札幌市が全国の自治体で初めて、「カスタマーハラスメント防止啓発ポスター」の掲示を始めた。
カスタマーハラスメントとは、客から企業に対し理不尽な要求やクレームを突きつけられることで、通称“カスハラ”とも呼ばれている。
カスハラに詳しい亀井正貴弁護士に、カスハラに当たる行為や、刑事事件に発展する具体的なケースを聞いた。
判例で多いのは「土下座」
ーーカスハラは具体的にどういったもの?
カスハラは、お客様による要求内容や手段、対応が、社会通念上不当である場合と定義付けています。
例えば、クレームをつけて商品の値引きをさせるとか、サービスの内容が悪いということで職員に土下座をさせるなどがあります。
また極端な場合だと、胸ぐらを掴んで暴力的な行為に及ぶとか、大声を出す、机を叩く、物を投げる。さらには、店員を侮辱するなどといったことです。

ーー罪に問われる可能性がある行為は?
実際に判例で多いのは、土下座のケースで、これは刑法上の「強要罪」が成立します。
値引きなど経済的な利益を得ようとする場合は、「恐喝罪」が成立します。
店員の胸ぐらを掴んだりした押した場合は、「暴行罪」に該当します。
それから、店内で大声を出したり、物を投げたり、叩いたりして、他のお客さんや店の営業に支障をきたした場合は、「威力業務妨害罪」が成立します。

さらに、店員に対してバカであるとか、能力が低いなど社会的評価を下げるような言動を、他のお客さんや従業員がいる前でやってしまうと、「名誉毀損罪」「侮辱罪」が成立します。
また、物を壊せば「器物損壊罪」です。
SNS投稿もカスハラに
札幌市が今年1月、窓口で対応する職員に対しアンケートを実地したところ、ほぼ全員がカスハラを受けたことがあると回答。そのうちの約7割が強いストレスを感じたという。
多発するカスハラについて亀井弁護士は、土下座を強いる「強要罪」の刑事罰は、懲役刑のみで、罰金刑がないため、かなり重くなる可能性があると指摘する。

ーーそれぞれの罪の重さは?
例えば、大声を出したり、物を叩いて店の業務を妨害した場合は、3年以下の懲役または50万円以下の罰金です。
「土下座しろ」と何度も言って脅すような行為の場合は「強要罪」が成立するので、3年以下の懲役です。これには罰金刑がないので、その意味ではかなり重くなる可能性があります。
また、店員を侮辱するような言動をした場合は「名誉毀損罪」で、3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金です。
そして暴言を吐いた「侮辱罪」の場合は、1年以下の懲役もしくは禁錮もしくは30万円以下の罰金、または拘留もしくは科料です。

ーーSNS投稿もカスハラに当たる?
SNS投稿は、店の社会的評価、経済的評価を貶めるということで「名誉毀損罪」が成立する場合と、投稿内容によってお客様などエンドユーザーがその店に行くことを躊躇するような場合は「威力業務妨害罪」が成立します。
ポスターが警告に
ポスターを設置した札幌市は、「ポスターを見てカスハラではないかと気づいて頂くことが目的」としているが、実際に効果はあるのか。

ーー札幌の啓発ポスターに効果は?
良い試みだと思います。
客やSNSのエンドユーザーは、従業員が反撃してくるとは想定していないので、どんどん要求やクレームをエスカレートしがちです。
カスハラを行うと、企業から損害賠償請求を受けるかもしれないし、場合によっては刑事事件に発展する可能性もあるということを知らしめる意味においては、効果は大きいと思います。