2018年、東京で両親に宛てた悲痛なメッセージを残して、5歳の船戸結愛ちゃんが亡くなった。「虐待はどの家庭でも起こりうることだ」。今、虐待を受けているかもしれない子供たちを救うため、子育て中のお父さん・お母さんに、亡くなった結愛ちゃんの元主治医がメッセージを伝えた。

「ゆあちゃんのSOSから」元主治医登壇

6月4日、愛媛県松山市で、「児童虐待」について考える講演会が行われた。登壇したのは、香川県善通寺市にある「四国こどもとおとなの医療センター」の小児科医・木下あゆみさんだ。

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橋本利恵アナウンサー:
虐待はどこでも起きる可能性はあると思う?

木下あゆみ医師:
思います。どこにでも存在しうるものですし、どこにでもあるものじゃないかと思います。要は、親子がすごく揺らぎながら生活している。そこを一緒に考えていくってことがきっと大事。結愛ちゃんの事件があった後でも、虐待で子供たちがどんどん亡くなっている現実があるわけです

講演のタイトルは、「ゆあちゃんのSOSから」。「ゆあちゃん」とは、2018年3月に、東京・目黒区で、両親から虐待を受けて亡くなった船戸結愛ちゃん5歳のことだ。

「あしたはできるようにするから もうおねがい ゆるしてください」

事件後、結愛ちゃんがノートに書き残していた言葉が明らかになり、大きな衝撃を与えた。

一家は、東京に引っ越すまで香川に住んでいた。その頃から結愛ちゃんへの虐待は始まっていて、香川県の児童相談所も2度にわたり、結愛ちゃんを一時保護していた。木下医師は、その時の一時保護をきっかけに、定期的に結愛ちゃんを診察していた元主治医だ。

木下あゆみ医師:
(東京の関係機関に)「早く結愛ちゃんの様子を見に行ってほしい」とお伝えしてたけど、どこまで伝わってるかなっていう不安を持ちながら生活していた

ちょっとのお節介がSOSを出しやすく

虐待が疑われる子供たちを20年近く診察してきた木下医師。警察や児童相談所といった関係機関と協力して虐待を防ぐ体制作りを進めてきたが、「全員が『危機感』を共有する」ことの難しさを実感したという。

橋本利恵アナウンサー:
「危機感を共有できなかった」というのは?

木下あゆみ医師:
自分の中の危機感は、もちろんありましたけど、転居した先で(セーフティー)ネットが外れてしまう、隙間から落ちてしまうかもしれないっていう危機感を言語化して、うまく自分の温度で相手に伝えられてたかっていうと、そこはもしかしたら伝わってなかったのかな。もうちょっと、もう一歩だけみんながお節介になれると、隙間がちょっとだけちっちゃくなるっていうのはあるんじゃないかなと思います

“ほんのちょっとのお節介”。これは地域で生きるその他大勢の私たちにも同じことが言えるという。

木下あゆみ医師:
「大丈夫?」「しんどいちゃうん?」って言い合える地域ができると、もっと早く見つけられるし、SOSを出しやすくなるんちゃうかなって思います

橋本利恵アナウンサー:
それが先生の言う“お節介”

木下あゆみ医師:
そうです。大事なのはその1個手前から、「声を上げていいよ」っていう雰囲気を地域で出さないといけない

松山で小児救急に携わる看護師:
普段からスタッフと話してるのが、「あの時、言ったらよかったねっていう後悔がないようにしたいね」って。木下先生の言う“お節介”じゃないですけど、(自分の)果たす役割は大きいなと思いました

支援者や環境が虐待を防ぐ鍵に

木下医師自身も3人の子供を育てる母親だ。

木下あゆみ医師:
多分、虐待にどんどん行ってしまう親っていうのは、周りにリセットさせてくれるような支援者がいなかったりとか、リセットできるような環境があれば、多分そっちに行かずに済むだけの話で、その分岐点って結構ふわっとしてて、自分ももしかしたら、同じ環境であればそっちに行ってたのかもしれないし。「子供のためになんか動かなあかんな」っていう人が1人でも増えてくれたら、それはまわりまわって、子供のためになってるのかなと思ってお話をしている

救えなかった子供の命も、みんなでなら救うことができるかもしれない。そんな社会をつくるため、木下医師は訴え続ける。

木下医師は現在、厚労省のモデル事業であるチャイルドデスレビュー(CDR)という取り組みを行っている。これは転落や車の置き去り、誤嚥(ごえん)など、子供の死亡事例が起きた時に、その子がなぜ亡くなったか「情報を集め」「検証」し、同じ悲劇を繰り返さないよう「再発防止」につなげる取り組みだ。木下医師は、この「再発防止」は「今いる子供たちを大切に育てることにつながる」ということを多くの人に知ってほしいと話していた。

子育ての悩み相談や虐待の通告は窓口へ

子供や子育ての悩みは愛媛県内の各市町の子育て支援窓口で相談できます。愛媛県松山市の場合は、松山市子ども総合相談センター(089-943-3200)。

また、児童相談所虐待対応ダイヤル「189」は、「虐待かも」と思った時などに、すぐに児童相談所に通告・相談ができる全国共通の電話番号です。児童相談所虐待対応ダイヤル「189」にかけると、お近くの児童相談所につながります。

通告・相談は、匿名で行うこともでき、通告・相談をした人、その内容に関する秘密は守られます。

(テレビ愛媛)

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