朝鮮戦争の休戦協定締結から70年目の節目にあたる2023年7月27日を、北朝鮮は「祖国解放戦争勝利70周年」と位置付け、「朝鮮労働党の指導に従い、自主、自立、自衛の旗を高く掲げ、英雄朝鮮の偉大な継承の歴史と伝統を輝かせながら勝利からより大きな勝利へと疾風怒涛の栄光あふれる行程」(労働新聞 7月28日付)と定義づけ、7月27日夜、記念のパレードを実施した。

祖国解放戦争勝利70周年記念パレード。矢印は朝鮮戦争に参加したものと同型のT-34戦車(労働新聞・7月28日)
祖国解放戦争勝利70周年記念パレード。矢印は朝鮮戦争に参加したものと同型のT-34戦車(労働新聞・7月28日)
この記事の画像(30枚)

上記のような位置づけのためか、パレードにはT-34戦車など、朝鮮戦争で北朝鮮が使用した装備も参加していた。

壇上に並ぶショイグ露国防相と金正恩総書記、中国の李鴻忠全人代副委員長(労働新聞・7月28日)
壇上に並ぶショイグ露国防相と金正恩総書記、中国の李鴻忠全人代副委員長(労働新聞・7月28日)

パレードの会場を見下ろす壇上に立った北朝鮮の最高指導者、金正恩総書記の左右には、ロシアのショイグ国防相、それに、中国の代表団を率いた李鴻忠全国人民代表大会(全人代)副委員長が並び、北朝鮮は、中国、ロシアとの関係強化を強調しているかのようだった。

夜空を彩るSu-25攻撃機とみられる航空機の編隊飛行(労働新聞・7月28日)
夜空を彩るSu-25攻撃機とみられる航空機の編隊飛行(労働新聞・7月28日)

特に、北朝鮮で金正恩政権が発足した2012年以降、北朝鮮軍のパレードにロシアの代表団が参加するのは極めて珍しい。

パレード会場となった平壌の金日成広場では、Su-25攻撃機とみられる航空機による編隊飛行が夜空を彩っていたが、このパレードに参加した装備で北朝鮮メディアが特筆していたのが「主体朝鮮の勝利と栄光の7.27を世代を超えて慶祝する人民の歓喜を倍増させ、新たに開発生産され我が空軍に装備する戦略無人偵察機と多目的攻撃型無人機が広場の上空を旋回しながらデモ飛行した」(労働新聞7月28日付)という、2種類の無人機だった。

平壌の空を飛んだ2種類の無人機

「38ノース」によると「戦略偵察ドローン」の機種名は「セッビョル-4型」と言い、「多目的攻撃ドローン」は「セッビョル-9型」という。  

パレードの上空を飛ぶ「セッビョル-4型戦略偵察無人機」(労働新聞・7月28日)
パレードの上空を飛ぶ「セッビョル-4型戦略偵察無人機」(労働新聞・7月28日)
北朝鮮が初公開した「セッビョル-4型戦略偵察無人機」の飛行(朝鮮中央テレビ・7月28日)
北朝鮮が初公開した「セッビョル-4型戦略偵察無人機」の飛行(朝鮮中央テレビ・7月28日)

これらのドローンは、このパレードの前に、ショイグ露国防相が案内された「武装装備展示会」会場でも披露されていた。

左:米空軍RQ-4グローバル・ホーク無人偵察機(米国防総省公式画像)右:「セッビョル-4型戦略偵察無人機」(労働新聞・7月28日)
左:米空軍RQ-4グローバル・ホーク無人偵察機(米国防総省公式画像)右:「セッビョル-4型戦略偵察無人機」(労働新聞・7月28日)
米空軍RQ-4グローバル・ホーク大型無人偵察機の頭部はタコの頭のような形状をしている(米国防総省公式画像)
米空軍RQ-4グローバル・ホーク大型無人偵察機の頭部はタコの頭のような形状をしている(米国防総省公式画像)

米空軍のRQ-4グローバル・ホーク大型無人偵察機の頭部と北朝鮮の「セッビョル-4型 戦略偵察無人機」の頭部も似ている。

「セッビョル-9型多目的攻撃無人機」(労働新聞・7月28日)
「セッビョル-9型多目的攻撃無人機」(労働新聞・7月28日)

