岸田首相・バイデン米大統領・尹錫悦韓国大統領の3者は、米国・ワシントン郊外の大統領の別荘「キャンプデービッド」で日米韓首脳会談を行い、複数の成果文書を発表した。会談では、安全保障分野における協力を「高みに引き上げる」ことで一致した。岸田首相は、今回の会談を「日米韓のパートナーシップの新時代」と位置づけ、3首脳は口を揃え「歴史的」と意義をアピールして見せた。

岸田首相は、今回の会談を「日米韓のパートナーシップの新時代」と位置づけた
岸田首相は、今回の会談を「日米韓のパートナーシップの新時代」と位置づけた
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同会談では、これまで強化してきた日米同盟・米韓同盟を土台として、より同じ方向性でのコミットメントを目指すための中長期的なビジョン「キャンプ・デービッド原則」と、今回の会談内容をまとめ具体的な行動指針を盛り込んだ「キャンプ・デービッド精神」などの成果文書をとりまとめた。これらの文書について、外務省は「3カ国が同じ方向を向いて連携しようという羅針盤のようなもの。特に安全保障の観点では、画期的なものになった」と説明した。

「キャンプ・デービッド原則」“日米韓が一丸になったとき力はさらに大きなものへ”

「キャンプ・デービッド原則」では、冒頭に「3カ国のパートナーシップが、世界の繁栄を促進させるための礎」とうたった。日米韓3国は全体としての〝同盟関係〟にはないものの、この3カ国の関係を「時の政権によって関係が左右されないように『制度化』する」(政府関係者)狙いがある。

そして北朝鮮や中国、ロシアの行動への牽制などを念頭に、「力または威圧によるいかなる一方的な現状変更の試みにも強く反対する」「法の支配を促進し、地域と国際の安全を確保することを追求する」とうたい、「台湾海峡の平和と安定の重要性を再確認する」ことも盛り込んだ。最後には、「何よりも、日米韓が一丸となったとき、3カ国とインド太平洋の力はさらに大きなものになる」と締めくくった。

具体的な協力内容「キャンプ・デービッド精神」中国を初めて名指し

この原則に基づき具体的な協力内容を明記した「キャンプ・デービッド精神」は、その目的を「日米韓パートナップシップの新時代の幕を開くため」と位置づけた。その上で「ロシアによるウクライナに対する侵略戦争や核による挑発が我々を試している歴史の分岐点」において、キャンプデービッドに集結したと説明。この機会を「団結および連携した行動を必要とするとき」という決意を示した。その上で、「自由で開かれたインド太平洋が、我々の共通目的だ」と訴えた。

今回の共同文書では、初めて「中国」を名指しした
今回の共同文書では、初めて「中国」を名指しした

そして今回の共同文書では、初めて「中国」を名指しした。文書では「南シナ海において最近我々が目の当たりにした中国による不法な海洋権益に関する主張を後押しする危険かつ攻撃的な行動に関して各国が公に表明した立場を想起し、インド太平洋地域の水域におけるいかなる一方的な現状変更の試みにも強く反対する」とした。

さらに今回、初めての取り組みとして、北朝鮮の資金獲得の元となっている不正なサイバー活動に関して「懸念」を表明、「制裁の回避を阻止するための新たなワーキンググループを立ち上げる」ことを打ち出した。

そのほかの注目点も含め多岐にわたる「キャンプ・デービッド精神」は、主に以下のように構成されている。

■「協議」へのコミットメント
3カ国の共通の利益や安全保障に影響を及ぼす地域の挑戦、挑発、脅威に対する3カ国の対応を連携させるため、3カ国政府が相互に迅速な形で協議することにコミットする

■日米韓首脳会合の「少なくとも年に1回」の開催 
今回の3カ国首脳会合を活かし、「少なくとも年に1度」、対面での日米韓首脳会合を実施。また、日米韓外相・防衛相・財務相・経産相・国家安全保障担当局長会合も「少なくとも年に1度」持ち回りで主催

