日本の自殺者は毎年2万人を超え、主要先進国の中で最も深刻です。さまざまな啓発活動が行われる中、自らの体験を「絵本」として発信、自殺の抑止につなげる取り組みが注目されています。
(取材・執筆:フジテレビアナウンサー 生野陽子)
絵本「飛べない鳥のかけるん」
若いころの“辛い体験”を題材にした、一冊の絵本「飛べない鳥のかけるん」。

「僕は小さな鳥の『かけるん』。他の鳥はみんな自由に空を飛んでいるのに、僕だけはうまく飛べない。
飛べない鳥に生きてる意味なんてない。
一度は死んでしまおうとしたこともありました」
(「飛べない鳥のかけるん」より)
原作者の「かけるん」さんは、20代で統合失調症を発症しました。
原作者 かけるんさん:
自分のことを「お前はバカか」と言われたことがあって、なんかその言葉がすごくリフレインするようになって、幻聴とか幻覚が見えるようになってしまって、人を殺したり自死してしまうような幻聴幻覚だったんですね。

“心のSOS”を感じた、かけるんさん。
「『お前は馬鹿か!』と怒るお父さん。かけるんは言われた通りにしただけなのに、どうしていいかわからなくなってしまいました」
(「飛べない鳥のかけるん」より)

統合失調症は、自分の考えや行動をうまくまとめることができなくなる心の病です。
原作者 かけるんさん:
このままではひょっとしたら人を殺してしまうかもしれないと思って、それよりはと思って自死を考えるようになってしまった。

絵本のイラストを描いた片岡洋子さんは、両親との関係に悩み、統合失調症を発症。
周囲に結婚を反対されたことも、症状悪化の原因になりました。
イラスト 片岡洋子さん:
本当に追い詰められて、ひどく孤独になってしまって、消えたいと思うことが、もうそれしか考えられなくなった時期がありました。
立ち直れた体験談は自殺抑止につながる可能性
2人が立ち直れた理由は何だったのでしょうか?
片岡洋子さん:
結婚しようって、自分の意志を貫こうと決心したのが、一番立ち直ったきっかけだと思います。
かけるんさん:
お父さんが「死ぬなら一緒に死んでやるよ」とかですね。友達がですね、「あなたにも生きててほしい」とか。それが大きなきっかけで、それからまた生きようと思ったんですよね。

絵本の中で、主人公「かけるん」は。
「きっと、誰かの役に立つはず。
そう思って、少しずつ自分のペースで生きている証を残すようになりました」
そんな、ある日。
「あそこにいる鳥、すごく綺麗な羽!
かけるんの羽は綺麗な虹色をしていました。心の涙で濡れた羽が虹色に輝くようになっていたのです。
その日から、かけるんは飛べない羽に自信を持って生きていくようになりました。」
(「飛べない鳥のかけるん」より)

自殺を踏みとどまった人の物語や体験談は、“パパゲーノ効果”と呼ばれ、自殺の抑止につながる可能性があるとして、研究が進んでいます。
かけるんさん:
やっぱり「生きているだけでもうけもの」、新しい自分を見つけるチャンスだと思って、今日ちょっと苦しいことがあったとしても、明日ちょっとしたご褒美を自分にあげたりして、それで今日のり切って、そうしたら、また新しい自分が見えてくるのかなと。
片岡洋子さん:
本当に強くなくていいし、弱さもつらさも財産だって思える時が来ると思います。人生にリセットボタンはないし、自分を見捨てないでほしいと心から伝えたいです。

お二人は誰かの役に立てればと勇気を出して取材を受けてくださいました。
身近な人がいつもと違ったら声をかけてみる。まずは行動に移すことで寄り添いあえる環境になるかもしれません。
(「イット!」 9月10日放送より)
(取材協力:株式会社パパゲーノ)
「自殺予防週間」(9月10日~16日)に合わせてフジテレビアナウンサーの取材記事をシリーズで掲載します。