今週は、日米欧の中央銀行が金融政策を決める会合を相次いで開く「中銀ウィーク」だ。このうち日銀は27日~28日に、植田総裁の就任後3回目となる会合を開く。

植田総裁3回目の会合は27~28日開催
植田総裁3回目の会合は27~28日開催
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4月と6月の決定会合では、いまの金融緩和の枠組みを維持し、「植田氏就任から時間を経ずに政策修正に踏み切るのでは」とみていた市場関係者にとっては予想が外れた形となった。

今回、修正に動くのではとの観測が再びくすぶっているが、「現状は維持される」とみる見方も多い。

物価見通しは上方修正か

注目されているのは、日銀が示す物価上昇率の見通しだ。

日銀は、今回の会合で、経済・物価情勢についての展望リポートを更新するが、このなかで、2023年度の物価見通しが引き上げられる公算が強まっている。前回のリポートでは、2023年度の上昇率見通しは1.8%、2024年度は2.0%、2025年度は1.6%だった。

実際の消費者物価指数の上昇率は、変動の大きい生鮮食品を除く指数で、15カ月連続で日銀が目標とする2%を超えて推移し、6月は前年同月比3.3%のプラスとなった。5月の3.2%より強い数値で、上昇率の拡大は2カ月ぶりだ。生鮮食品を含む全体の指数も3.3%のプラスで、3.0%のアメリカを追い抜いた。

過去最大規模の“値上げの波”が押し寄せる
過去最大規模の“値上げの波”が押し寄せる

欧米より遅れて広がった値上げラッシュが続き、企業がコスト上昇を商品価格に転嫁する動きが継続するなか、モノだけではなく、サービス関連の価格引き上げも目立っているが、一方で、資源高の一服などにより輸入物価は下がってきている。

こうしたなか、今回のリポートでは、2023年度の見通しは2%を上回って上方修正される可能性が高いとみられている。2024年度以降の見通しは、2023年度分が引き上げられた場合、その反動で下ぶれすることになるが、反動分を超えて値上げの動きが持続すると見込まれれば、2%程度とされる可能性がある。

2023年度の物価上昇見通しが、日銀が目指してきた「2%」台に上振れするとみられるなか、いまの緩和の枠組みの修正に動き出すでは、との観測が再燃している。

YCC修正でローン金利上昇も

修正の可能性が意識されているのは、長期金利と短期金利を目標の水準に誘導する「イールドカーブコントロール=YCC」と呼ばれる手法だ。長短金利に目標を設定しその水準を維持するよう国債の買い入れを行って、国債の残存期間と金利の関係を示す利回り曲線=イールドカーブ全体をコントロールしようというものだ。2016年9月に日銀が導入したが、債券市場の流動化低下や金利構造のゆがみなどの副作用が生じるのは避けられない。主な中央銀行で採用しているのは日銀だけになった。

金融政策の持続性を高めるためにも、日銀はYCC見直しに動き出すのでは――そんな見方がくすぶっている。

主な中央銀行でYCCを採用しているのは日銀だけ
主な中央銀行でYCCを採用しているのは日銀だけ

選択肢として取りざたされているのは、
①操作対象としている10年金利の変動幅を拡大する
②操作対象の金利を10年からもっと短い年限のものに変える
③イールドカーブコントロールそのものをやめてしまう――などだ。

日銀は、操作対象としている10年物の国債利回り=10年金利をめぐり、2022年末に許容する変動幅を広げ、上限を0.5%程度にまで上げたが、①は、さらに0.75%や1%程度にまで引き上げるというものだ。②は、操作対象としている金利をいまの10年から、5年や3年といったより短期のものに変える、③は、YCC自体を撤廃するというものだ。

YCCが修正され、市場に「金融引き締め」への動きだと受け止められれば、長期金利には上向き圧力が強まって、住宅ローンの固定金利や企業の資金調達コストの上昇という形で影響が出る可能性もある。円相場は円高方向に傾き、株高を引っ張ってきた企業の業績期待には冷や水となって、日本株は一時的に値下がり局面になるのではとみる市場関係者は多い。

円相場・金利の振れ幅大きく

決定会合を前に、外国為替市場の円相場は、振れ幅が大きくなり、神経質な値動きを見せている。

日銀の政策修正観測などを背景に、14日に2カ月ぶりに1ドル=137円台前半にまで上昇していた対ドル相場は、その後再び下落に転じ、21日には141円台後半の水準をつけた。

G20会合後の記者会見(インド・ガンディーナガル 7月18日)
G20会合後の記者会見(インド・ガンディーナガル 7月18日)

19日には、植田総裁がインドでのG20会合後の18日の会見で、「前提が変わらない限り、全体のストーリーは不変だ」と述べたことが早期修正に否定的な見方を示したと受け止められたことで、前日から1円以上円安が進む場面もあった。

国内債券市場でも、長期金利の指標となる新発10年物国債利回りが、21日には一時0.48%に上昇した後、0.41%にまで下がるなど、乱高下している。

物価・賃金上昇の持続性を判断

果たして、日銀は政策修正への動きを見せるのだろうか。物価が高止まりしても、賃金の上昇が伴わなければ、日銀が目指す経済の好循環の姿からは遠い。2023年の春闘は30年ぶりの賃上げ率となり、実質賃金は14カ月連続で減少しているものの、マイナス幅は縮んできている。

物価高の勢いだけでなく、この先の賃金上昇の持続性をどうみるかも判断のポイントになるだろう。日銀はもう少し時間をかけて賃金動向を見極めたいはずだとして、動き出すのはまだ難しいとみる見方も根強い。

物価や賃金をめぐってどのような議論が行われ、どういう判断が示されるのか。注目の2日間となる。

(フジテレビ解説副委員長 智田裕一)

智田裕一
智田裕一

金融、予算、税制…さまざまな経済事象や政策について、できるだけコンパクトに
わかりやすく伝えられればと思っています。
暮らしにかかわる「お金」の動きや制度について、FPの視点を生かした「読み解き」が
できればと考えています。
フジテレビ解説副委員長。1966年千葉県生まれ。東京大学文学部卒業。同大学新聞研究所教育部修了
フジテレビ入社後、アナウンス室、NY支局勤務、兜・日銀キャップ、財務省クラブ、財務金融キャップ、経済部長を経て、現職。
CFP(サーティファイド ファイナンシャル プランナー)1級ファイナンシャル・プランニング技能士
農水省政策評価第三者委員会委員