次世代の女性IT起業家育成のため、女子中高生らを対象に行われる社会課題解決型のアプリ開発コンテスト「Technovation Girls(テクノベーション・ガールズ)」。先日都内渋谷で行われた国内決勝大会の熱気溢れるピッチイベントを取材した。
ITで社会を変える女子中高生らが渋谷に集結
「社会を変えたい」「こんなテクノロジーをつくりたい」
そんな志をもってステージに登壇したのは、全国から集まった女子およびジェンダーマイノリティの中高生32人。事前審査で選抜された10チームが、開発したアプリとその事業計画のプレゼンテーションを行った。参加者は約3ヶ月間にわたって、自ら設定した社会課題を解決するアプリを開発した。
主催したのはIT分野のジェンダーギャップの解消を目指す、特定非営利活動法人Waffle(ワッフル)。このコンテスト「Technovation Girls(テクノベーション・ガールズ)」はアメリカのSTEM教育NPOが主催し、2010年から世界100か国以上、34,000人以上が参加している。日本では2019年よりWaffleが他の国内教育NPOなどとも連携し世界大会への出場者を支援してきた。
この記事の画像(10枚)昆虫を通して生物多様性を学ぶアプリとは
「皆さんこの写真をご覧ください。普通の道路です。しかし、この写真には生物多様性の鍵を握る重要な生物がいます」
1人で開発に挑んだチーム「Re Go Round」がプレゼンしたのは、昆虫好きの小学生が生物多様性の大切さを学べるアプリ「Manisect(マニセクト)」だ。プレゼンしたのは岸ダリアさん。沖縄からやってきた中学1年生だ。
岸さんは開発したアプリで「昆虫好きな小学生が昆虫を通して、楽しく生物多様性の大切さを学ぶことができる」という。
「アプリの3つの機能を紹介します。1つ目が種類判別カメラで、撮影した昆虫の写真をAIが分析して名前と特徴を教えます。2つ目はユーザーが撮影してきた昆虫の写真のデータベースを表示します。3つ目の機能では環境により昆虫の種類が増減していることを疑似体験できます」
「これからAIの質をもっと高めたいです」
岸さんは100人以上の昆虫好きが集まるオンラインコミュニティで、アプリのフィードバックをもらい改善してきたという。そしてインタビューの結果、その約85%が「アプリを使用してみたい」と回答したそうだ。
「将来的には昆虫好きの人以外も、楽しく生物多様性について学べる場を制作していきたいです」
ピッチ後大きな拍手を受けた岸さんは、この国内決勝大会で2つの賞を受賞。世界大会のセミファイナルへと進むことになった。イベント終了後、岸さんに話を聞くと「プログラミングを本格的にやったことはないので、ほぼ初心者と同じレベルです」と驚きの答えが返ってきた。「最初は提出まですれば達成感があると思っていました。まさか2つも受賞するなんて思っていなかったのでびっくりです。これからAIの質をもっと高めたいです」
家族との絆を保つアプリで孤独を解消する
「皆さんは家族と連絡をとっていますか?」
家族と離れて暮らす学生たちが家族との絆を保つアプリも登場した。チーム・アプリ名は「Callback(コールバック)」だ。
「約200人に質問したところ、家族ともっと連絡を取りたいと答えたのは約9割でした。なぜ連絡が続かないかを聞いたところ、『話題がなくて気まずい』、『いつ連絡したらいいのかわからない』などの回答を多く頂きました」
プレゼンは続く。
「この問題を解決するCallbackの機能は2つ。1つは話題提供。相手が年上でも年下でも会話が楽しく続くようにサポートしてくれます。2つめがステータス共有。家族の現状をリアルタイムに知ることができるので、タイムリーに連絡できます。孤独や孤立は大きな問題です。将来は子ども家庭庁などの関係省庁と連携し、全国の学校にこのアプリを導入したいです」
このグループのメンバーは住んでいる地域も年齢も様々だ。関心のある社会課題が近い者同士がオンラインで知り合ってチームを組んだという。当初は具体的なテーマ決めに手間取ったものの、メンバーの1人が「私は祖父母が遠くに住んでいて、もっと深いつながりをもてるものを作れないかな」と言ったことがきっかけで、このアプリの開発がスタートしたそうだ。
「高校の授業をより有意義なものにしたい」
「大切な高校生活でなるべく多くのことを学べたほうがいいと思いませんか?」
こう問いかけたのはチーム「INTER ACT」。彼女たちは授業中に分からないことを他の生徒や先生と共有できるアプリ「NoTeAG(ノータグ)」を開発した。
「アンケートを行った結果、80%の生徒が授業についていけていないと感じることが分かりました。これは先生が一方的にしゃべり続け、生徒が質問できないことにあります。この状況を変えるため、このアプリでは授業中に付箋を貼ることで、一目でどんな疑問を解決してほしいのか先生に伝えることができます。私たちの目標はNoTeAGで、日本の高校の授業をより有意義なものにすることです」
高校生チームだが、メンバーの住んでいる地域は様々だ。今回の活動で出会ったという5人に話を聞くと、「普段から学校の授業に対しての意識が5人の中にずっとあった」という。「それをどう解決するか1ヶ月ぐらいずっと話し合って、調べていくうちに付箋型アプリだったら教師も生徒も使いやすいと気づきました。付箋が共感した人数に応じて大きくなるとか、コーディングの技術をすごく鍛えられましたね」
IT分野のジェンダーギャップ解消に挑み続ける
コンテストを終えてWaffleの田中沙弥果理事長はこう語った。
「この3か月間でアントレプレナーシップ教育とコーディングのブートキャンプをやりました。アントレプレナーシップ教育は、身近な課題をより深掘りして『なぜあなたがその課題を解決しないといけないのか』を常に考えるワークショップを行いました。ブートキャンプでは、プログラミングの経験が全くなくても、ある程度のモバイルアプリ開発ができるようになりましたね」
WaffleはIT分野のジェンダーギャップ解消に挑んできた。前回Waffleを取材してから2年半がたった筆者は、「この間に日本は変わりましたか」と聞いてみた。
「日本は変わってきましたね。政府もこの分野に本腰入れてきて、内閣府が動き出したし、文科省は女子中高生の理工系促進のために予算を増やしています」(田中さん)
コンテストを通して成長した彼女たちが、ITを駆使して社会を変えるロールモデルとなっていくのだ。
(関連記事:女子中高生がIT分野のジェンダーギャップ解消に挑む)
【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】