■日米韓インド太平洋対話
インド太平洋に対する3か国それぞれのアプローチを連携させるため、局長級などの「インド太平洋対話」を年に1度開催。

■外部からの情報操作への対応
外部からの情報操作に対処するための連携

■海洋安全保障分野の日米韓協力枠組み
東南アジア、太平洋島嶼国に対する能力構築について3カ国で協調するための枠組みの設立

■北朝鮮のサイバー活動に関する3カ国ワーキンググループ
北朝鮮による不法な収入獲得や悪意あるサイバー活動に対し、連携して対抗するためのワーキンググループの設立

■3カ国共同訓練計画
3カ国の共同訓練を複数領域で毎年実施することなどを含めた「複数年の共同訓練計画」を策定

■北朝鮮のミサイル警戒データ共有に係る協力強化
北朝鮮のミサイル警戒情報をリアルタイムで共有するため、2023年末までの運用を再確認する
※2022年11月に合意した2023年末までの運用開始に向け、今回「会場弾道ミサイル防衛試験を実施した」と明記

■サプライチェーン早期警戒システム(EWS)の試行
重要鉱物や蓄電池などの優先物資について、重要なサプライチェーンに混乱が生じた場合、3カ国で迅速に情報共有を行うためのメカニズムを構築

■国立研究所間や人工知能(AI)を含む新興技術などでの協力
これまでの3カ国の枠組みは〝対北朝鮮〟の課題がメインテーマだったが、今回の共同文書には〝対北朝鮮〟の枠を超え、経済安保やAIや国立研究所などの学術面での協力など、多分野に協力の範囲が広がっている。同行筋は、「3カ国が一体となって中国に対峙することのメッセージを打ち出したかった」と強調。特に、「インド太平洋対話」では、海洋進出を進める中国に対峙するため、ASEANや島嶼国地域を特に支援していくことで一致した。

静寂な雰囲気でも“真面目な議論” 濃密な2時間超

バイデン大統領は今回、ワシントン郊外にある大統領の別荘「キャンプデービッド」に、就任後最初の外国の賓客として岸田首相と尹大統領を招待した。また、国際会議の場以外で3首脳がこの会談のためだけに集まる「単独開催」の初事例となった。国際会議の期間中の3カ国会合はどうしても短時間になりやすく、バイデン大統領は、森林に囲まれた環境下でリラックスした雰囲気で会談しようと日韓首脳を招待したのだ。3首脳はノーネクタイ姿で、バイデン氏は日韓両首脳の肩に腕を回し、3カ国の親密ぶりをアピール。ワーキングランチを含め3首脳は約2時間会談した。

森林に囲まれた環境で…3首脳はノーネクタイ姿
森林に囲まれた環境で…3首脳はノーネクタイ姿

一連の外交日程を終え、首相周辺は「ワーキングランチでも、3首脳は、地域情勢に関し真面目な議論を交わした。今回の会談は本当に歴史的なものになるだろう」と振り返った。主催したバイデン大統領は会談後の共同会見で、「私たちは、団結を揺るぎないものとし、比類なき決意をもって、ともにその可能性をつかみ続けるつもりだ。これは1日、1週間、1カ月の話ではない。何十年、何十年という関係を築いていくためのもだ」と宣言した。今回の会談が、今後の国際政治上真の意味で〝歴史的〟なものになるのか。来年には米大統領選や韓国の総選挙も控える。今後、各国で仮に政権が変わったとしても、今回路線が敷かれた協力関係を維持できるのか、その地盤作りが試されている。

(フジテレビ政治部 阿部桃子)

阿部桃子
阿部桃子

ニュース総局政治部 平河クラブ 自民党茂木幹事長担当。1994年福岡県生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後、2017年フジテレビ入社。安倍元首相番や河野規制改革相など経て現職。