人生の最期をどこで迎えたいか、2020年に日本財団が高齢者(67歳~81歳)を対象に行った全国調査では、「自宅」と回答した人が58.8%と6割近くに上った。しかし、厚生労働省のまとめによると、国内で自宅で亡くなる人の割合は2021年時点で17.2%にとどまっている。

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こうした現状がある中、自宅で暮らし続けたい人を支えようと、岩手・一関市に2年前、在宅医療に特化した診療所が開設された。地域を駆け回る在宅医の日々を取材した。

「総合診療」を志して一関へ

この日、在宅診療所のスタッフが一関市川崎町にある住宅を訪ねると、慢性的な肺疾患を抱える93歳の患者が待っていた。

やまと在宅診療所一関・杉山賢明医師:
眠れてますか

患者:
なかなか眠れないね

やまと在宅診療所一関で院長を務める杉山賢明医師(43)は、通院が困難な患者の自宅を回り、診療にあたっている。

患者の家族:
(病院に)行かれないからね、うちのおじいさん。おかげさんだね、先生に来ていただいて

やまと在宅診療所一関は、住宅だった建物を活用し、2021年4月に開設された。2023年6月現在、約160人の患者を診療していて、24時間態勢で往診にも対応している。

やまと在宅診療所一関・杉山賢明医師:
在宅医療、訪問診療を当たり前に選択できる地域にしていく。そういう理念のもとでやっています

杉山さんは2019年まで仙台を拠点としていたが、診療科にとらわれず患者の全身を診る総合診療を志し、開設と同時にやまと在宅診療所一関に赴任した。

やまと在宅診療所一関・杉山賢明医師:
総合診療、患者さんを全人的に診る。体だけでなくその人の社会的・経済的な背景にまで考えを巡らせながら診療をしていくという(総合診療の)考え方に非常に共感した。地域に出て医師として勤務するという魅力にどんどんとりつかれていくようになっていった

「在宅診療は心の支え」

この診療所では一関市の全域に加え、その周辺もカバーしていて、1日の移動距離は100kmを超えることも少なくない。

5月9日は、奥州市の住宅を訪ねた。菅原恭正さん(96)は、2週間に1回、在宅診療を受けている。介護をしている妻の昭子さんとは元教員同士で、2023年で、結婚して52年だ。

菅原恭正さん(96):
朝から晩までいろいろ昭子の世話になってとても幸せです

介護するうえで在宅診療は支えだと昭子さんは語る。

恭正さんの妻・昭子さん(79):
(在宅診療の)おかげで私も安心感を持てるし、本人はもちろんですけど。このままでいくと思います

慢性心不全と足の床ずれを患う恭正さんは、この日の2週間前、肺炎を発症し、病状は一進一退を繰り返していた。

やまと在宅診療所一関・杉山賢明医師:
頑張って、いい時に栄養を取ってください

菅原さん宅を後にした杉山さんは、移動中の車の中で、患者の元を離れる時の気持ちをこう語った。

やまと在宅診療所一関・杉山賢明医師:
(診療中は)次また会えるように今頑張らなければと思ってやっている。それまで頑張ってねと声がけしていくが、どうしても後ろ髪を引かれるような気持ちで

訪問看護との連携で患者の状態を把握

その2日後の5月11日、恭正さんの病状が悪化した。おう吐を繰り返し、血液中の酸素濃度が低下していた。在宅診療の予定がないこの日は、別の事業所の訪問看護師が訪ねて来た。

訪問看護師は在宅診療を補完するように、恭正さんのもとを週3、4回訪れ、体の状態を確認している。

訪問看護師は日頃からやまと在宅診療所とオンラインで患者の情報を共有しているが、この日は電話でも「昨日からおう吐があって、酸素量も80台になっていたので」と、やりとりし、往診を呼ぶことになった。

恭正さんの妻・昭子さん(79):
別の(事業所の)方が来ても、夫の様子を把握してくれるのですごいと思う

訪問看護ステーションさくら・菅原みち子看護師:
やまと在宅診療所の先生の場合、いろいろ話しやすい。指示を仰ぎやすい先生だと感じています

杉山さんの診療所では開設以来、地域の訪問看護ステーションとの間で連携強化を進めてきた。互いに患者の情報を伝え合い、常に最新の状況を把握できるようにしている。

やまと在宅診療所一関・杉山賢明医師:
刻々と患者さんの状態が変わる場合もあるので、訪問診療がすべてではない。訪問看護師さんがすごく大きな役割を果たしていて、情報をいただけると次のアクションも起こしやすくなる

ケアマネとの連携の強化も

さらに杉山さんは訪問看護師のほか、介護のコーディネートを行う「ケアマネージャー」との連携も強化している。この日はある94歳の患者のケアについてオンラインで協議した。

やまと在宅診療所一関・杉山賢明医師:
ADL(日常生活動作)が下がっている。(在宅での)リハビリを含めてサービスがもう少し入るといいのではないかという提案も含めてのカンファレンスでした

ケアマネージャー:
訪問看護で対応できるような訓練だったり、リハビリ的なところも広げてもらう形で今後対応してもらうようにするのはどうか

やまと在宅診療所一関・杉山賢明医師:
それは大変ありがたいです

こうした日頃の関係づくりがいざという時に生きるのだ。

やまと在宅診療所一関・杉山賢明医師:
お互い考えていることを同じテーブルに乗せて議論し合うというところまで突き詰めてやっていきたい。患者さんの安心安全のために、これ一点ですね

「どう生きたいのか考えるきっかけに」

一関市で在宅医を務めて3年目。今日も患者のもとを駆け回る杉山さん。

「誰もが安心して在宅療養を続けられる地域をつくりたい」。その目標に向かって歩みを進める日々が続く。

やまと在宅診療所一関・杉山賢明医師:
一関地方において在宅医療が当たり前のように選択できる。その選択肢があるからこそ自分はどう生きたいのか。一関市民が考えるきっかけになれたら幸いと思います

(岩手めんこいテレビ)

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