性的マイノリティーへの理解を広めることを目的とした「LGBT理解増進法」が2023年6月に国会で成立したことを受け、石川県も独自の条例案を9月議会で提出する構えだ。石川県内の高校生もLGBTQ+への理解を深めようと動き始めたが、思わぬ壁が立ちはだかった。

当事者に話を聞きたい高校生たち

「こんにちは。金沢泉丘高校の探求H班です。きょうは僕たちが企画したイベントに参加していただき、ありがとうございます」。2023年7月、石川県金沢市内の施設に夏休み中の生徒たちが集まった。金沢泉丘高校の生徒たちは、授業の一環でジェンダー問題について調べていて、当事者に直接話を聞くイベントを企画した。

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生徒の一人は「日本のLGBTQ+の人の割合がどれくらいか分かりますか。調査によっては約10%と言われています」などとこれまでに学んだ知識を発表した。そのうえで生徒たちは当事者や支援者に聞きたかったことを尋ねた。生徒が「困ったことはありますか?」と聞くと、当事者の一人は「困ったこと?うん、全て困っとる。トイレ問題とかね、色々」と答えた。

学内に当事者を招くことはNG?

実はこのイベントの背景には、ある問題があった。性的マイノリティーへの理解を広めることを目的とした「LGBT理解増進法」が国会で成立し、石川県も9月議会で独自の条例案を提出しようと有識者を交えた会議を開いている。

この中で出席者から次のような発言があったのだ。「県立の高校生が、総合的な探求の時間でLGBTQ+のことを学びたいと提案したが、最終的に学校側から『LGBTQ+のことは、政治的中立を守るべき学内においては当事者の方を呼ぶことはできません』と言われて断られてしまったと、生徒さんからこちらに相談がありました。LGBTQ+の問題は政治的中立、政治的な話題ではなく、もう本当に人権の話ですので」。発言したのは金沢プライドパレードなどを企画する松中権さん。その松中さんに相談を持ちかけたのが、イベントを企画した金沢泉丘高校の生徒だったのだ。

松中権さん
松中権さん

改めて生徒に話を聞くと「最初は学校で企画しようとしていたんですけど、校長先生とかに止められてしまって。LGBTQ+の当事者団体の人を学校に呼ぶのはダメと言われてしまったので。学校でイベントを開催することはできませんでした」と経緯を教えてくれた。LGBTQ+の当事者を呼びたいという生徒の提案をストップしたのは学校だというのだ。理由は一体、何なのか。

何が問題だったのか

金沢泉丘高校の岡橋勇侍校長に話を聞いた。岡橋校長は「生徒たちから、当事者をお呼びして他の生徒たちに現状をダイレクトに伝えたいという提案があった。確かに当事者の方をお呼びして直接話してもらうというのは、それ自体は国の法律も制定され、県の条例も制定していく中で、理解促進ということではもちろん否定はしないんですが、まずは生徒たちが調べたことを、生徒たちの言葉で他の生徒に発信すべきではないかと。そういった趣旨で今回の提案はストップという流れなんです」と、当事者を呼ぶことを止めたことは認めたうえで、「政治的中立」の問題が止めた理由ではないとした。

岡橋勇侍校長
岡橋勇侍校長

この事態について、国会議員時代から「LGBT理解増進法」の法案作りに関わってきた馳浩石川県知事は「基本的にまず、学校側の判断を尊重したいと思います。生徒から申し出があったら、できる限りその申し出に応えて欲しいと同時に、講師をされる方がどういう方なのかということも踏まえて総合的に学校長が判断される」と認識を示した。

馳浩石川県知事
馳浩石川県知事

探究活動として尊重できないか

この学校の判断について、北陸学院大学の村井万寿夫教授は「当事者を招くことを“探究活動の一つのプロセス”と捉え、その後どうしていくことが課題を発見、解決していくことにつながるのか。これに対し、先生のアドバイスを基にさらに進めていく。この“途中の過程”だという捉え方を先生たちもしていただきたかったなと思います。ストップしたのは、私から見たらもったいないし、残念だなと思うんですね」と指摘した。

村井万寿夫教授
村井万寿夫教授

当事者を学校に呼べなかったため、生徒が自主的な活動として夏休み中に開いた今回のイベント。生徒は「学校でやった方がみんなも来やすいし、僕たちだけでやるよりも当事者の方に来ていただいた方が色んなお話が聞けて学びが深くなると思う。学校でやれたらよかったなという感じですね」と残念がっていた。LGBTQ+の当事者を学校に招くことがタブーであってはならない。

(石川テレビ)

石川テレビ
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