8月24日に海への放出が決まった原発の処理水。中国は「汚染水」と呼んでいるが、「処理水」と「汚染水」は別のもの。どんなものなので・なぜ処分が必要なのか、あなたは説明できますか?

”処理水”について説明できる?

福島県新地町の海釣り公園で行われた「ふくしま夏休み海釣り大会」は、”常磐もの”の美味しさや福島の海の魅力を知ってもらおうと企画された。この参加者に、処理水について説明できるか聞いてみた。

常磐ものの魅力を伝える釣イベントで聞いた「処理水 説明できますか?」
常磐ものの魅力を伝える釣イベントで聞いた「処理水 説明できますか?」
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宮城県から訪れた人は「説明は難しい」、中学2年生は「あんまりできない。少し放射性物質があるというのは説明できる」、東京から訪れた人は「安全に放出しても良い基準に満たされた水ということですね、要は。汚染水とはまた違いますよね」と話した。

「説明は難しい」「少し放射性物質がある」「基準が満たされた水」との回答
「説明は難しい」「少し放射性物質がある」「基準が満たされた水」との回答

殆どの放射性物質を取り除いたもの

原発では、溶け落ちた燃料デブリを冷やすために入れている水や、流れ込んだ雨水・地下水などが、放射性物質を含む「汚染水」となって毎日90トン発生している。この汚染水を「アルプス」と呼ばれる浄化設備に通して、ほとんどの放射性物質を取り除いた後に残るのが「処理水」 ただし、トリチウムという放射性物質は取り除くことができない。

汚染水を浄化しほとんどの放射性物質を取り除いたものが処理水
汚染水を浄化しほとんどの放射性物質を取り除いたものが処理水

厳格な基準で放出

海に放出する前には、取り除けないトリチウムなどの濃度を下げるために「処理水」を海水で100倍以上に薄める。トリチウムの濃度の基準は、運転中の原発が海に放出する場合に適用する国の基準の40分の1、WHOが示す飲料水の基準の7分の1としている。

トリチウムの濃度の基準はWHOが示す飲料水の基準の7分の1で放出
トリチウムの濃度の基準はWHOが示す飲料水の基準の7分の1で放出

世界の原子力施設でも放出

世界の原子力関連施設でもトリチウムが含まれた水が海へと放出されている。イギリスのセラフィールド再処理施設では186兆ベクレル(2020年)、フランスのラ・アーグ再処理施設では1京ベクレル(2021年)、処理水放出を批判する中国も陽江原発では112兆ベクレル(2021年)が放出されている。ちなみに福島第一原発は年間22兆ベクレル未満。

福島第一原発は年間22兆ベクレル未満
福島第一原発は年間22兆ベクレル未満

事故炉も通常炉も同じ判断

資源エネルギー庁によると、トリチウムのエネルギーは非常に弱く、外部被爆はほぼ発生しないという。世界の原発などでは、発電の過程でトリチウムが発生し、海などに放出されている。一方 福島第一原発は、浄化しているけれども原子炉建屋を通った水である。

トリチウムのエネルギーは非常に弱く外部被爆はほぼ発生しない
トリチウムのエネルギーは非常に弱く外部被爆はほぼ発生しない

経済産業省は「福島第一原発の処理水も各国の施設から排出される水も、国際的な基準を踏まえて定められた各国の規制基準を守って排出される。事故炉か通常炉か問わず、含まれるすべての放射性物質の放射線影響の合計で判断される」という。

事故炉も通常炉も各国の規制基準を守って排出
事故炉も通常炉も各国の規制基準を守って排出

影響は0.00003ミリシーベルト

処理水の放出による放射線の影響について、経済産業省によると、1人あたりの自然放射線は日本の年間平均で2.1ミリシーベルト。歯のレントゲンで0.01ミリシーベルト、食べ物からの自然放射線が年間0.99ミリシーベルト、CT検査を受けると2.4~12.9ミリシーベルト。処理水を海に放出した場合、一年間の影響は0.000002~0.00003ミリシーベルトとしている。

処理水を海に放出した場合 一年間の影響は0.000002~0.00003ミリシーベルト
処理水を海に放出した場合 一年間の影響は0.000002~0.00003ミリシーベルト

海底トンネルで沖合い1キロから

薄めた処理水は、沖合1キロの海底から放出する。この1キロというのは、放出した水をそのまま取り込まない距離で、同時に「漁を行うエリアより第一原発に近い」という条件も満たす距離になっている。

放出した水をそのまま取り込まない距離で 漁を行うエリアより第一原発に近い
放出した水をそのまま取り込まない距離で 漁を行うエリアより第一原発に近い

海洋放出が必要な理由

福島第一原発には、これ以上増やせないほどタンクが設置されていて、保管している処理水は約134万トン、容量の98%に迫っている。廃炉の本丸・燃料デブリの取り出しを本格的に進めるためには、十分なスペースが必要とされていて、このスペースを確保するためにも処理水を処分する必要に迫られている。

貯蔵できる量がギリギリの状態に
貯蔵できる量がギリギリの状態に

技術・設備面は合格・お墨付き

処理水を薄める工程などでトラブルがおきた場合には、緊急遮断弁が作動して放出が止まる仕組み。技術・設備面は原子力規制委員会の検査に合格、IAEA=国際原子力機関からは「国際的な基準に適合している」とのお墨付きを得ている。

原子力規制員会の検査に合格 IAEAからは「国際的な基準に適合」
原子力規制員会の検査に合格 IAEAからは「国際的な基準に適合」

こういった情報が正しいという背景には、国や東京電力の「信頼」が欠かせない。漁業者に対して、賠償すれば良いといった考えではなく、生業にやりがいを持って継続できるよう。また消費者には魚を喜んで買ってもらうために、正しく丁寧な情報発信が必要なことは言うまでもない。

(福島テレビ)

福島テレビ
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