「尾鷲わっぱ」は、三重県尾鷲市の伝統工芸品だ。湿気を吸ってごはんをおいしく保つ昔ながらの「弁当箱」で、金属の釘や接着剤を使わないため、電子レンジでも使うことができる。「1年待つけど、100年もつ」と言われるほどの究極の弁当箱を生み出すのは、現在、唯一残るわっぱ職人の手仕事だ。

「プラスチックの弁当箱とは全然違う」 …100年持つ「尾鷲わっぱ」

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江戸時代に生まれた、三重県の指定伝統工芸品「尾鷲わっぱ」は、ヒノキの吸湿効果と漆の殺菌効果で、食べ物をおいしく長持ちさせることができる優れものだ。

漆を塗り直せば100年以上持つ、まさに一生もの。電子レンジにも対応する使い勝手の良さもあり、全国から注文が入り「1年待つけど、100年もつ」と言われるほどだ。

女性客:
(使い始めて)5~6年なんですけど、それまではプラスチックの弁当箱を使っていたので、これに替えてからはご飯の味が全然違います。べちゃべちゃした感じがないというか、水分を吸ってくれるので冷めてもおいしい。私の一生では使いきれないので、娘にあげようと思っています

伝統を守りながらより高みへ…唯一の尾鷲わっぱ職人が見せる手仕事

三重県尾鷲市にある明治20年(1887年)創業の工房「ぬし熊」。

現在、尾鷲わっぱを作ることができる唯一の職人、世古効史さん(64)の工房だ。

世古効史さん:
若いうちは機械でできないかと思ったけど、できんわな。手仕事そのものや。(客が)喜んでくれたら嬉しい

作るのに45もの工程があり、1つ作るのに1カ月以上かかる。その様子を見せてもらった。

尾鷲わっぱの素材となる「尾鷲ひのき」は、尾鷲に降る激しい雨に耐えるため、樹脂が多く、粘り強さがある。木を曲げて作る尾鷲わっぱには、最適な材料だ。

まずは「曲げ」。横板を一晩水につけたあと、熱を加えて曲げやすくする。

フタと本体、2枚の横板を重ねて、鉄製の型にあてて曲げる。

一気に曲げると折れるため、ゆっくりと慎重に。体重をしっかりと乗せ、木の状態を見ながら力を加減する。片側を曲げ、反対側も同様に。見た目以上に力を使い、息も上がる。

ある程度曲げたら、最後は手で丸める。硬い木が、見事に円を描いた。

世古効史さん:
折れる木もある、選ばないとね。昔の人はすごいよね

留め具で固定すると、一週間ほどかけ自然乾燥させる。

横板が乾くと、次は「とじ」の工程だ。炭火で熱したコテで、板の継ぎ目に細い穴を開けると…。

木の皮をハサミで切り始めた。

世古効史さん:
これ、桜の皮。切れにくいし、これがいいというか、これしかない

繊維が丈夫な山桜の皮を薄く削り…。

穴に通して板の継ぎ目をとじていく。継ぎ目を頑丈にする、昔ながらのやり方だ。

世古効史さん:
うちは接着剤を使っていない。これだけの穴で留めないと、(木の)反発力で開いてくる

接着剤を使えば手間は省けるが、それでは本来の「尾鷲わっぱ」ではなくなると世古さんはいう。大切なのは、忠実に伝統を守りながらも、より高みを目指す事。世古さんは先代たちよりも穴の数を増やし、さらに強度をあげている。手間をかけ「より進化した丈夫な尾鷲わっぱを」という職人の心意気だ。

「とじ」が終わると、底板を入れる。板を丸く削って…。

横板にはめて具合を見る。

世古効史さん:
うーん、初めにちょっと失敗したら、なかなか…。隙間がないようぴったりにしたい

わずかな隙間なら、このあとの工程で修正できるそうだが、妥協を許せないのが世古さんの性分だ。

世古効史さん:
これでどうだ

一度の修正でぴったりに合わせた。これぞ、職人技。

続いて底板をはめた部分に4カ所穴をあけ、自作した「竹釘」を打ちこむ。

世古効史さん:
(竹釘を)別に打たなくても少々のことでは外れないんだけど、20~30年経ったら木がやせて抜ける。その時のために打っている

口当たりや手触りをよくするため、縁をカンナで削って…。

「尾鷲わっぱ」の木地が完成した。

唯一の職人が大切に保管している125年前の尾鷲わっぱ

22歳で家業に入り、父親の作業を見て技を覚えた世古さんが、今も大切に保管しているものがある。初代が作った「丸型 弁当箱」。125年前の代物で、漆を塗り直せば今でも新品同様に使えるという。

世古効史さん:
山師の弁当箱、もともとは。こっちにご飯を入れて、こっちもご飯。ここに梅干しとか入れてぎゅっとしめる。石を焼いて水と味噌を入れて味噌汁を作ったり

世古効史さん:
100年以上の品を使っている人もおるで。これより古いのを(修理に)持ってきた人もおるでな

林業が盛んな尾鷲では、山仕事に携わる人々を中心に「尾鷲わっぱ」が昔から重宝されていた。親から子、子から孫へ、100年以上も使えるこの伝統工芸品を、より多くの人に使ってもらいたい。そんな世古さんの思いから生まれたのが、漆を使いつつ木目も生かした「摺り漆塗り(すりうるしぬり)」の商品だ。

弁当箱をはじめマグカップなど、今の時代にも使いやすいものも開発した。

世古効史さん:
(摺り漆塗りは)ちょっと価格を下げられる。一般の人に使ってもらうために作った

漆を塗りを何度も繰り返し完成した“究極の弁当箱=尾鷲わっぱ”

木地ができると「塗り」の工程へ。

漆に木の粉や小麦粉を練り混ぜた「こくそ」を、板の合わせ目に、隙間なく塗り込み…。

乾いたら漆を塗る。混ざり物のない漆を使うため、熱に強く、電子レンジにも対応する。漆を塗っては乾かし、磨く。繰り返す事、5回。

尾鷲わっぱ「摺り漆塗り 丸型弁当箱(大)」(1万6500円)が出来上がった。

世古効史さん:
これからも一緒、変わらない。普通に手を抜かずにやっていく。使う人が使いやすいもの、それしかない。作れるまで、一生

軽くて丈夫で水分を吸い、食べ物をおいしく保つ、優れもの。漆を塗り直せば100年以上ももつ、究極の弁当箱だ。

2023年4月6日放送

(東海テレビ)

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