育休の取得を検討する一方で、経済面で不安を感じる人は多いだろう。

前編でファイナンシャルプランナーの高山一恵さんに解説してもらった育児休業制度や給付金の情報をもとに、今回は夫婦で育休を取得した場合の支給額をシミュレーションしてもらう。

また育休中の税金の支払いや注意したい点なども聞いた。

夫婦それぞれ月収30万円の共働き世帯の場合

「男性は、育休を取得する期間に67%(または50%)の賃金が受け取れると考えられるので、計算しやすいです。一方、女性は産前産後休業と育休を合わせて1年間とし、計算がやや複雑になるので、今回はおおよその金額を示します」

●共働き夫婦(ともに額面月収30万円)の育休シミュレーション

【パパ:育休1年取得】【ママ:産後休業+育休1年取得】の場合
パパの育児休業給付金:約210万円
ママの出産手当金:約65万円
ママの育児休業給付金:約182万円

【パパ:育休6カ月(180日)取得】【ママ:産後休業+育休1年取得】の場合
パパの育児休業給付金:約120万円
ママの出産手当金:約65万円
ママの育児休業給付金:約182万円

【パパ:産後パパ育休4週間(28日)、育休1カ月(30日)取得】【ママ:産後休業+育休1年取得】の場合
パパの育児休業給付金:約38万円
ママの出産手当金:約65万円
ママの育児休業給付金:約182万円

【育児休業】
子どもが1歳(保育所に申し込んだものの入所できなかったなどの事情がある場合は最長で2歳)に達するまで取得できる休業制度。

2022年10月からは対象期間内であれば、2回に分けて取得できるようになった。

夫婦ともに育休を取得する場合は、子どもが1歳2カ月に達するまで延長が可能だが、延長されるのは育休取得期間の期日であり、育休が取得できる期間はこれまで通り1年間(パパ・ママ育休プラス)。

【産後パパ育休(出生時育児休業)】
2022年10月の育児・介護休業法が改正され、創設されたもの。

父親が子どもの出生後8週間以内(母親の産後休業中)に、最長4週間(28日)まで取得できる休業制度。出生後8週間以内であれば、2回に分けて取得できる。

労使協定を締結している場合に限り、労働者が合意した範囲で休業中の就業(10日以下または10日を超える場合は80時間以下)も可能。

「さまざまなシミュレーションサイトで計算すると実際の支給額とは異なることもあるかと思いますが、目安として事前に知っておくといいと思います。正確に知りたい場合は、社会保険労務士に相談するといいでしょう」

育休中も働けるが“働きすぎ”に注意

育児休業給付金は、1歳未満の子を養育するために育児休業を取得している間、支給されるもの。

高山さんは「育児休業給付金は、会社員であれば誰でも受け取れるもの、というわけではありません」とし、「1歳未満の子どもの養育のために育休を取得することに加え、次のような要件が設けられています」と指摘する。

●育児休業給付金の支給要件
(1)休業開始日前2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上または就業した時間数が80時間以上ある完全月が12カ月以上あること
(2)一支給単位期間中の就業日数が10日以下または就業した時間数が80時間以下であること
(3)期間を定めて雇用されている人の場合、養育する子どもが1歳6カ月に達する日までの間に、その労働契約の期間が満了することが明らかでないこと

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「1つ目の要件に『休業開始日前2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上ある完全月が12カ月以上あること』とありますが、こちらは前職の雇用保険加入期間も含められます。

現在の職場で雇用保険加入期間が12カ月に満たない場合は、育休開始日前2年間で雇用保険に加入していた期間を確認しましょう。

例えば、転職したばかりでも育休を取得できるかもしれません。支給要件を正しく理解できないと損をしてしまうことがあるかもしれないので、会社の担当者や専門家に聞いたり、厚生労働省のホームページなどでよく確認したりするようにしましょう」

産後パパ育休を取得した際に支給される出生時育児休業給付金もほぼ同じ要件だが、期間を定めて雇用されている人は、「子どもの出生日から8週間を経過する日の翌日から6カ月を経過する日までに、その労働契約の期間が満了することが明らかでないこと」とされている。

(画像:イメージ)
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育児休業給付金や出生時育児休業給付金を受け取る上で、注意すべきは、2つ目の支給要件だという。

