19日から21日までの3日間にわたるG7広島サミットを終え、岸田首相が平和公園の慰霊碑前で議長国会見を開いた。会見の全文をまとめた。

議長国会見全文

先ほどG7広島サミットは全てのセッションを終了し、閉幕いたしました。G7首脳、8つの招待国の首脳と、7つの国際機関の長、そして全ての参加者、関係者の皆様に心から感謝を申し上げます。

今回の歴史的なサミットの成果について総括させていただきますが、その前に少しお時間をちょうだいして、まず、ここ広島の地でサミットを開催した私の思いを述べさせていただきます。

1945年の夏、広島は原爆によって破壊されました。平和記念公園が位置するこの場所も一瞬で焦土と化したのです。その後、被爆者を始め広島の人々のたゆまぬ努力によって広島がこのような美しい街として再建され、平和都市として生まれ変わることを誰が想像したでしょう。7年前の春、私は外務大臣としてここ広島でG7外相会合を開催しました。さらにその翌月には米国のオバマ大統領を広島に迎え、激しい戦火を交えた日米両国が寛容と和解の精神のもと、広島の地から核兵器のない世界の誓いを新たにしたのです。平和記念公園を設計した丹下健三氏は、平和を造り出すとの願いを込め、原爆ドームから伸びる1本の軸線上に慰霊碑や平和記念資料館を配置しました。平和の願いを象徴するこの軸線はまさに戦後の日本の歩みを貫く理念であり、国際社会が進むべき方向を示すものです。

今、我々はロシアによるウクライナ侵略という国際秩序を揺るがす課題に直面しています。今のような厳しい安全保障環境だからこそ法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を掲示し、平和と繁栄を守り抜く決意を世界に示す、それが本年のG7議長国である日本に課された試練と言えます。そのような決意を発信するうえで平和の誓いを象徴する広島の地ほどふさわしい場所はありません。このような思いから今回、G7および招待国の首脳、国際機関の長に広島に集まっていただきました。そして、今回G7首脳と胸襟を開いて核兵器のない世界に向けて取り組んでいく決意を改めて共有し、G7として初めての核軍縮に焦点を当てた核軍縮に関するG7首脳広島ビジョンを発信することができました。この中で、77年間の核兵器不使用の重要性について一致するとともに、核戦争に勝者はなく、核戦争は決して戦ってはならないことを確認いたしました。被爆地を訪れ、被爆者の声を聞き、被爆の実相や平和を願う人々の思いに直接触れたG7首脳がこのような声明を発出することに歴史的な意義を感じます。また今朝、招待国の首脳や国際機関の長とも、ここ広島記念公園を訪れ、平和の誓いを共有することができました。

19日、平和公園で献花をしたG7首脳たち
19日、平和公園で献花をしたG7首脳たち
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我々首脳は2つの責任を負っています。1つは、現下の厳しい安全保障環境のもと、国民の安全を守り抜くという厳然たる責任です。同時に、核兵器のない世界という理想を見失うことなくそれを追い求め続けるという崇高な責任です。将来の世代が核の恐怖におびえることなく、平和と繁栄を享受できるようにすること、これは我々の信念であり、責務です。だからこそ、核兵器の使用が筆舌につくしがたい惨状を現にもたらしたこと、そして核戦争が我々人類そのものを破壊しかねないのであることを被爆地広島から、我々の世代は訴え続けていかなければなりません。こうした悲惨な結末をなんとしても避けるため核兵器のない世界という未来への道を着実に歩んでいく必要があります。

今日、こうして人類の生存を信じ、平和を希求し広島に集う、各国のリーダーたち、世界のメディア、明日を担う若者や子どもたち。そして、先の大戦を知るみなさん。我々はみな、ヒロシマの市民です。世界80億の民が全員そうしてヒロシマの市民となったとき、この地球上から核兵器はなくなるでしょう。私はそれを信じています。今回、私はそうした思いでここ広島に世界の首脳たちに集まっていただきました。

夢想と理想は違います。理想には手が届くのです。我々の子どもたち、孫たち、子孫たちが核兵器のない世界に暮らす理想に向かって、ここ広島から、今日から、一人一人がヒロシマの市民として一歩一歩現実的な歩みを進めていきましょう。

慰霊碑前で議長国会見を行う岸田首相
慰霊碑前で議長国会見を行う岸田首相

1945年8月6日、午前8時15分。77年と9カ月の月日を経て、我々G7の首脳はこの地に集いました。時を隔てた広島の声と祈りを我々は今共に聞いています。力による現状変更のための核兵器による威嚇、ましてやその使用はあってはなりません。核兵器を使わない、核兵器で脅さない。人類の生存に関わるこの根源的な命題を我々は今こそ問わなければなりません。

国際社会は今、力により一方的に国境線を変更しようとするロシアの暴挙を目の当たりにし、歴史の転換期に立っています。主権や領土一体性の尊重といった先人が築き上げ、長年にわたり擁護してきた、誰しも疑いようのない原則が挑戦を受ける真っただ中で、広島サミットは開催されました。

