JR東海が山梨県内で行っているリニア新幹線のボーリング調査をめぐり、静岡県が地下水流出を理由に中止を要請したことについて、静岡市長が「賛同しない」と異を唱えた。市長は元国土交通省技官で、静岡県の副知事時代には川勝知事のもとでリニア問題を担当していた。

地質や地下水を把握するボーリング調査

南アルプス
南アルプス
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リニア新幹線の南アルプストンネルは約25kmで、山梨県・静岡県・長野県にまたがる。このうち静岡工区は約8.9kmで、静岡県は大井川の流量減少や南アルプスの環境への影響の懸念などから工事を認めていない。

JR東海のボーリング調査
JR東海のボーリング調査

ボーリング調査はトンネルを掘削する前に地質や地下水の状況を把握するため、JR東海が行っている。今回の区間は2023年2月に始まり、静岡県と山梨県の県境から山梨県側800mの地点から、直径12~35cmの穴を県境に向けて掘り進めている。
JR東海によると、5月20日時点で県境から459mの地点まできた。湧水は5月17日に毎分54リットルを観測したという。家庭用の浴槽 約300リットルが6分ほどで満水になる量だろうか。

「県境から300mで中止を」地下水流出の恐れ

地下水流出の可能性を説明する川勝知事(2023年2月)
地下水流出の可能性を説明する川勝知事(2023年2月)

このボーリング調査について、静岡県は県境から300mのところで止めるよう、5月11日にJR東海に要請した。

JR東海や静岡県の資料をもとに作成
JR東海や静岡県の資料をもとに作成

静岡側の「断層帯」及び「もろい区間」と、山梨側の「断層帯」及び「もろい区間」がつながっていて、山梨側でボーリング調査による突発湧水があると、静岡側の地下水が引っ張られ、山梨側に流出してしまう恐れがあるからだという。
流出する地下水の戻し方を決めるまで、調査を止めるべきだと主張している。

静岡市長「県境まで掘っても何の問題もない」

リニア新幹線 山梨実験線
リニア新幹線 山梨実験線

この静岡県の主張に異を唱えたのが、川勝知事の下でリニア担当の副知事を務め、2023年4月に静岡市長に転身した難波喬司 市長だ。副知事の前は国土交通省 大臣官房技術総括審議官を務めた工学のスペシャリストだ。

5月24日の定例会見
5月24日の定例会見

               

静岡市・難波 喬司 市長
ボーリングについては、山梨県境まで掘ってもいいと思っています。(県境より)300m前で止めるという議論について私は賛同していません

ボーリング調査の先端部分
ボーリング調査の先端部分

5月24日の定例記者会見で難波市長は工学を学んできた者の個人的見解とした上で、「ボーリング調査で掘る穴の直径(12cm)は短く、県境の300m先まで水は引っ張られない」として、県の考えに疑問を呈した。

資料をまるめボーリング調査の口径を説明する難波市長
資料をまるめボーリング調査の口径を説明する難波市長

静岡市・難波 喬司 市長
このくらいの口径のものが300m先にあるとき、風呂の水の底をポンと抜いた時に、300m先まで水を引っ張ることは考えられない。このくらいのものであれば、県境まで掘っても何の問題もないというのが私の考えです

川勝知事は、以前 “腹心の部下”だった難波市長の意見を、どうとらえただろうか。

不快感を示した山梨県知事とは携帯番号交換

さて、静岡県が山梨県内での調査の中止を要請したことについては、要請翌日の5月12日に山梨県の長崎幸太郎知事が不快感を示していた。

5月12日の山梨県・長崎知事の定例会見
5月12日の山梨県・長崎知事の定例会見

山梨県・長崎 幸太郎 知事
静岡県の議論には大変強い違和感を感じています。正直申し上げて

長崎知事は「県内の民間事業における行政権は国か山梨県にあるべき。科学的根拠を示してほしい」と、静岡県の対応を批判していた。

関東知事会での川勝知事(左)と長崎知事(5月24日)
関東知事会での川勝知事(左)と長崎知事(5月24日)

その長崎知事と川勝知事が5月24日に都内で開かれた関東知事会で顔を合わせた。2人は笑顔を見せながら挨拶をかわしていた。
川勝知事は、中止要請をめぐり事前連絡を怠ったことを謝罪したという。

静岡県・川勝 平太 知事
行政権に抵触するかのごとき、それほどのことを起こしたことについて大変申し訳なかったと。我々は山梨県の行政に関与するとか、そこに干渉すると全く考えていませんので

謝罪を受けた長崎知事は、ボーリング調査の問題について、静岡県の参加するリニア新幹線期成同盟会で共有することや、今後互いに緊密に連携していくことを確認したという。

山梨県・長崎 幸太郎 知事
こういうことを踏まえながらコミュニケーションも改善していきたい。最終的な着地を見出す努力を静岡県だけじゃなくて、山梨県も沿線自治体もしていくようなきっかけに今回の若干の“さざ波”を生かしていければ

関東知事会での川勝知事と山梨知事
関東知事会での川勝知事と山梨知事

2人の知事は「携帯電話の番号も交換した」と話し、それぞれの県の担当者のレベルでも互いにコミュニケーションを取っていく方針だ。
川勝知事は事前連絡を怠った点を謝罪しながらも、JR東海への中止要請については「撤回せず山梨県に理解を求めていく」と述べた。5月31日には静岡、山梨や沿線自治体が参加する期成同盟会の会議が開かれる。

JR東海社長「静岡工区の問題にしっかり対応」

ところで、JR東海は、今のところ予定通り県境までボーリング調査を進める考えだ。

リニア新幹線 山梨実験線
リニア新幹線 山梨実験線

リニア新幹線の整備は、国が夏に策定する国土形成計画にも盛り込まれる見通しとなった。
JR東海の丹羽社長は5月24日の会見で早期開業に向け、改めて意気込みを語った。

5月24日の記者会見
5月24日の記者会見

JR東海・丹羽 俊介 社長
わが国全体にとって重要なプロジェクトという認識で進めてきています。この問題(静岡工区)にしっかり対応して、できるだけ早い時期の開業を目指して全力を尽くしていきたい

ボーリング調査は県境から459mの地点まで来た(5月20日時点)。静岡県が中止を求める300m地点まであと159mだ。5月20日までの1週間で約120m掘り進んだことから考えると、あと1週間後、5月中に300m地点に到達する可能性がある。
丹羽社長が記者会見で述べた「静岡工区にしっかり対応」と「できるだけ早い時期の開業」。
社長の頭の中は、「静岡県の要請に応じた300m手前で中止」と「予定通りの県境までの調査」の、どちらがあるのだろうか。

(テレビ静岡)

テレビ静岡
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