鹿児島には、国や県が指定する伝統的工芸品が35品目ある。しかし、職人の高齢化に伴う人手不足や生活様式の変化による需要の減少など様々な課題を抱えている。そんな中、職人の「技術」に着目して進められている、新たな取り組みを取材した。

国指定の伝統的工芸品「川辺仏壇」

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木目に金色のアクセントが際立ち、シンプルながらも高級感が漂う、壁に掛けられたコンパクトな飾り棚。この飾り棚を手がけた職人を取材すべく訪ねたのは、鹿児島市に隣接する南九州市川辺町。この地で製作されている国指定の伝統的工芸品は「川辺仏壇」だ。

「川辺仏壇」の製造工程は7つに分かれている。杉やヒバなどの木材の形を整える「木地」と呼ばれる作業に、模様に沿って木を彫る「彫刻」、格子を組み上げる「宮殿(くうでん)」。

さらに、銅板や真ちゅうに金づちで文様を打ち付けて金具を製作。表面に絵を描いたら漆や金箔(きんぱく)で部材を仕上げた後、組み立て作業をして完成となる。

それぞれの工程に専門の職人がいて分業体制をとることで、細かな部分まで精巧な仏壇ができあがるのだ。

現代の住宅にあわせた仏壇を

伝統的工芸品「川辺仏壇」
伝統的工芸品「川辺仏壇」

伝統的工芸品に指定され約50年、最盛期には250人近い職人がいて、年間200億円もの売り上げがあったと言われている。しかし、仏壇作りに30年以上携わる職人は取り巻く状況に変化を感じている。

仏壇彫刻・竹下彫工 竹下幸樹さん:
住宅事情が変わった。家がだんだん洋風になってきたのが一つの変わりではないか。金仏壇そのものが合わなくなってきている

仏壇の需要の減少に加え、職人の高齢化。現在の売り上げは最盛期の20分の1ほどだという。そんな時代の変化に対応しようと開発されたのが、冒頭に紹介した飾り棚だ。提案したのは鹿児島市の住宅メーカーだった。

ベガハウス・谷征紀さん:
昔ながらの仏壇は大きいし、色も真っ黒で金が入ってたり。今の建物はシンプルなものが多いので、そぐわなくなってきていると感じている。そんな中で、なるべくシンプルに、かつ職人の技術がきれいに見えるデザインを考えてみようかなと

表面のデザインには、拭き漆という技術が使われている
表面のデザインには、拭き漆という技術が使われている

従来の豪華な川辺仏壇とはかなり見た目が異なるが、伝統技術は至る所に生かされている。例えば表面のデザイン。拭き漆(ふきうるし)という技術が使われている。

ベガハウス・谷征紀さん:
普段だったら黒く塗りつぶしてしまうところですが、透かして木目を見せる加工。職人さんは木目が見えることで加工としては緊張感があったと(話していた)

漆を塗っては木目にすり込むよう拭き取り乾燥させる「拭き漆」という技。この作業を繰り返すことで飾り棚に独特のつやが出る。

塗り・仕上げ お仏壇のありた 有田康博さん:
塗り重ねていって色を作っていくということになるので、数を重ねれば重ねるほど良いつやが出てくる。棚の内側をしっかり拭き取ると、外は拭き取りやすいから、中と外のつやが若干変わってきたり、そこは結構気を使いますね

小物は、真ちゅうを使い、あえてぽってりとしたデザインに仕上げたほか、棚全体のアクセントに金箔をあしらっている。

スリムな形状の飾り棚
スリムな形状の飾り棚

このほか、スリムな形状の飾り棚もある。棚や引き出しの部分は横幅わずか9cmほど。ここで使われているのは簡単に組み立てや分解ができる川辺仏壇の木材加工技術だ。

彫刻・竹下彫工 竹下幸樹さん:
溝で組むようにしている。一段一段溝で。釘とかは使わない。

ーー溝で組み立てるのは大変?

彫刻・竹下彫工 竹下幸樹さん:
慣れですかねやっぱり。(強度が)強いし同じ寸法に決まるので、何個作ってもばらつきがない

伝統的工芸品の技術を生かしつつ住宅メーカーがトレンドに合わせてデザインを考える。2023年3月から販売が始まり、海外にも販路を拡大している。

伝統を守り技術を継承

ベガハウス・谷征紀さん:
昔ながらの日本の文化として、仏壇があって手を合わせるという風習があると思うが、実際の暮らしの中に取り込めている人はかなり少なくて、(手を合わせる文化を)自分の暮らしの中に取り込む道具として発展していったら良いと思う

塗り・仕上げ お仏壇のありた 有田康博さん:
「仏壇はこれだ」という固定概念が強くて、違うのをしても「売れないだろう。どうかな」というのがあったが、自分たちのこうした技術を見てもらえるんだったらということでやらせてもらっている

川辺仏壇にみられる一つの変化。それは伝統的工芸品そのものを守るだけでなく職人の確かな技術を継承していくための選択肢といえそうだ。

(鹿児島テレビ)

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