そして、「武装装備展示会」にあった、主翼の下にミサイルとみられるモノを複数吊り下げた北朝鮮の「セッピョルー9型多目的攻撃無人機」は、ヘルファイア対戦車ミサイル等を主翼の下に吊り下げられる米軍のMQ-9リーパー無人機に全体の形状も似ている。

2022年、鹿屋基地に展開した米軍MQ-9無人機。頭部には衛星通信用のパラボラ・アンテナがある。
2022年、鹿屋基地に展開した米軍MQ-9無人機。頭部には衛星通信用のパラボラ・アンテナがある。

RQ-4グローバル・ホークやMQ-9リーパーの頭部には衛星通信のためのパラボラ・アンテナがあり、それを常に通信衛星の方向に向くことが出来るようにしたため、タコの頭のような形状になったとみられる。形には意味があるのだ。北朝鮮が公開した「セッビョル-4型 戦略偵察無人機」や「セッピョルー9型多目的攻撃無人機」の頭部もまた、タコの頭部のような形状をしている。

飛行中の「セッビョル-9型多目的攻撃無人機」(朝鮮中央テレビ・7月18日)
飛行中の「セッビョル-9型多目的攻撃無人機」(朝鮮中央テレビ・7月18日)

では、北朝鮮の「セッビョル-4型 戦略偵察無人機」や「セッピョルー9型多目的攻撃無人機」も通信衛星とのリアルタイムの連接を前提とし、頭部にパラボラ・アンテナを内蔵しているのだろうか。

「セッビョル-9型多目的攻撃無人機」(労働新聞・7月28日)
「セッビョル-9型多目的攻撃無人機」(労働新聞・7月28日)

そうであるならば、2023年7月末現在、自前の通信衛星を持たない北朝鮮は、「セッビョル-4型 戦略偵察無人機」や「セッピョルー9型多目的攻撃無人機」にどのようなリアルタイムの通信体制を構築している、または、構築しようとしているのか。

そして、自前の通信衛星のみならず、他国の通信衛星網を前提としているならさらに興味深いことではある。

北朝鮮が核兵器にすると宣言しているミサイルと水中兵器

北朝鮮のパレードと言えば、周辺国を威嚇・牽制するミサイルの展示が特徴だが、今回もミサイル、特に小型化した火山31型核弾頭(?)の搭載が可能と北朝鮮が主張するミサイルの展示が目立つ。

北朝鮮が発表した「火山31」型核弾頭?後ろに搭載する兵器のイラストポスターが見える。(労働新聞・3月28日)
北朝鮮が発表した「火山31」型核弾頭?後ろに搭載する兵器のイラストポスターが見える。(労働新聞・3月28日)

パレードに参加したKN-23短距離弾道ミサイルは、移動式発射機1輌に、ミサイルが2発ずつ搭載されている。ミサイルそのものの形状は、ロシアのイスカンデル複合ミサイル・システムから発射され、単純な楕円軌道を描かず、変則軌道での飛行が可能な9M723ミサイルに似ている。KN-23も変則軌道での飛行を実現したミサイルで、これまでの飛行高度は最高60km程度で、イージス・システムから発射される弾道ミサイル迎撃用のSM-3迎撃ミサイルでは低すぎて迎撃できない。

KN-23には、いくつかのバージョンがある。

祖国解放戦争勝利70周年記念パレードに参加したKN-23短距離弾道ミサイル・システム(労働新聞・7月28日)
祖国解放戦争勝利70周年記念パレードに参加したKN-23短距離弾道ミサイル・システム(労働新聞・7月28日)

また、射程は、500kmとも、800kmとも言われている(Janes Weapons STRATEGIC 2022-2023)が、飛距離800kmというのはミサイル本体を大型化したバージョンの可能性かもしれないが、北朝鮮から800kmも飛べば日本の一部にも届く。

北朝鮮は、2023年3月に火山31型核弾頭プロジェクトを進めていることを発表した。まだ火山31の核実験は行われていないので、核弾頭としての能力が実証されたわけではないが、北朝鮮は、直径40~5cmという火山31をKN-23に搭載する意図を示していることは留意すべきだろう。

