もし、自分の写真が勝手にSNSにアップされていたらどうなるのか。もし、「もうお母さんの子どもではない」と言われてしまったらどうなるのか。

子どもが直面しそうなケースを取り上げ、民法ではどんな権利を侵害してしまうのかを解説する、司法書士・岡信太郎さんの著書『もうすぐ大人になる君が知っておくべき 13歳からの民法』(扶桑社)から、肖像権について一部抜粋・再編集して紹介する。

勝手に写真をアップするのは肖像権の侵害

SNSのグループトークを見て、ショックを受けてしまいました。

スマホで誰かが勝手に撮った僕の写真がアップされていたのです。しかも、変な顔に加工されていました。

アップした友達に、すぐに削除するよう伝えましたが、今度はメッセージに「拡散してやる」「自分のアカウントにも載せる」など、画像を消すどころか、ほかのメンバーもよってたかってネタにしていたのです。

その後も、「消えろ」「ウザい」など次々と嫌なメッセージが発信されていました。

僕の写真を勝手にSNSにアップされた!
→完全にアウトです。肖像権の侵害になります

これは完全にアウトで、大問題です。

私たちには、自分の顔や姿を無断で撮られたり、それを勝手に公表されたり、利用されないよう「肖像権」があります。

このケースのように、SNSに勝手に写真をアップする行為は、肖像権の侵害になります。

「プライバシー」という言葉があるように、その人の個人的な生活に関する情報を、他人が勝手に公表することは許されないとされています。

一方的にウワサを広めたり、人に知られたくない情報を無断で流すことはプライバシーの侵害に当たります。

一度ネットに情報を上げてしまうと、それが拡散され、完全に削除することが難しいです。

相手の心を傷つけてしまったら、損害賠償を請求されることも(画像:イメージ)
相手の心を傷つけてしまったら、損害賠償を請求されることも(画像:イメージ)
この記事の画像(5枚)

肖像権やプライバシーの侵害により、相手の心を傷つけてしまった場合には、損害賠償を請求される可能性があります。

また、民法上の責任だけでなく、「名誉毀損」「侮辱罪」といった刑法上の責任を問われることもあります。

悪口や根拠のないウソを広めて相手を誹謗中傷すれば、「名誉棄損罪」に。「消えろ」「ウザい」など抽象的な言い回しで相手を攻撃すれば「侮辱罪」となる恐れがあります。

ネットでの攻撃も“いじめ”になる

SNSは気軽にいつでも、友達と連絡が取れ、自分の好きな情報を得るだけでなく、自分からも情報を発信することができます。

一方で、いじめのために利用するケースが目立ってきています。

SNSで誰かの秘密をバラしたり、ウソの情報を拡散したり、特定の人をあえてグループに入れずに仲間外れにしたり、なかには直接嫌がらせのメッセージを発信することもあります。本来の使用目的から大きく外れてしまっているのです。

ネット上で悪口などを言うことは“いじめ”に該当する(画像:イメージ)
ネット上で悪口などを言うことは“いじめ”に該当する(画像:イメージ)

そもそも、ネット上で嫌がらせや悪口を言って誰かを攻撃することは、れっきとしたいじめに該当することを知っていますか。

いじめを防止するための法律「いじめ防止対策推進法」では、ネットでのいじめにもこの法律が適用されると定められています(※いじめを行った児童に対し、出席停止措置などがあります)。

暴力などの肉体的攻撃、暴言などの心理的攻撃、そして、ネット上での攻撃がいじめになることを、しっかりと認識しておきましょう。

攻撃を受けた人のなかには、精神的な苦痛をしいられたり、外出できなくなってしまったり、最悪の場合、自殺に追い込まれたりするケースも発生しています。

こうなったら、もう「いじめ」で済まされる話ではありません。民法だけでなく刑法上の罪になることを忘れないようにしましょう。

未成年がトラブルに巻き込まれることも

いじめ以外にもSNSでは、未成年者がトラブルに巻き込まれる被害が急増しています。

SNSを通じて面識のない大人に呼び出されて連れ回されたり、性被害に遭ってしまう事件が全国で発生しているのです。

便利な半面、誰とでもつながれることで、未成年者を狙う大人に目をつけられてしまう恐れがあります。

SNSにアップした画像から居場所が特定されることも(画像:イメージ)
SNSにアップした画像から居場所が特定されることも(画像:イメージ)

SNSにアップした画像の風景などから場所が特定されてしまうことがあるので、SNSの利用は慎重にしないといけないのです。

ところが、未成年者のほうから、SNSで知り合った人と連絡を取り合うようになったり、安易に会ったりする現状があります。

「家出をしたい」「一緒にゲームをしたい」などと発信し、トラブルを助長しているという指摘もあります。

しかし、親には子どもに対する「親権」があります。それを他人が侵害する行為は決して許されないため、未成年者誘拐などの罪に問われる可能性があります。

子どもの人権や親の親権を踏みにじる大人がいるので注意しましょう。トラブルに巻き込まれてからでは遅いのです。

もうお母さんの子ではないの?

お母さんと言い合いになったことで、「もうお母さんの子どもではない」と言われてしまったら、不安になってしまう子もいるのではないでしょうか。

友達と遊ぶのが楽しくて、しばらく塾に行っていないことがバレてしまい、お母さんに叱られました。あまりにしつこいから、思わず「うるさいなあ、静かにしてよ、おばさん」と言ってしまいました。

そうしたらお母さんが「なんてこと言うの!?あなたはもうお母さんの子どもではありません。好きになさい!」とカンカンに。“おばさん”は言いすぎだったけど、このままお母さんの子どもではなくなってしまうのでしょうか。

「あなたはもう私の子じゃない!」とお母さんに言われてしまい…。
→大丈夫、親子関係はなくなりません

心配しなくても大丈夫です。「親」であるお父さんやお母さんのことは、民法では「親権者」といいます。

親には、親権といって未成年の子どもを育てる権利と義務があるのです。そして、婚姻中はお父さんとお母さんが共同で親権を行うこととされています。

親権の内容は、子どもの財産を保護し管理する「財産管理権」と、子どもを養育する「身上監護権」に分かれています。

君のお母さんは、しっかり勉強してほしいから厳しく叱ってしまったのだと思います。育ててくれるお母さんに、そんなひどいことを言うのはよくないですね。お母さんは、君のことを生まれてきてくれてありがとう、といつも思っているはずです。

『もうすぐ大人になる君が知っておくべき 13歳からの民法』(扶桑社)
『もうすぐ大人になる君が知っておくべき 13歳からの民法』(扶桑社)
岡信太郎
岡信太郎

司法書士、合気道家、坂本龍馬研究家。大学卒業後、司法書士のぞみ総合事務所を開設。政令指定都市の中で最も高齢化が進む北九州市で相続・遺言・成年後見業務を多数扱う。著書には『済ませておきたい死後の手続き 認知症時代の安心相続術』(角川新書)、『子どもなくても老後安心読本 相続、遺言、後見、葬式…』(朝日新書)、『財産消滅 老後の過酷な現実と財産を守る10の対策』(ポプラ社)など。