愛媛・西条市沖のひうち灘で今、冬だけでなく、1年中食べられるマガキが養殖されている。挑戦するのはノリの養殖業者で、不作が続くノリに代わるビジネスチャンスを模索している。

“夏でも食べられる”プリプリのカキ

松山市にある、ミシュラン一つ星の高級鮨店「鮨 いの」。この店で提供されているプリプリのカキは、実は西条市で養殖されたものだ。

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「鮨 いの」店主・猪野祐介さん:
殻自体がすごくきれいでふっくらしてるので、この中、ぱんぱんに入ってるんですね。味は食べてもらうとめちゃくちゃおいしいので、びっくりされますね

常連客に提供されたのは、「酢牡蠣(すがき)」と「牡蠣の低温調理・すじ青海苔」だ。

常連客からは、「めっちゃ磯の香するわ」「めっちゃクリーミー」「いっぱい食べてきた中でも、一番ぐらいおいしかったですね。(初夏の)この時期に食べられるのは幸せです」などの声が聞かれた。

杉本真吾さんは、西条でこのカキを試験養殖している。

杉本真吾さん:
「尺玉」と言って、黒いまん丸いのが浮いてると思うんですけど、これに全部バスケットがつった状態になってます。こういう状態で、バラバラな感じで養殖してます

出てきたのは、8cmほどに育ったカキだ。殻を開いてみると…。

杉本真吾さん:
身がぱんぱんに入ってますんでね。これは、ひうち灘で育てて「瑞宝」というブランドで販売しているマガキになります。プリっとした感じの、火を通しても身縮みがしにくいカキですね

不作続くノリの養殖に代わるビジネスチャンスに

西条市を流れる加茂川の沖に広がるひうち灘で、2022年8月からマガキの試験養殖を始めた杉本さん。本業は、東予で古くから盛んなノリの養殖だ。しかし近年、海の栄養不足や気候変動などが原因で、ノリの色落ちによる品質低下や収量の減少が続いているという。

杉本真吾さん:
我慢して我慢して、いい時も、もしかしたら来るかも知れんと思って(ノリ養殖を)みんなしよんですけど、気候変動で海水が年間通して1度、2度高かったりするので、その辺(ノリ養殖継続)は難しいんじゃないかというところですね

杉本さんは、ノリが元気に育つ干潟の再生を目指し、海底を耕して砂地の下の栄養分を掘り起こすなど、様々な取り組みに挑戦してきた
一方で、新たなビジネスチャンスを狙って目を付けたのがカキの養殖だった。

杉本真吾さん:
色んな事をしてみたんですけど、カキはこの辺に自生はしてるんです。大きくはならないんですけど、そこからヒントを得て、自生してるんだったら何とかなるかもしれんと思って

このマガキの養殖、実はひうち灘では初めての試みだった。

愛媛県東予地方局水産課・薬師寺房憲課長:
近隣種のイワガキについては、すでに漁業権を取得しまして、西条市沖で養殖をされてるんですけど、マガキに関しては初めてですね。ひうち灘といえば、ノリ養殖が基幹産業であって、マガキという生き物に対して着目してなかったと思います

杉本さんが養殖しているカキは、約3万個。マガキは、通常1~2年かけて出荷レベルまで育てるが、杉本さんのカキは4カ月ほどの短期間で出荷サイズに育ち、さらに1年中、いつでも食べられる。その秘密は…。

杉本真吾さん:
普通は、カキは(出荷が)終わりのシーズンなんですけど、このカキに関しては「三倍体」というカキで、卵を産まないカキになっていて、1年中食べられます

愛媛県東予地方局水産課・薬師寺房憲課長:
「三倍体」のマガキというのは、(生殖器官が)成熟しないといわれてますので、卵や精子を持たないので、食べた餌が(全て)栄養源、グリコーゲンになるということでですね。常においしさとか、身の太りに転嫁されるというメリットがあります

また、カキの養殖は通常、貝殻が付いたワイヤを海中10メートルほどに沈めて育てる「垂下式」が主流だが、ひうち灘は水深の浅い干潟のため、「かご養殖」を採用している。

大量養殖には向かないものの、干潮になるとカゴが海面の上に出たり、波が荒い時はカキがカゴの中を転がったりするため、フジツボや海藻が付着しにくく、1個1個が分離したキレイな状態で育つ。

「漁師」「ノリ養殖業者」のタッグで瀬戸内海産のカキを養殖

越智悠介さんは、大島でカキの稚貝を養殖している。

越智悠介さん:
一般の人らがあまり見ることのないサイズ、これがカキの赤ちゃん。3cmいくか、いかんかくらいが出荷するサイズ

杉本さんが養殖するカキは、ふ化したばかりの段階では、まず潮流の早い今治市の大島の沖で育てられている。
この稚貝の養殖を今治市の漁師・越智悠介さんが手掛けている。越智さんも杉本さんと同じく、新たなビジネスチャンスを狙ってこの業界に参入した。

越智悠介さん:
一番手間かかるところをうちが今やってるんですよ。この次の段階の養殖では、ほとんどあまり手がかからない。一番難しい販売のところは、お互い協力してやりましょうというんでやってるんですけど

杉本さんと越智さん、挑戦者の2人がタッグを組んで、初めて瀬戸内海産のカキの養殖に成功した。

越智悠介さん:
西条でいったら「瑞宝」、伊予の瀬戸内オイスター、最高ですね。ぜひ食べてみてください

そして鈴木瑠梨アナウンサーがカキを試食、その味は…。

鈴木瑠梨アナウンサー:
西条産のカキをいただきます。杉本さん、この中に入っているんですよね

杉本真吾さん:
はい、こちらになります

鈴木瑠梨アナウンサー:
見た目もきれいですね

杉本真吾さん:
そうですね。見た目もきれいになるような養殖方法なんです

鈴木瑠梨アナウンサー:
パンパンに入っています。あー、すごい、身がぎっしりです

まずは、生ガキから実食する。

鈴木瑠梨アナウンサー:
うおー、貝柱大きいですね。いただきます。濃厚、味が濃いですね。この貝柱でしょうか、甘味が濃いですね

続いて、焼きガキをいただいた。

鈴木瑠梨アナウンサー:
もうぶりん、ぶりん

杉本真吾さん:
めちゃ濃厚でしょ

鈴木瑠梨アナウンサー:
より味がしまって濃くなったというか、食感も変わりますね。これはおいしい

西条のカキに和食のプロも大きな期待

和食のプロも、杉本さんが育てるカキに大きな期待を寄せている。

「鮨 いの」店主・猪野祐介さん:
これが愛媛だけの消費じゃなくて、全国、カキが欲しいお店がたくさんあると思いますし、夏でもマガキを食べたい人はいらっしゃるので、これが色んなところに流通していくといいなと思います

杉本真吾さん:
「おいしいこのカキをみんなが食べてほしい」というのが、1つの願いでもあります。愛媛の東予地方でもこれだけおいしいカキが作れるという、1つの証明にもなるので、他の漁師さんにもやっていただきたい。西条がカキの生産地として、ちょっとでも名前が売れればいいと思います

ノリ養殖業者の新たな挑戦、その船出は今始まったばかりだ。

(テレビ愛媛)

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