ショイグ露国防相が注目する北朝鮮兵器・武器

このKN-23について、留意・注目しているのは、日本や韓国だけではない。

武装装備展示会でKN-23の説明パネルを見るショイグ露国防相(労働新聞・7月28日)
武装装備展示会でKN-23の説明パネルを見るショイグ露国防相(労働新聞・7月28日)

パレードの前に案内された「武装装備展示会」会場で、ショイグ露国防相が膝を折り、腰を屈めて展示装備の説明パネルを覗き込んでいたのは、このKN-23短距離弾道ミサイル・システムだった。

その様子を北朝鮮メディアが画像で伝えるというのは、何か意図でもあるのだろうか。

ショイグ露国防相の後ろに見えるのが115mm砲弾を使用するT-62MV戦車(2023年5月)
ショイグ露国防相の後ろに見えるのが115mm砲弾を使用するT-62MV戦車(2023年5月)

ロシアは「特別軍事作戦」という名で実行したウクライナへの侵攻で戦車不足に陥り、現役部隊からはとっくに退役し、訓練部隊や保管庫の装備となっていたT-62型戦車やT-55型戦車を現役部隊に引き渡したため、ウクライナでの戦場でも見かけるようになった。

T-62型戦車は、旧ソ連がアフガニスタンに侵攻した1979-1989年のアフガニスタン紛争で、旧ソ連軍の主力だったといわれる戦車である。ロシア軍は「特別軍事作戦」でT-72B3、T-64BV、T-80BV、T-80U、T-90A、T-90M 等、多様な戦車をウクライナに投入していたが、これらの主砲の砲弾は、いずれも125ミリ砲弾だ。ところが、T-55型戦車は100mm砲弾、T-62型戦車は115mm砲弾を使用する。

祖国解放戦争勝利70周年記念パレードに参加したM2020戦車。新しい爆発反応装甲を取り付けられていると見られる。(労働新聞・7月28日)
祖国解放戦争勝利70周年記念パレードに参加したM2020戦車。新しい爆発反応装甲を取り付けられていると見られる。(労働新聞・7月28日)

今回のパレードで北朝鮮は、爆発反応装甲を取り付け、125mm砲弾を使用するとみられるM2020型戦車(通称、エイブラムス・モドキ)を参加させた。

しかし北朝鮮では、旧ソ連から導入した115mm砲を主砲とするT-62型戦車をベースにした「天馬号」や「先軍号」も、多数が現役戦車として運用されているとみられる。

T-62と同じ115mm砲を搭載していると見られる北朝鮮・暴風号戦車(朝鮮中央テレビ・2017年)
T-62と同じ115mm砲を搭載していると見られる北朝鮮・暴風号戦車(朝鮮中央テレビ・2017年)

つまり北朝鮮は、ロシアがウクライナに投入し始めたT-62型戦車の115mm主砲砲弾を多数保有しているはずだ。さらに注目されるのは、BM-21自走多連装ロケット砲で使用する122mmロケット弾を大量に保有しているとみられること。ウクライナでは、バフムト近郊でソ連時代のBM-21グラード多連装ロケット・システムを運用しているウクライナ軍部隊によって「北朝鮮製ロケット弾をロシア陣地に向けて発射していた」「ウクライナ軍兵士らは、ロケット弾はウクライナに引き渡される前に『友好国』によって船から『押収』されたと述べた。彼らはさらなる詳細の提供を拒否した」しかし「ウクライナ国防省は、ロケット弾はロシア軍から持ち去られたものであると示唆した」「ウクライナ国防相顧問のサク氏は『ロシアは北朝鮮やイラン…において、さまざまな種類の軍需物資を買いあさっている』」(フィナンシャル・タイムズ 7月29日付)という。

ウクライナに侵攻中のロシア軍122mm自走多連装ロケット砲の発射(ザポリージャまたはドネツク州・2023年6月)
ウクライナに侵攻中のロシア軍122mm自走多連装ロケット砲の発射(ザポリージャまたはドネツク州・2023年6月)

つまり、ロシアは北朝鮮から122mmロケット弾を導入しているが、それが押収されてウクライナに引き渡され、ロシア軍への反撃に使用されているというのだ。

しかし、ウクライナ軍は「北朝鮮の弾薬は…不発や不発弾が多い。刻印によれば、ほとんどは 1980年代から1990年代に製造されたものだ」(フィナンシャル・タイムズ 7/29付)と北朝鮮製ロケット弾に不満を漏らしていたという。

