自民党の松川るい外交部会長代理は2日、フジテレビ系『日曜報道 THE PRIME』(日曜午前7時30分)に出演し、「スパイ防止法は必要だ」と強調した。中国で1日、かねてスパイ行為の定義があいまいだと指摘されていた反スパイ法の改正法が施行されたことに関連して発言。日本人が中国で拘束された時に「取引することの材料にもなる」と述べた。

立憲民主党の玄葉光一郎元外相は、平時からの「積極的サイバー防御」の導入に前向きな考えを示した。「積極的サイバー防御」は、サイバー攻撃に対して、被害を受けてから対処するのではなく、被害が起きる前に先手を打って攻撃側の目的を阻止する対抗措置のこと。岸田政権が2022年末に導入方針を打ち出している。

一方、ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者プリコジン氏の反乱騒動で、仲介役を買って出たベラルーシのルカシェンコ大統領が、ロシアがベラルーシ国内に配備した核兵器について「我々の兵器だ。我々が使う」などと主張したとされる問題で、松川氏は「非常に大きな始まりのひとつになる可能性がある」と指摘。「プーチン大統領の政治力、威信が低下している。ポストプーチンや、戦争をどううまく終戦にもっていくかという議論につながっていく。実際にそういう議論が起き始めている」と語った。

ルカシェンコ大統領の発言について玄葉氏は「変数もアクターも増え、核拡散の危機だ。NPT(核不拡散条約)の重大なルール違反で、世界全体で止めないといけない」と強調した。

以下、番組での主なやりとり。

梅津弥英子キャスター(フジテレビアナウンサー):
ワグネルの反乱以降、ベラルーシのルカシェンコ大統領が存在感を強めている。反乱収束後、「ワグネルがプリゴジン氏に合流するなら基地を提供する」と発言。ロシアがベラルーシに配備している核兵器については「我々の兵器だ。我々が使う」と、プーチン大統領の意向に反する発言をしている。ベラルーシの隣国リトアニアやポーランドの首脳からは反発の声が上がっている。

松川るい氏(自民党外交部会長代理):
私は、今回のプリゴジン氏の乱は非常に大きな始まりのひとつになる可能性があると思っている。ルカシェンコ大統領の発言も、いままで彼がプーチン大統領にこういう態度を取ったことはなかった。いつも「下」というか、部下ではないが、ジュニアという立場だった。プーチン氏の政治力が非常に低下していることを示したし、威信が少し低下している。「ポストプーチン」や、この戦争をどううまく終戦という形にもっていくかという議論につながっていく。実際もうそういう議論が起き始めている。そういう点からも、7月11日から始まるNATO(北大西洋条約機構)首脳会議は、注目しなければいけない。ルカシェンコ大統領が今回仲介役をして、プーチン氏に貸しを作った。そして核を「自分が使う」と言っていることは、核拡散の観点から非常に問題があるが、実際には多分物理的にできない。そんな簡単にできることではないのに、そう言っているのは、プーチン政権などに対して自分の地位を上げるための発言だと思う。ルカシェンコ氏はもともとこういう大仰なもの言いをする人物だ。ワグネルを受け入れたが、ベラルーシの国軍に入るわけでは必ずしもない。ただ、そのステータスによっては非常に彼にとっての有効なカードになっていくだろう。            

松山俊行キャスター(フジテレビ政治部長・解説委員):
ロシアがベラルーシに配備した戦術核について、ルカシェンコ大統領がロシアの管理下ではなく、自国が必要だと判断すれば、使用を辞さない姿勢を示した。核不拡散体制に重要な影響を与える。

玄葉光一郎氏(立憲民主党 元外相):
まったくそのとおりだ。ベラルーシの核はいま一番の危機だと言っていい。「核は我々の兵器。我々が使える」というのは大変大きい発言だ。変数もアクターも増えるから、核拡散の危機だと言って間違いない。これはプーチン大統領にとっても誤算だった。NPT条約の重大なルール違反だ。戦術核をベラルーシに配備した時に、あるいは、配備するという決定をした時にプーチン大統領は巧妙にも「NATOの核共有と何が違うんだ」と発言した。つまりNATOの核共有と、ロシアのベラルーシへの核配備は何が違うのかと。ロシアの管理下、ロシアの所有権の下での戦術核の移動であれば実は変わらない。NPT条約上も違反にならない。しかし、ルカシェンコ氏、ベラルーシが所有権を主張し、使用権も主張するとなると話はまったく別だ。重大なルール違反になる。危険性も増し、世界全体で止めなければいけない。

