私たちにとって身近な法律のひとつが「民法」。

2022年4月から民法が改正され、成年年齢も18歳に変わり、大人になる前から法的な知識を身につけることが重要になってきた。

今回は、子どもが直面しそうなケース、「自転車に乗って相手にケガをさせてしまったら」。

司法書士・岡信太郎さんの著書『もうすぐ大人になる君が知っておくべき 13歳からの民法』(扶桑社)から、一部抜粋・再編集して紹介する。

自転車で事故を起こしてしまったら

先生から、隣のクラスの生徒が自転車で塾に向かっていたときに、おばあさんにぶつかって大ケガをさせてしまったという報告がありました。

おばあさんが歩道のゴミを拾っていたところに自転車で衝突したようです。

問題は、本人がスマートフォンを片手に“ながら運転”をしていて前を見ていなかったこと。

自分でもやってしまいそうなので気をつけなきゃと思いますが、このような事故を起こしてしまったら、どうなりますか。

スマホを見ながら自転車に乗り、相手にケガをさせてしまった…。
→明らかな「不法行為」です。治療費などを払わなければいけません

わざとでなくても、自分の不注意で他人にケガをさせてしまった場合は「不法行為」となり、これによって生じた損害に対してお金を支払わなければなりません。

民法では第709条「不法行為による損害賠償」にあたります。

ここでいう「不注意」は、被害が起こると予想でき、避けようと思えば避けることができたのに、それをしなかったことをいいます。

自分の不注意によって相手をケガさせてしまったら…(画像:イメージ)
自分の不注意によって相手をケガさせてしまったら…(画像:イメージ)
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今回のケースは、明らかに「不注意」によって生じたことなので、おばあさんのケガの治療費などは支払わなければいけません。ほかに「慰謝料」、心の傷に対する支払い責任が発生することもあります。

自転車に乗る際は、前方をよく確認し、スピードを落とすなり、歩道では降りて自転車を押すことが求められます。

スマホを見ながら、あるいは操作しながら運転することは、わき見運転となるばかりか、ブレーキをすぐにかけられない状態を自ら作り出したともいえます。

交通ルールを守っていない危険な運転とみなされる可能性が非常に高く、民法上の責任だけでなく刑法上の責任を問われることもあります。

相手の生命をおびやかす重大な事故につながる可能性があることを、忘れてはいけませんね。

自転車は「軽車両」で自動車の仲間

自転車は気軽に乗れることができ、免許もいらないため、自転車という乗り物の位置づけを軽く考えてはいないでしょうか。

交通ルールを定めた「道路交通法」で自転車は「軽車両」とされているのです。つまり、自転車は自動車の仲間なのです。

そのため、自転車についても、さまざまなルールが定められています。たとえば、2人乗りをすることは原則として禁止されています。これに違反すると2万円以下の罰金または科料(罰金も科料も刑罰の一種)とされています。

自転車は「自動車」の仲間。ケガをさせたら取り返しのつかないことになる(画像:イメージ)
自転車は「自動車」の仲間。ケガをさせたら取り返しのつかないことになる(画像:イメージ)

雨が降っているからといって傘を差して運転したり、スマホを見ながら運転することも禁止されています。音楽を聴くためにイヤホンをして運転することも認められていません。

お年寄りや小さい子どもをはじめ、ほかの人にケガをさせてしまったら取り返しのつかないことになることを忘れてはいけません。

実際に、こんな事件が起きました。2008年に自転車で走行していた高校生が車道を斜めに横断し、会社員の自転車と衝突しました。

これにより、会社員に重い後遺障害が出てしまいました。高校生が会社員に支払った賠償金額は9266万円と言われています。

また、2017年には、スマホを操作しながら自転車を運転していた当時20歳の女子大学生が、歩道を歩いていた77歳の女性に衝突して死亡させるという事故が発生しました。重過失致死罪(5年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金)が認定されています。

近年は、自転車事故が後を絶たず、2015年に道路交通法が改正され、自転車に乗るときのルールがさらに厳しくなっています。

自転車を運転する際には、ルールを守り、周囲への安全に配慮する義務があることを覚えておきましょう。

『もうすぐ大人になる君が知っておくべき 13歳からの民法』(扶桑社)
『もうすぐ大人になる君が知っておくべき 13歳からの民法』(扶桑社)
岡信太郎
岡信太郎

司法書士、合気道家、坂本龍馬研究家。大学卒業後、司法書士のぞみ総合事務所を開設。政令指定都市の中で最も高齢化が進む北九州市で相続・遺言・成年後見業務を多数扱う。著書には『済ませておきたい死後の手続き 認知症時代の安心相続術』(角川新書)、『子どもなくても老後安心読本 相続、遺言、後見、葬式…』(朝日新書)、『財産消滅 老後の過酷な現実と財産を守る10の対策』(ポプラ社)など。