ショイグ露国防相が北朝鮮の兵器展示場で、腰を曲げてまでKN-23ミサイル・システムに見入っている画像を北朝鮮メディアが公開していたが、今後ロシアは、115mm砲弾や122mmロケット弾のみならず、北朝鮮のKN-23ミサイルに強い関心を寄せるのかもしれない。

超大型放射砲の生産と新型極超音速滑空体ミサイルの登場

パレードにはこの他、超大型放射砲(KN-25)、KN-24(火星11B?、通称:ATACMSもどき)も参加した。これらは、いずれも北朝鮮メディアが、火山31型核弾頭(?)の搭載を計画しているとしている短距離ミサイルだ。

超大型放射砲(KN-25)も祖国解放戦争勝利70周年記念パレードに参加(労働新聞・7月28日)
超大型放射砲(KN-25)も祖国解放戦争勝利70周年記念パレードに参加(労働新聞・7月28日)
8月3日から5日、超大型放射砲(KN-25)ミサイル等の工場を金正恩総書記が視察
8月3日から5日、超大型放射砲(KN-25)ミサイル等の工場を金正恩総書記が視察
KN-24(通称:ATACMSモドキ)(労働新聞・7月28日)
KN-24(通称:ATACMSモドキ)(労働新聞・7月28日)

パレードに参加し、「武装装備展示会」会場でも展示されていたのは、火星8極超音速滑空体(HGV)搭載ミサイルの発展型とみられる、火星12NAだ。

祖国解放戦争勝利70周年記念パレードに参加した火星12NAと見られる極超音速滑空体(HGV)ミサイル(労働新聞・7月28日)
祖国解放戦争勝利70周年記念パレードに参加した火星12NAと見られる極超音速滑空体(HGV)ミサイル(労働新聞・7月28日)

今回、展示会場で披露されたミサイルは、2021年の「自衛2021」展示会で披露された火星8の滑空体の底面が平たいリフティングボディ形状だったのに比べると、底面が微妙に抉れたように曲がった形状になっている。このため、火星8から名称が変更されたのかもしれない。

武装装備展示会で展示された火星12NA極超音速滑空体(HGV)ミサイル。HGVの形状が火星8と微妙に異なる。(労働新聞・7月28日)
武装装備展示会で展示された火星12NA極超音速滑空体(HGV)ミサイル。HGVの形状が火星8と微妙に異なる。(労働新聞・7月28日)

このミサイルは、液体燃料を使用し、推定射程3700km以上とされる火星12型中距離弾道ミサイルのロケット・ブースターを改造したブースターで、マッハ5以上の極超音速に加速し、先端部に取り付けられた極超音速滑空体を切り離す。切り離された先端部は、日米韓のミサイル防衛を避けるように機動しながら滑空し、標的を目指すものとなる。

北朝鮮メディアの指摘した火山31搭載兵器には、火星8、または、火星12NAの名はなかったが、その可能性が将来にわたってないかどうかは定かではない。

5月4日にPAC-3システムによって撃墜された「キンジャールの残骸」とされるもの。弾頭部には直撃によるとみられる穴が開いている。
5月4日にPAC-3システムによって撃墜された「キンジャールの残骸」とされるもの。弾頭部には直撃によるとみられる穴が開いている。

しかし、ロシア軍の極超音速空中発射弾道ミサイル・キンジャールを、ウクライナ軍がPAC-3迎撃システムで迎撃することに成功したように、決して迎撃不可能なミサイルではないかもしれない。

【関連記事】
ウクライナへのF-16供与と露キンジャールに対するミサイル防衛 広島サミットで考える武器と平和

日本に到達可能?核無人水中攻撃艇「ヘイル」

北朝鮮は、ミサイル以外の核兵器開発を進めている。

「核無人水中攻撃艇『ヘイル(津波)』」と命名された新しい水中攻撃型兵器システムは、何を目的とする兵器なのか。

「敵の艦船集団と主要作戦港を破壊、掃滅することである。この核無人水中攻撃艇は、任意の海岸や港で、または水上船舶が曳航して作戦に投入することができる」と北朝鮮メディア(朝鮮中央通信 3月24日付)は説明する。その試験については「訓練に投入された核無人水中攻撃艇は、日本海に設定された楕円および「8」字形針路を80~150mの深度で59時間12分を潜航し、…目標点に到達したし、実験用戦闘部(=弾頭)が水中爆発した」(朝鮮中央通信 3月24日付)という。