松山キャスター:
7月1日、中国で改正反スパイ法が施行された。専門家が指摘するところでは、海外旅行などで中国に行く人はスマートフォンのSNSのアプリを削除したほうがいいとか、山を登るのが好きな人が等高線の書かれている地図を持って入国すると拘束される原因になる可能性があるという。中国への渡航での注意点について。

松川氏:
日本人であれば特に問題ないと思われる行為がスパイ行為として摘発されることがありえるので、非常に注意してもらわないといけない。外務省海外安全ホームページの中国の項目では、反スパイ法への注意が呼びかけられているが、わかりにくい。今回の改正を受けて、港(での撮影)は危ないとか、古書(の購入)も危ないとか、スマホのアプリも危ないとか、もっと具体的に日本政府も明らかにする必要がある。何より中国側がこれまでもまったくあいまいな形で摘発したり、拘束したりしてきたということがあるので、何がだめなのか、何がレッドラインなのかについてもっと詳細なマニュアルなり、説明書なりを出さないと安心してビジネスや観光で中国に行けず、かなり抑制的に対応せざるを得なくなる。

松山キャスター:
中国国内には多くの日本人駐在員もいる。今回の改正反スパイ法では、中国国民にはスパイ行為を見つけたら、通報する義務があることも盛り込まれている。習近平国家主席の思惑をどう見るか。

玄葉氏:
中国経済の曲がり角だ。低迷し始めている。当然、これだけ統制色を強めると、旅行者も少なくなるし、外資が引き上げるという話も出てくる可能性がある。それにも関わらず、こうした規制を強め、統制を強めるのは、それだけ不安なのではないか。何が不安なのか。和平演変、つまり西側は平和的な手段で共産党の統治を終わらせようとしているという考え方が歴史的に、伝統的に中国にはある。そういう疑念が常にあるのがひとつ。もう一つは正統性への不安だ。我々の社会は選挙などで統治の正統性があるが、中国共産党にはない。常に統治の正統性に対する不安が付き纏うので、どうしても規制、統制を強めたくなるのではないか。

橋下徹氏(番組コメンテーター、弁護士、元大阪府知事):
これ(日本人拘束)に対する対抗策は、いくら中国に申し入れをしても聞く耳持たずだから、やられたらやり返すというものを持つしかない。日本でもスパイ防止法、反スパイ法というものを持って、中国の人に対しても日本に来て何かあったら拘束するぞというぐらいのものを持たないと、中国側にも緊張感がないと思う。日本はなめられっぱなしだ。

日本人は中国で拘束されて、それを取り戻そうとすれば、こちら側でも中国人を拘束して交渉するということが国際社会の常識なのではないか。

松川氏:
それはそれで使えるとはもちろん思う。私はスパイ防止法は必要だと思っている。別にそういう取引をするために必要だということだけではい。そもそも日本は、スパイをスパイとして取り締まることができる法的根拠がない。今は周辺の法律でなんとか対応している。これではやはり駄目だ。日本の国を守るために私は元々スパイ防止法は必要だと思っているし、それが橋下さんが言うように問題解決ができない時に取引をすることの材料にももちろんなるとは思う。

