リニア新幹線の静岡県と山梨県の県境付近のボーリング調査をめぐり、静岡市の難波喬司市長が“一技術者”として記者説明会を開いた。説明に使ったのはダイコンやペットボトルなどだ。難波市長はこれまでも「県境まで掘ってもいい」と話しており、改めてその考えを強調した。

“一技術者”として難波市長が説明

“一技術者”として会見にのぞむ難波市長
“一技術者”として会見にのぞむ難波市長
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2023年6月6日、「リニアのトンネル工事にかかる見解について説明する」と静岡市政記者クラブに案内があった。説明内容は「山中のトンネル掘削の先端付近(切り羽)での湧水現象について視覚的な理解のための説明~科学的・工学的根拠に基づく対話が円滑に進むために~」と記されていた。説明者は静岡市の難波喬司市長。ただ、肩書は静岡理工科大学 大学院理工学研究科の客員教授となっていた。

湧水現象の説明にダイコンやペットボトル使用
湧水現象の説明にダイコンやペットボトル使用

午後2時、記者クラブに姿を見せた難波市長。説明に使うため、ペットボトルやダイコンなどを用意していた。席に座ると、「市長ではなく理工科大学の客員教授の立場で話をしたい」と断りをいれ説明に入った。

静岡市・難波 喬司 市長:
静岡県とJR東海の認識に差異があるように思われるし、県・JR東海と自分の認識と差があり、今後 健全な科学的・工学的根拠に基づく対話が進むことが大事なので、それを願い技術者としてこの資料をまとめ、説明する機会をもらいました。静岡市長を務めてはいますが、市長の立場ではなく、あくまで一技術者として見解を述べたいと思います

科学的対話で重要なことは、「同じ土俵」で対話することだと話す難波市長。議論がかみ合わないときによくあることは、違う土俵で議論していて、今回のケースはそれに近いとのではないかという。

JR東海と静岡県は一定の長さのトンネル壁面での議論になっているが、難波市長は切り羽(先端付近)の断面で議論すべきだと主張する。

トンネル湧水には3つの現象

ペットボトルを使いトンネル湧水の現象を説明
ペットボトルを使いトンネル湧水の現象を説明

難波市長は、トンネル湧水は3つの現象に分けられるとしたうえで、簡易的・視覚的に理解しやすくするためにと、ペットボトルの先にストローを付けたもので説明した。

難波氏が示した資料
難波氏が示した資料

・現象① 岩中の切れ目にある水の湧水
ある程度液体の入ったペットボトルの先にストローをつけたものを逆さにすると、最初は先端から液体が少し出るが、しばらくすると止まる。これはペットボトル内の空気圧が下がり、液体がストローから出るのを引っ張るからだ。

同様にトンネル工事でもトンネル側面に岩の切れ目(水みち)があるとそこから湧水が出る。ただし、空気が地表から供給されなければ、岩の中の空気圧または水圧が下がり、切れ目からの湧水量は減っていく。

難波氏が示した資料
難波氏が示した資料

・現象② 岩中の切れ目が地表とつながっている場所からの湧水
一方、岩の切れ目が地表につながり、空気が供給されると、どうなるのか。底に穴が開いたペットボトルを逆さにすると、水は勢いよく流れた。

断層破砕帯は水と空気が混在し、地表から空気が供給される可能性が高く、この現象が起こりやすいそうだ。また、断層破砕帯でなくても、水みちが地表とつながっていれば、局所的に「水枯れ」が起きてしまうが、難波市長は、トンネル工事は地中1000m付近と距離があるため、どこかで切れていたり、かなり細くなっていたりして、そこまで問題にはならないと推測している。

難波氏が示した資料
難波氏が示した資料

・現象③切り羽(先端付近)の断面からの湧水
現象①と②が切り羽の断面で生じる。

「引っ張られる水」の評価は側面か断面か

難波市長の資料
難波市長の資料

県とJR東海が使っている計算式は、トンネル側面の湧水量を算出するものだという。専門部会でも10m掘り進めたときの湧水量の平均値で議論している。

県の資料によると、この計算式を使うと、地下1000mの位置では、トンネル工事の先進坑の断面積(約35平方メートル)での湧水量を1とした場合、ボーリング坑の断面積(約0.01平方メートル)は0.0003倍でも湧水量は0.61倍となっている。

難波市長の資料
難波市長の資料

難波市長は、「ある境界面で水を引っ張るか、引っ張らないかの議論は側面ではなく断面だ」と指摘し、切り羽断面の湧水量を計算することを推奨した。最も単純な計算方法で切り羽断面の湧水量を計算すると、先進坑の湧水量を1とした場合、ボーリング坑での湧水量は0.0018倍になるという。

「水が引っ張られる」問題のはじまり

静岡県の専門部会(2022年10月)
静岡県の専門部会(2022年10月)

難波市長が“一技術者”として、この問題に踏み込んだのはなぜか。

この記者説明から約7カ月前の2022年10月31日、難波市長は当時 静岡県の理事としてリニアを担当し、県の専門部会で「工事が県境に近づけば、トンネル内と地中の圧力差によって“静岡県内の水が引っ張られ山梨県に流出する可能性がある”」と指摘していた。

当時・県理事として出席した難波氏
当時・県理事として出席した難波氏

JR東海に対して静岡工区での着工を認めていない中、どこで止めるべきかを話し合われていた時の発言だ。その際、JR東海はデータが不足しているためボーリング調査などの結果を踏まえ、どこで止めるか対応を協議したいとこたえた。

つまり難波市長は「水が引っ張られる」とJR東海に指摘した張本人だ。一方で、当時 議論の対象となっていたのは「トンネル工事」で「ボーリング調査」ではない。

難波理事(当時)への辞令交付(2022年11月)
難波理事(当時)への辞令交付(2022年11月)

難波市長は静岡市長選挙に立候補するため当時はすでに退職届を提出しており、この専門部会の10日後に川勝知事から辞令が交付された。それ以降は県の専門部会や国の有識者会議には参加していない。

(テレビ静岡)

テレビ静岡
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