梅雨末期の豪雨や台風の時期は、毎年のように水害が起きている。防災のプロは「日ごろから災害が起きる”かもしれない”」と備えることが重要だという。福島県では避難所生活を想定した宿泊体験会が開催され、有事への備えを学んだ。

2023年は異常

九州では福岡県・大分県・佐賀県に相次いで線状降水帯が発生し、数十年に一度の大雨に。富山県でも大雨による土砂崩れで、住民に避難を呼びかけていた市議会議員が亡くなった。そして秋田県では駅前など大規模な冠水が起きた。

2023年は梅雨前線による大雨の被害が多発
2023年は梅雨前線による大雨の被害が多発
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線状降水発生と言われても…

予測の難しい「線状降水帯」「避難情報のあり方」について、東京大学大学院の客員教授で防災のプロ・防災マイスターの松尾一郎さんは「線状降水帯に関する情報は、半日前に発表される情報と、まさに今発生しているという時に出される発生情報がある。半日前の情報は、2023年は21回発表され当たったのは7回、3分の1。その程度の精度。発生情報は、発生していることをリアルタイムで伝えられる。ところが、すでに冠水をしている状況で避難をするのは難しい。危険なので、自宅2階や最寄りの高いところに垂直避難を」と話す。予測が難しいからこその早めの避難が重要だ。

東京大学大学院の客員教授で防災のプロ・防災マイスターの松尾一郎さん
東京大学大学院の客員教授で防災のプロ・防災マイスターの松尾一郎さん

躊躇なく避難するために

福島県田村市で行われたのが、避難所宿泊体験。市民の防災意識を高めようと田村市が企画し、2022年から行われている。今回は総勢71人が参加した。
長内大知さんは、2歳の息子を連れて参加した。「いざ有事の際、避難するってなった場合、小さい子を連れての避難っていうのがどういうものなのか体験しておこうかなと思って参加した」と話す。妻の雛さんは「夜、子どもが泣かないかどうかっていうのが心配」と、息子が飽きたときに備え、おもちゃを用意していた。

2歳の息子を連れて参加した長内大知さん一家
2歳の息子を連れて参加した長内大知さん一家

佐藤圭大さんは、唯一キャリーケースを持参。「実際に避難するって準備したときに何を準備していいのかとか、子どもが小さいので何をもっていけばいいのかなっていうのが正直よく分からず良い機会になった」という。

キャリーケースを持参した佐藤圭大さん「何を持っていけば…」
キャリーケースを持参した佐藤圭大さん「何を持っていけば…」

田村市防災アドバイザーの佐原禅さんは「大変な目に遭うかもしれないけども工夫次第。自分の発想次第で、それは乗り切ることができるかもしれない」と話す。

「発想次第で乗り切れるかもしれない」田村市防災アドバイザーの佐原禅さん
「発想次第で乗り切れるかもしれない」田村市防災アドバイザーの佐原禅さん

硬い…段ボールベッド

1日目は宿泊するテントや段ボールのベッドを協力して作る。「ここまで大きいのは…家庭用の小さいワンタッチのものは作ったことがあります」という佐藤圭大さんは6歳の娘と一緒に順調に作っていく。

みんなで協力してテントを
みんなで協力してテントを

佐藤さんとは対照的に、長内さん家族は夫が設営・妻が子守りと役割を分担して進める。「いざ当日避難所に来て作るとなると、経験がないとたぶんバタバタしますね」と言いながらも無事完成。家族3人で段ボールベッドに寝てみる。長内さんは「すごい。広いですね」という感想。「意外と硬いよね」と妻の雛さん。

意外と広いが硬い段ボールベッド
意外と広いが硬い段ボールベッド

何日か続いたら大変

実際の避難で心配なのは「子どもが機嫌を損ねて周りに迷惑をかけないか」そして「停電したときの食事の作り方」 参加者はご飯の炊き方に苦戦…芯が残ったご飯になってしまった。佐藤圭大さんは「一日とか今日でいうと4時間だけだから我慢できるが、これが何日避難するか分からずに行ったら大変だなっていうのが、やってみて思う」と話した。

停電を想定してご飯を炊く
停電を想定してご飯を炊く

それぞれの避難所での一夜

2日目は午前6時半に起床。普段とは違う環境は、やはり大変だったようだ。段ボールベッドが硬く、体が痺れて3回くらい目が覚めたという長内大知さん。妻の雛さんは「周りの音で息子が起きそうで、それにヒヤヒヤした」と話し、周りの音も気になり寝れなかったという。

眠れない夜を過ごした長内さん一家
眠れない夜を過ごした長内さん一家

佐藤さんは、持ってきたランタンやバッテリーが役に立っていた。「ランタンが電池で、どのくらい持つのか分からなかったからあえて点けた」と言うように、それぞれ機会をいかして貴重な夜を過ごしたようだ。

佐藤さんはランタンの電池がどのくらい持つか試す
佐藤さんはランタンの電池がどのくらい持つか試す

自前の準備も必要と実感

宿泊体験に参加したからこその、課題と収穫があった。長内大知さんは「なくて困ったのは枕。あと思ったよりも会場が寒かったので、タオルケットが1枚でもあったらよかった」と話した。また佐藤圭大さんは「行政ごとに何を準備してくださるかとか、たぶんここまで有事の時は準備出来ないと思うので、そこは住民1人1人が準備すべきだなと思った」と話す。

有事に自治体はどこまでできるか 自分で用意することも重要
有事に自治体はどこまでできるか 自分で用意することも重要

宿泊体験を企画した田村市生活安全課の鹿又淳課長は「実際、避難所がどういう場所なのか。またどういう環境で、どういう生活をしなくちゃいけないのかと考えるきっかけになったと感じる。避難を躊躇なくしていただける環境を整えたい」と話した。

田村市生活安全課の鹿又淳課長
田村市生活安全課の鹿又淳課長

流域雨量指数が避難の参考に

「躊躇せずに避難」その判断材料となる情報を得る手段が重要になる。防災マイスターが参考になると話すのが「流域雨量指数」 上流で降った雨が、下流まで流れていく時間を考慮して、洪水が起こりうるかの危険度を示したものだ。気象庁のホームページから確認でき、河川の6時間先まで危険度を見ることができる。過去の最大値も掲載されているので、見比べて避難の判断材料にしてほしい。

気象庁「流域雨量指数の予測値」
気象庁「流域雨量指数の予測値」

”かもしれない”が重要

東京大学大学院の客員教授で防災のプロ・防災マイスターの松尾一郎さんは、被害を「ゼロ」にするためには、「日ごろの意識」が重要と話す。「来ないだろう。起こらないだろう」ではなく「起こるかもしれない」という意識をもって備えることが重要となる。

(福島テレビ)

福島テレビ
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