山登りやキャンプに行く機会も増える夏のアウトドアシーズン。この季節、注意が必要なのが「草むらの吸血鬼」とも呼ばれるマダニ。直径2mm程度の大きさだが、マダニはさまざまな感染症を引き起こす危険生物なのだ。

全国で増加傾向の「マダニ被害」

マダニによる感染症の患者増加は過去最悪のペースだ。

国立感染症研究所が発表した「マダニ感染症の患者数推移」
国立感染症研究所が発表した「マダニ感染症の患者数推移」
この記事の画像(16枚)

国立感染症研究所によると、全国のマダニ感染症の患者数は2023年7月2日時点で243人。過去最悪だった2021年の同じ時期より4人多くなっている。

福岡・糸島市にある「いとしま皮ふ科クリニック」の竹本朱美理事長に話を聞くと…。

いとしま皮ふ科クリニック・竹本朱美理事長:
去年(2022年)、当院では、マダニにかまれた患者は10人前後だったと思います。今年(2023年)は今の時点で20人弱にはなっているので、増加傾向にあるかなと思います。何か振り払っても取れないような、黒っぽい虫のような「できものなのかな?」「こんなところにホクロなかったよな」って思いながら、よくよく見るとマダニってことで、驚いて受診されます

マダニの大きさにもよるが、噛まれたら数日から1週間、マダニはずっと血を吸って皮膚の上に留まり続ける。さらに、噛まれて無理やり落とすと口先が残るので、噛まれたら皮膚科に行くのがよいという。

そして、マダニによる被害で最も深刻なものが…。

いとしま皮ふ科クリニック・竹本朱美理事長:
「SFTS」という重篤な症状が出て、死亡率としては、報告があるのが15%前後

マダニによる感染症の1つである「SFTS」。感染すると40度以上の発熱や下痢、嘔吐などの症状が表れ、重篤化すると最悪の場合、死に至る。

いとしま皮ふ科クリニック・竹本朱美理事長:
今のところ有効な治療法がまだなくて、基本的には対症治療といって、いろいろな症状が出たところに対して漸進的に管理をしていくという治療になります

動物と共に生活圏に侵入

マダニによる被害に遭わないためにはどうすればよいのか。

マダニなどの危険生物に詳しい専門家、九州大学農学研究院天敵昆虫学の上野高敏准教授に話を聞いた。

九州大学 天敵昆虫学研究室・上野高敏准教授:
全国的にマダニは増えています。一番の理由は動物が増えているからです。シカとかイノシシと共にマダニは移動します。人間の生活圏にシカやイノシシが入ってくると、当然、マダニも人間の生活圏に持ち込まれます

狩猟者の減少などを理由に増えているという野生のイノシシやシカ。この15年で福岡県における捕獲数は、イノシシが約2倍、シカが6倍ほどに増加している。野生動物が人里に下りてくることで、くっついていたマダニが共に運ばれ、日常生活の中で人間がマダニに遭遇する機会が増えているのだ。

九州大学 天敵昆虫学研究室・上野高敏准教授:
10年前に比べて、九州のあちこちの都市近郊のちょっとした公園とかでマダニを見る機会はものすごく増えました

身近な場所にもいるというマダニ。九州大学キャンパス内の緑地で探してみると…。

九州大学 天敵昆虫学研究室・上野高敏准教授:
例えば公園とかであっても、芝生とか子どもの遊び場になっているような開放的な環境であれば、マダニの心配は、ほとんどないです

マダニは熱に弱いため、日陰の草むらを好む。そのため、草むらであっても日光が当たる場所には、ほとんどいないという。

九州大学 天敵昆虫学研究室・上野高敏准教授:
ちょっとした山とかに行くと、整備された道があるじゃないですか。そういった場所は全然、大丈夫なんです。ところが、ちょっと(道をそれて)山の方に入って行ったとしますよね。マダニというのは、こういう葉っぱの上で待っているんですよ。待ち伏せ型になります

マダニはジャンプしたり飛んだりすることができないため、葉っぱなどにとまり、動物が通るのを待っているという。

と、ここで上野先生が特製の「マダニホイホイ」を取り出した。

九州大学 天敵昆虫学研究室・上野高敏准教授:
本当はこれ、昆虫採集用なんですけど、白っぽい布だとマダニが付いたらよく見える

マダニが布に張り付く習性を利用した特製「マダニホイホイ」。さっそく日陰の草むらをなぞるようにして歩くと…。

九州大学 天敵昆虫学研究室・上野高敏准教授:
あっ、付きました。これは卵から孵化して間もないやつですけど、「フタトゲチマダニ」という種類です

上野先生が狭い区間を1往復すると、1分もかからないうちにマダニを発見した。フタトゲチマダニといって1mmにも満たない大きさだった。やはりマダニは、そこら中にいるようだ。

夏に必須の「マダニ対策」

では、そんなマダニに嚙まれないための対策とは…。

九州大学 天敵昆虫学研究室・上野高敏准教授:
虫よけスプレーです。マダニは足元からはい上がってきます。足元から、ズボンの上から靴の上に虫よけスプレーをしてもらうとよいです

露出した肌以外にも、虫よけスプレーをズボンの膝下から靴までかけると効果的だという。また、ズボンは明るい色の方が、マダニを見つけやすいそうだ。

九州大学 天敵昆虫学研究室・上野高敏准教授:
マダニはめちゃくちゃトロい(動きが遅い)んですよ。すぐに血を吸い始めるわけではないので、付いてたら振り落とすなりすれば被害は防げます

草むらの吸血鬼マダニ。夏休み期間中は家族でアウトドアに出かける機会も多い。子どもへのケアも含めて、これからの季節、よりいっそう注意が必要だ。

(テレビ西日本)

テレビ西日本
テレビ西日本

山口・福岡の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。