか、山岳ガイドの秋山さんに聞いた。

日本山岳ガイド協会・秋山和敏さん:
山を登る場合は、ゆっくり登ります。ゆっくりとしたスピードで汗をかかないよう。あとは心拍数を一定に保つ

山登りのポイントとして挙げられるのが、まず疲れないこと。心拍数を上げないようにゆっくり歩くことで疲れにくくなる。そして、汗をかかない早さを心がけること。大量の汗をかくと脱水症状や低体温症の危険があるという。さらに…。

日本山岳ガイド協会・秋山和敏さん:
(足を後ろに)蹴り出す方がいます。これは蹴る時に滑ってしまいますので、できるだけ“べた足”でゆっくり登ります

足裏全体を地面に置いて、後ろに蹴り出さない。これが山での基本的な歩き方だ。登り下りの激しい登山は、実は想像以上のカロリーを消費する。

日本山岳ガイド協会・秋山和敏さん:
フルマラソンとあまり変わりがないと言われています。目安として5という数字を覚えてください。5×行動時間×体重

例えば60kgの人が6時間登山をすると5×6時間×60㎏で約1,800kcalが消費される。成人男性の1日に必要とされる量が約2,000kcalなので、そのほとんどが消費されることになる。

そのため、登山の際はピーナッツやチョコバーなど高カロリーのものを「行動食」として用意することが推奨される。定期的なエネルギー補給は持久力アップにもつながるのだ。

秋山さんのザックの中身
秋山さんのザックの中身

秋山さんのザックには、地図にコンパス、救急キットに雨具やテント、そして携帯トイレまで入っていた。

遭難のリスク高まる「道迷い」にご注意

しばらくして分岐点に到着した。登る道とは反対側の道にも踏み跡がある。しかし、秋山さんがスマホでダウンロードできる地図アプリで確認すると、別の道を示していた。

日本山岳ガイド協会・秋山和敏さん:
地図アプリを見て分岐を確認していくのが安全登山の第一歩なんです

登山ルートから外れ、現在地が分からなくなってしまうことで起こる「道迷い」。実は、遭難事故の約7割が、この道迷いが原因だ。

さらに、道迷いのリスクはこんなところにも…。

日本山岳ガイド協会・秋山和敏さん:
こちら見ていただくと踏み跡があります。この踏み跡がある理由なんですが、宝満山の反対側に大根地山があります。その方向へ進んだ道です。ということで、こういう道ができてしまう

そこは正式な登山道ではなく、登山者によって踏み固められた道だった。

日本山岳ガイド協会・秋山和敏さん:
こういうところにはテープが張ってあります。テープが張ってあって登山道を示すものがあるんですが、ここには全くない

正式な登山道ではない道に入ることでも道迷いのリスクは高まる。もし道に迷った場合はどうすれば良いのか。

日本山岳ガイド協会・秋山和敏さん:
登ります。山は一転集中で、どんどん登っていけば山頂に着きます。下りの方はどんどん分岐をしていくので、方向を間違えると全然違うところに出てしまいます。絶対に下ることはやめてください。下ると深みにはまってしまうので

この日はあいにく、霧で視界は開けなかったが、晴れた日の宝満山の頂上からの眺望は九州一と言われるほど素晴らしく、太宰府から博多湾、玄界灘の景色を一望できる。

自然を肌で感じ、四季折々の山の美しい景色を楽しむことができる登山。この登山を楽しい思い出にするためにも、しっかりとした準備が必要となる。

日本山岳ガイド協会・秋山和敏さん:
山の天候は結構変わりやすいし、局地的なものがありますので、そういうものに対して最悪の準備をしておくことが一番の安全につながると思います

また、山に登る前にやっておきたいのが「登山届」の提出だ。福岡県警のウェブサイトから電子申請が可能で、日時や登山ルートなどを記入して提出する。

2022年の福岡県の山岳遭難の件数は54件あったが、これは過去10年で最多だ。そしてこのうち「登山届」を提出していたのは、わずか1件だった。

福岡県警は「遭難した場合に、この登山届に記載された登山ルートをもとに捜索した方が速やかな発見につながる。ぜひ提出を」と呼びかけている。

(テレビ西日本)

テレビ西日本
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