ゼレンスキー大統領を日本にお招きして、G7とウクライナの揺るぎない連帯を示すとともに、G7として法の支配に基づく、自由で開かれた国際秩序の重要性を確認し、これを守り抜く決意を新たにするとのメッセージを世界に向けて力強く示せたことが意義深いことであると感じています。世界のどこであれ、力による一方的な現状変更の試みは決して認められません。G7として1日も早くウクライナに公正かつ、永続的な平和をもたらすべく努力していきます。また、ウクライナの復旧、復興には民間セクターの参画が不可欠であると。そして対ロシア制裁を維持、強化しその効果を確かなものとするために制裁の回避、迂回防止に向け、取り組みを強化していくことで一致をいたしました。

世界は今、ウクライナ侵略に加え、気候危機やパンデミックなど複合的な危機に直面しており、それによりグローバルサウスと呼ばれる新興国、途上国やぜい弱な立場の人々が甚大な影響を受けていることも事実です。こうした国や人の声に耳を傾け、人を中心に据えたアプローチを通じて、人間の尊厳や人間の安全保障を大切にしつつ、喫緊の幅広い課題に協力する姿勢を示さないことには法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を守り抜くとの訴えも空虚なものとなりかねません。こうした国々とG7を橋渡しすべく世界各地で積極的に行ってきた外交を礎とし、広島サミットではG7に加え、国際的なパートナーも交え、我々が対応しなければならない様々な課題について真剣な議論を行いました。

食糧危機は人々の暮らしにかかわる喫緊の課題です。今回、G7と招待国が連帯してこの課題に取り組んでいくことを行動声明として確認しました。また、グローバルなインフラ支援で協同することを確認するとともに、その際透明で公正な開発金融を促進していくことで一致をしました。

人類共通の待ったなしの課題である気候危機についても率直な議論を行い、気候変動、生物多様性、汚染といった課題に一体的に取り組む必要があることを確認しました。また、エネルギー安全保障、気候危機、地政学的リスクを一体的に捉え、各国の事情に応じた多様な道筋のもとでネットゼロという共通のルールを目指すという認識を共有しました。日本はアジア・ゼロエミッション共同体構想の実現を通じ、地域のパートナー国のエネルギー移行を支援していきます。

さらに新型コロナが終息する中、次なる危機に備えるための国際保健、ジェンダー主流化の推進といった課題についても議論を深め、連帯を確認しました。国際保健についてはG7全体として資金貢献を行っていく中で日本はグローバルヘルス技術振興基金への2億ドルのプレッジを含め、官民合わせて75億ドルの貢献を行う考えです。世界の諸課題の解決に向けた貢献は常にG7の中核的な使命であり続けてきました。世界が複合的な危機に直面する今こそ、G7として様々な課題に直面する国際的なパートナーの声を聞き、彼らと連携しつつそうした課題にきめ細やかに対応していく決意です。

世界経済に目を向ければロシアのウクライナ侵略が長期化する中、インフレ圧力、食料、エネルギー不安をはじめ深刻な困難が存在しています。G7として世界経済を力強く牽引し、持続的な成長の実現のための取り組みを主導することを確認しました。持続的な経済成長のためには、供給サイドに働きかけ、民間投資を喚起する取り組みの促進が重要であるとの考えをG7として議論する中で、私からは日本が掲げる新しい資本主義について触れ、官民連携のもと、人への投資や社会課題の解決などを通じ成長と分配の好循環の推進に尽力していることを説明しました。また、今回、G7サミットでは初めて経済的強靭性、経済安全保障を独立したセッションで扱いました。多角的貿易体制の重要性は変わらない一方で、グローバルサウスを含む国際社会全体の経済的強靭性と経済安全保障を強化していくことも必要です。そのためにG7としてサプライチェーンや機関インフラの強靭化、経済的威圧に関するプラットフォームの立ち上げなど、取り組みを強化し、また世界全体のクリーンエネルギー経済への移行をリードしていきます。

今回のサミットは7年ぶりにアジア唯一のG7メンバーである日本で開催されたこともあり、インド太平洋についてもしっかり議論を行いました。私からは自由で開かれたインド太平洋FOIPのための新たなプランを説明し、引き続きG7としてFOIPの実現のために協力していくことで一致しました。中国については率直な対話を行って、懸念を直接伝える重要性やグローバルな課題等について協働する必要性について一致するとともに、中国は国際社会において責任ある一員として行動すべきこと、そして対話を通じて中国と建設的かつ安定的な関係を構築する用意があることなのについてG7で認識を共有しました。東シナ海、南シナ海情勢については深刻な懸念を表明し、力や威圧による一方的な現状変更の試みへの反対で一致をしました。また、台湾海峡の平和と安定の重要性を再確認し、両岸問題の平和的解決を促しました。北朝鮮については核ミサイル問題や拉致問題について引き続き連携していくことを確認し、G7として拉致問題の即時解決を強く求めました。

本日、広島サミットは閉幕となりますが、日本のG7議長年は続きます。法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を守り抜く、そして国際パートナーとの関与を強化する。こうした観点からG7の議論を主導し、議長年の務めをしっかりと果たしていきます。G20ニューデリーサミットやSDGsサミット、日ASEN特別首脳会議など、グローバルサウスを含む国際的なパートナーと連携する機会も続きます。こうした機会にここ広島での充実した議論を引きつぎ、様々な課題をともに解決すべく、これらの国々との連携の強化を主導していきます。

最後になりますが、3日間に渡るサミット開催にご協力いただきました広島のみなさんと関係各位に心から感謝を申し上げます。誠にありがとうございました。

(テレビ新広島)

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