岩手・一関市で暮らす三浦りんさんは重い障害があるが、数年前からアート作品を描いている。テクノロジーの進歩と、子どもを思う愛情が、個性あふれる作品を生み出した。岩手を飛び越え全国に広がるアートの世界を見つめる。

「視線入力」との出会いが転機に

花巻市の「るんびにい美術館」では、5月19日から企画展「ぬくもりは言葉 まなざざしは言葉」がスタートした。

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アート作品の作者は県内外で暮らす重い障害がある人たちで、「視線入力」という技術で描いた。

作品づくりの先駆けとなったのが、岩手県の三浦りんさん(20)だ。

一関市で暮らすりんさんは、難治性てんかん ウエスト症候群という障害がある。日々の生活で、母・かおるさんは娘の可能性を探し続けてきた。

島根大学の伊藤史人さんとりんさん
島根大学の伊藤史人さんとりんさん

親子に転機が訪れたのは5年ほど前。目をパソコンのマウスのように使う「視線入力」と出会ったのだ。島根大学の伊藤史人さんらが、訓練用のソフトを開発し無償で提供していた。

母・三浦かおるさん:
この人(りんさん)が何を見て何を考えているのかが知れたら、もっと豊かに暮らせるかなと思います。母として私が一番うれしいので。是非トライしてみたいなと思いました

くりくり動く黒目が描く姿に感動

以前は、介助を受けながらの作品づくりだった。視線入力を使うようになってからは、目でカーソルを合わせ色を選択。目の動きが絵筆となり色を重ねていく。

母・三浦かおるさん:
本当に本人の見る力だけで、できるので。「あ、これだ」と思って。本人のくりくり動く黒目が描いてる姿は、やっぱりすごく感動するんですよね

母・かおるさんは、作品をアクセサリーなどに加工し、その様子をSNSで発信した。すると、取り組みは同じような障害がある人たちの間で瞬く間に広がり、新たなアイデアも生まれた。

作品から得た気づき

作品づくりと共に広がる世界。この日は、滝沢市の店「パンテック」への加工品の納入日。

「パンテック」では、りんさんの創作活動を後押ししたいと、加工品の展示販売をしている。店内にはあちこちに、りんさんの作品が展示されている。

パンテック岩手滝沢店 店長・羽上紗由さん:
こんなに迫力のある、こんな感性のある作品をつくっていることに、びっくりしました

『菜の花畑』
『菜の花畑』

この店には、母・かおるさんにとって大きな気づきとなった作品がある。代表作とも言える「菜の花畑」を描いた作品だ。温もりあふれる色合いは心の春を感じさせる。

母・三浦かおるさん:
菜の花畑を(友人に)見せてもらった後描いてみたら、黄色で塗ったっていうのがあって。それを見た時、ちょっと私、ざわって鳥肌が立った

『二十歳の振り袖』
『二十歳の振り袖』

鮮やかな色合いの作品は、二十歳の振り袖を選んだ後に描いた。

母・三浦かおるさん:
この人の中にはちゃんと、そういう見た世界とか、出会った人とかっていうのが、やっぱりたまってるんだなって。それを表出する手段がなかったんだなって

「ボーダーレスアートになって全国へ」

花巻市のるんびにい美術館では、視線で描かれる世界に魅了されたスタッフが今回の特別展を企画した。

今、重い障害がある人たちがその目を輝かせている。あふれんばかりの思いを込めて。

きのう何がありましたか?いま、伝えたいことはありますか?もしも願いが叶うなら、あなたは何を望みますか?

眼差しで描く心の世界。作品それぞれが未来へとつながる希望の架け橋だ。

母・三浦かおるさん:
障害者アートじゃなくて。ボーダーレスアートになって。岩手から全国に広まっていったらいいなと思っています

(岩手めんこいテレビ)

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岩手めんこいテレビ
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