梅津キャスター:
6月、国立研究機関の産業技術総合研究所の主任研究員がフッ素化合物の合成に関する情報を中国企業に漏洩した疑いで逮捕された。
            
松山キャスター:
もちろん中国に限ったことではないが、今回、産総研で起きたような先端技術の流出をどう食い止めるかが一つの課題になっている。どういう対策が必要か。

松川氏:
国会で議論することになっているが、セキュリティ・クリアランスはマストだ。国家公務員ではなくても民間人でも機微な技術を扱う人は守る義務があり、それに反すれば罰則が科されるということだ。でも、やはりスパイ防止法が必要だ。今は情報を漏洩する人は処罰されるが、情報を受け取る人を処罰できない。秘密をやり取りする行為だけでなく、例えば、積極的に国会議員を買収するなど、様々な工作活動をやるのもスパイ行為だ。そういうものに対する根拠規定もない。セキュリティ・クリアランスはマストで、予定されているが、やはりスパイ防止法を作ること。そしてそれを担保するための公安などの機能をさらに強化する必要がある。また企業のアウェアネス(意識、自覚)を上げないといけない。連携が必要だ。

松山キャスター:
スパイ防止法については、日本でも1985年に議員立法で国会に提出され、廃案になった経緯がある。その時、日弁連は「行政当局の恣意的専断を許すことになる」と反対決議を出した。

玄葉氏:
とてもバランスの取れた冷静な議論の結果として、必要な法改正があれば、それはやぶさかではない。今、話題になっているのは、国家機密とは必ずしも限らなくて、民間の、国家機密に近い情報の取り扱いだ。何らかの対策をとることについて、私は必要だと思っている。

橋下氏:
これ、スパイ防止法と、経済スパイの話が混同していると思う。僕はスパイ防止法に賛成だ。これは国家機密や国家の安全保障の問題だ。それに至らないような経済技術の問題、経済スパイに関しては今、日本の法律もどんどん整備されてきている。不正競争防止法や、外為法でも見なし輸出として、日本国内の外国人に対しても外国に輸出したものとみなすというような形で、いろいろルールができている。しかし、一番重要な問題点、国会でまだ議論されていないのは、こういう法律ができてもこれを執行するときの権限、手段、これが政府に与えられていないこと。議論があると思うが、世界の常識となっている盗聴やおとり捜査などの捜査手段をしっかり捜査機関に与えないと、法律を作っても執行できない。今回産総研の技術者に対しては不正競争防止法が適用されたが、本当に大変な証拠固めをやらなければいけない。おとり捜査や通信傍受、盗聴という権限を与えるなら、当然、歯止めをかけることも必要になってくる。例えば、取り調べ時の弁護人立ち会い権など。日本の今までの政治では、政府に権限を与えるのはやめようというのが立憲主義だと言われがちだった。しかし、きちんと政府に権限を与えながら、その歯止めの手段も構築していく。権限と歯止めと両建てで構築していくのも立憲主義だ。政府に権限を与えないのが立憲主義だというのは違う。

玄葉氏:
今の橋下さんの話は、要は執行権限を問題視したわけだ。何度も言うが、丁寧にバランスのとれた議論をした結果として必要な権限は与えてもいい。ただ、与えすぎるとやはり問題なので、そこをしっかり冷静に議論しようということだ。

松川氏:
橋下さんには賛成だ。例えば、メールで何か送ってしまったというようなことを防ごうと思ったら、それをサイバー的に監視できるようにしないとダメだ。必要な権限をしっかり与えることは必要だ。そうでなかったから、産総研の今回の主任研究員の摘発にはすごく時間がかかった。実際に(情報漏えいが)行われたのは2018年だ。もうひとつは、中国の高度人材の人たちのこと。中国は法律でいざとなったら国のために情報を出せ、行動せよという義務を(国内外の)中国籍の人に課している国だ。しっかりとした措置ができる法体制や執行体制がなければ、彼らを安心して受け入れられない。そういう意味でも対策は必要だ。

玄葉氏:
積極的サイバー防御、サイバーの空間でどう安全を保障するか。これには常時パトロールが必要になる。有事の時だけではない。ある意味大変な執行権限をある特定の人にだけ与えることになる。それはいま橋下さんが言ったことに繋がっていく側面がある。我々はそれをポジティブに捉えている。

橋下氏:
非常に期待している。おとり捜査や盗聴捜査などを立憲民主党が認めるということを非常に期待している。

玄葉氏:
そこまで直裁的ではない。やはりもっとバランスの取れた議論が必要だ。

日曜報道THE PRIME
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