唐突な採決日程の提示
LGBT理解増進法案は9日の衆院内閣委で自民・公明両党が維新・国民案をほぼ丸呑みした修正案が賛成多数で可決された。16日にも参院本会議で成立の見通しだという。
修正案は浴場やトイレなどでの女性の権利侵害を防ぐため、「すべての国民が安心して生活できるよう留意」との表現を入れたほか、教育については「家庭や地域の協力」という表現を入れて、行き過ぎたLGBT教育を防ぐものとなっているなど、いくつかの部分は評価できる。
ただ与党案の「性同一性」を改めた「ジェンダーアイデンティティー」という言葉が、日本語では「性同一性」とも立憲・共産案の「性自認」とも訳されるため、与党案より立憲・共産案に寄ったものになっている。つまり肝心な部分が曖昧なのだ。
与党が広島サミット前に法案を提出したのは米国など参加国を気にしてのことであり、法案は審議せずに廃案か、よくても継続審議かと僕は思っていたので、内閣委の理事会で唐突に採決日程が示された時は大変驚いた。
たった2時間で丁寧に応えた?
法案が提出される前の先月16日、自民党の萩生田光一政調会長は「国会の審議を通じ、党に寄せられている懸念にも丁寧に応えていきたい」と述べていたが、質疑はたった1日だけで、8つの会派が10分ずつ1時間20分と、修正案について40分の計2時間。これで「丁寧に応えた」ことになるのだろうか。
この記事の画像(3枚)岸田文雄首相はこの問題にもともと大きな関心を持っていなかったと言われている。それがサミット前に唐突に自民党側に法案提出を求めた。まあそれは「G7へのお土産」だとしても、会期末になって一気に成立させるというのは一体どういうことか。
岸田首相が成立を急いだ理由について、9日付産経新聞の社説は岸田氏が「かねて同法案の成立を求めている」公明の意向に「配慮したとのの見方がある」と指摘している。
社説が言うように「自民、公明は次期衆院選の選挙区調整で対立している。公明との関係を修復し、選挙での支援を得るために成立を急いでいる」のであれば、とんでもない話ではあるが、岸田氏が会期末解散をまだ諦めていないという話もつじつまが合う。
一度廃案にした方がいい
LGBTの人たちが安心して暮らせる社会を作ることは我々の義務だ。だが逆差別が起きたり、女性や子どもの安全が損なわれることはあってはならない。世界各地でこの問題について定義の規定や解釈が曖昧なためトラブルが起きたり訴訟が起きたりしている。
LGBT理解増進法案を作ることに反対はしないが、この法案は差別の定義が曖昧であり、まだ当事者も含めた不安は払拭されていない。すぐに成立させず、一度廃案にして幅広い議論をしてから出し直すべきだと思う。
【執筆:フジテレビ上席解説委員 平井文夫】