航行する核無人水中攻撃艇「ヘイル」
航行する核無人水中攻撃艇「ヘイル」

そして「無人攻撃艇は「約600km辺りの距離を模擬した、のこぎり型および楕円形の針路を41時間27分潜航して、予定の目標水域に到達し、試験用戦闘部が正確に水中起爆した」(朝鮮中央通信 3月28日付)という。続けて、実施されたヘイル-2というバージョンの試験では、71時間6分かけて、1000km潜航したという。

祖国解放戦争勝利70周年記念パレードで披露された無人水中攻撃艇「ヘイル」。前に座っている兵士と比べるとその巨大さが分かる。(労働新聞・7月28日)
祖国解放戦争勝利70周年記念パレードで披露された無人水中攻撃艇「ヘイル」。前に座っている兵士と比べるとその巨大さが分かる。(労働新聞・7月28日)

北朝鮮は従来、へイルの全体像が分かる画像や映像は公開していなかったが、今回のパレードでその形状を公開した。

巨大な魚雷のような形状であり、この大きさならば、火山31を搭載するには十分かもしれない。そして、航続距離1000kmというのが本当ならば、北朝鮮の沿岸から、日本の日本海沿岸まで到達できるかもしれない。

火星17/18型大陸間弾道ミサイルはアメリカ以外の核保有国も刺激?

北朝鮮は、今回のパレードと屋内展示で、火星17型および火星18型大陸間弾道ミサイルを披露した。

火星17型大陸間弾道ミサイル(労働新聞・7月28日)
火星17型大陸間弾道ミサイル(労働新聞・7月28日)

液体燃料と酸化剤を使用する火星17型は、推定全長24~26m、推定直径2.4~2.5mとみられており、移動式発射機を使用する大陸間弾道ミサイルとしては世界最大であり、将来は、複数の核弾頭を搭載することを意図しているとみられる。そして、1万5000kmとみられる推定最大射程は、米国本土のみならず、欧州NATO諸国にまで届きかねないことを意味する。

個体推進剤使用の火星18型大陸間弾道ミサイル(労働新聞・7月28日)
個体推進剤使用の火星18型大陸間弾道ミサイル(労働新聞・7月28日)

火星18型は、固体推進剤が充填されているため、発射前に液体燃料や酸化剤を注入する必要がなく、火星17型に比べると発射準備に手間取らない。推定全長は25m、推定直径は2mで、3段式となっている。2段目、及び、3段目の噴射口は可変ノズルで、飛行途中でミサイルのコースを変更でき、弾道ミサイル防衛をある程度、掻い潜る効果を目指しているのかもしれない。1万5000kmとされる推定最大射程は、米国本土のみならず、欧州NATO諸国にまで届きかねないことになる。

アメリカは核拡散防止(NPT)条約(1970年発効)によって核兵器の保有が認められているが、中露英仏も同様に、NPT条約に認められる形で戦略核兵器を保有している。欧州NATOを構成する英・仏は、射程1万km以上の戦略核兵器をすでに保有しており、大西洋からでも物理的には北朝鮮に届くことになる。

火星17型や火星18型のように、米国のみならず欧州NATO諸国にまで届くとなれば、戦略核兵器を保有する英・仏がどのように対応すると北朝鮮がみているのか。北朝鮮が今回、中・露との関係強化に動いていると示唆しているのは、その対策の一環なのか、興味深いところではある。

【執筆:フジテレビ上席解説委員 能勢伸之】

能勢伸之
能勢伸之

情報は、広く集める。映像から情報を絞り出す。
フジテレビ報道局上席解説委員。1958年京都市生まれ。早稲田大学第一文学部卒。報道局勤務、防衛問題担当が長く、1999年のコソボ紛争をベオグラードとNATO本部の双方で取材。著書は「ミサイル防衛」(新潮新書)、「東アジアの軍事情勢はこれからどうなるのか」(PHP新書)、「検証 日本着弾」(共著)など。