「育休中の就業は認められていますが、1カ月(出生時育児休業給付金の場合は28日)の間に、11日以上または80時間以上働いてしまうと、給付金は受け取れません。給料と給付金をダブルで受け取ることはできないのです」

特に出生時育児休業給付金では、就業日数や時間数に要注意とのこと。

「産後パパ育休の期間に比例して、働いてもいい日数が短くなります。4週間(28日)フルで取得すれば、最大10日(10日を超える場合は就業時間80時間)まで働けますが、2週間(14日)の育休だと、働ける日数は5日または40時間までとなるのです」

さらに、産後パパ育休中に就業して勤務先から給料が支払われた場合、給付金が減る可能性がある。

育休中は「社会保険料」「税金」が免除に

育休中は、給付金の中から税金や社会保険料を支払うことになるのだろうか。

「育休中は、社会保険料(健康保険、厚生年金保険)が全額免除されます。その間も保険料は支払ったものとして扱われるので、育休中の病気やケガの診察・治療は3割負担で受けられますし、老後の年金にも反映されます」

育休を開始した月に支払われた給与やボーナスも、社会保険料免除となる可能性があるという。

「給与に関しては、育休を開始した月に月末を迎えたら、その月の社会保険料は免除となります。月末を迎えない場合も、2022年10月以降に開始した育休についてはその月に14日以上育休を取得していれば免除です。

ボーナスも同じく2022年10月以降に開始した育休は、1カ月を超えている場合に加えて、育休期間に月末を迎える月に支給されたボーナスにかかる社会保険料が免除になります」

(画像:イメージ)
(画像:イメージ)

ちなみに、雇用保険も勤務先から給与が支払われない場合、保険料の負担がなくなる。ただ、注意したいのは住民税だ。

「育児休業給付金も出生時育児休業給付金も非課税なので、所得税や住民税は発生しません。ただし、住民税は育休中も支払う必要があります。

住民税は、所得があった年の翌年に発生するものだからです。通常、住民税はその年の1月~12月の所得をもとに計算されます。

例えば、2022年6月1日から12月31日まで育休を取得した場合、1年間フルで働いているわけではないため、育休から復帰した後は通常で働いていたときよりも住民税が減る形になります。

ですから、フルタイムで働いていた時期と同等のレベルでふるさと納税をしても、節税効果が得られないという注意点があります」

また、2019年4月からフリーランスでも産前産後の一定期間、国民年金保険料が免除となる制度が始まった。

「フリーランスの人も申請すれば、出産予定日または出産日が属する月の前月から4カ月間、国民年金保険料が免除されます。厚生年金と同様に、免除期間は保険料を支払ったものとして扱われるので、老後の年金に反映されます。多少は金銭的な負担を軽減できるでしょう」

給付金支給まで「3カ月」のタイムラグがある!?

育休中、社会保険料も税金も免除され、給付金も支給される。

しかし、「注意点がある」と、高山さんは言う。

「申請から支給までにはタイムラグがあります。原則として育児休業給付金は2カ月分まとめて受け取ることになり、一般的に最初の2カ月分は、育休開始から3カ月後くらいの受け取りになることが多いようです」

つまり、支給されるまでの間の生活費は、備えておくべきということになる。

「夫婦が同じタイミングで育休を取る場合、給付金が入ってくるまでの間は貯金を取り崩しながら生活することになるでしょう。給付金も、働いている時の収入より少なくなるので、少なくとも生活費の3~6カ月分の貯金は用意しておきたいところです」

1年まるまる取得することも、分割して数カ月ずつ取ることもできる育休。家族のライフプランや家計を踏まえたうえで、期間やタイミングを決めていけるといいだろう。
 

高山一恵
ファイナンシャルプランナー。Money&You取締役。2005年に女性による女性のためのファイナンシャルプランニングオフィス・エフピーウーマン設立に参画。2015年から現職に就任。講演、執筆、個人マネー相談などを通じて、お金の知識を伝えるべく活動中。著書に『1日1分読むだけで身につくお金大全100(改訂版)』(自由国民社)など多数。

取材・文=有竹亮介(verb)
イラスト=さいとうひさし

プライムオンライン編集部
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FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。