2023年2月、長野市で自動車の購入代金として男女3人から合わせて920万円をだまし取ったとして、自動車販売店の元社長の男が逮捕・起訴された。関係者によると、車の購入代金をだまし取られた被害者は数十人にのぼり、被害総額は1億円を超えるということだ。

実は奈良県でも、ある正規販売店で新車を購入したにもかかわらず、納車されない事態が…一体、何が起きているのか?

駐車場も契約していたのに…新車購入も“納車”されない!?

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Aさん:
こちらの1番の駐車場を借りていたんですけど…

大阪市内に住む会社員のAさん。

Aさん:
もう本当に楽しみにしていたので、よく見ていたので(パンフレットが)汚くなっていますけども。この形なんです、で色はブルーの

2022年の冬、新車のダイハツ・ファンクロスを購入しました。昨今のアウトドアブームも相まって、人気が高まっている車だ。

Aさんはこの駐車場で、これまで乗っていた車を査定・下取りしてもらい、残りの代金60万円を現金で支払って、ファンクロスを180万円で購入した。

本来であれば、ここに新車がやってくるはずだったのだが、それから5カ月ほどたった今も納車されていない。

(Q:楽しみに?)
Aさん:
そりゃそうですよね。(車が)来ると信じていたので、急なことで本当にびっくりしたんです。諦めきれなくてこの間まで(駐車場を)キープしていたんですけど

Aさんが、自分の買った車が納車されないことを知ったのは、2023年3月に届いた一通の破産通知の書類。

破産通知の書類:
貴殿の他に30名以上の自動車の買主の皆様に対して合計6000万円の自動車の売買代金相当額の所有移転債務が未履行のまま残っていますが、債務者には自動車を調達するだけの資力がない状態です

Aさんが下取りの車を引き渡し、購入の契約を交わしたM氏という男性が破産。そのため、車の購入者に対して納車できないという連絡だった。

私たちは事態の真相をさぐるため、Aさんが車を買った奈良県広陵町にある「販売店S」に向かった。

Aさん:
この辺にのぼりがいっぱい立っていて。ここ全体に(のぼりが)立っていましたね。展示車は僕が来た時もここに一台止まっていて

今も車の販売店であったことがうかがえたが、以前のようなたくさんののぼりや展示車はなく、店の中に人の気配はない。

ネットの口コミは“5” 正規販売店と安心して購入 しかし…

Aさんはなぜここでの購入を決めたのか?

Aさん:
ネット検索していまして、いい車があるかなと思って調べていましたら、「一回見に来よう」って来た感じですね。(ネットサイトでの)口コミ評価はすべて5でした

店にいたスタッフはM氏のみでしたが、特に違和感はなかったという。

Aさん:
(店の中には)ダイハツ・スズキさんの優良販売店や正式販売店みたいなのとかを飾っていた。そこで即決する気はなかったので、いったん帰ったんですけども

スズキとダイハツの正規販売店だと安心したAさんは後日、他店と比べて販売価格が安かったことから購入を決めた。

Aさん:
次来るのは納車日だと思っていたので。今度来るときはもうバスで来て、新しい車に乗って帰れるもんやと思っていました。もう訳が分からないという感じですよね

車の購入者に対し、突然、一方的に破産通知を送り付けたM氏。関西テレビ取材班が名刺にある番号に電話をかけてみたが…コール音はするも、応答はなかった。

“買った車が納車されない被害者”はAさんだけではない。

「早く乗りたい」…ローンも組んで新車購入した人も

滋賀県彦根市に住むBさん夫妻。インターネットの検索であの販売店Sを見つけた。

コロナ禍で店頭に行かないことに違和感がないようになっていたBさんは、電話だけのやり取りで、2021年の10月、販売店Sから車を購入した。

Bさん夫妻:
「当社は、先行発注していて」要は待機時間が短いっていうようなことを言われたんですね

Bさんが購入したのは、納車まで1年以上かかるといわれている人気車種のスズキ・ジムニー。「少しでも早く車が手に入る」という話に魅力を感じたと言う。

Bさん夫妻:
彼の話だと早ければ半年から1年ぐらいとか。とにかく早いですと。もう買うと決めたら、やはり当然早く乗りたいと思ったので、その言葉を信じたっていうところですね

さらにBさんを強く後押ししたのは、販売店Sがスズキの正規販売店だったことだった。M氏から送られてきた注文書にも…

Bさん夫妻:
これ(ロゴ)が入っているんでね、僕らも信用した。まして新車なんで、買う方としてはスズキの看板があったらどこも一緒だと思うじゃないですか

信用したBさんは、車の代金を全額一括で払うようにM氏に言われ、215万円の新車のジムニーを、10年のローンで購入した。

それから待つこと1年半。納車がされていない現在も、毎月2万円の返済が続いている。

Bさん夫妻:
ないものに対して1年半お金を払っています。今後も払うっていうのがちょっと精神的に辛い。毎月、その分は働くにしてもタダ働きなんやなって思ったりとか…もう次の日から道端でジムニーにすれ違うと、涙出そうになります

Bさん夫妻は救済を求めてメーカーのスズキに問い合わせましたが、無情にも「できることはない」という回答でした。

販売店とメーカーの関係とは

そもそも販売店Sは、メーカーとどのような関係なのか。

まずスズキ、ダイハツなどのメーカーがあり、メーカー直営で、そのメーカーの車を専門で扱う代理店(ディーラー)が存在する

さらに代理店と取引を結ぶのが販売店。いわゆる“町で見かける車屋さん”だ。

客から注文があった場合、代理店を通して、メーカーから新車を仕入れることができる販売店はメーカーから“正規”に販売を認められている。

取材班は、奈良県にあるスズキ直営の代理店を訪ねました。代理店の関係者は、販売店Sが取引のあった正規の販売店だったことを認め、売り上げのいい店だったと話しました。

代理店の関係者:
取引は(2020年からの)3年間で60台強ぐらい
(–Q:よく売っている店?)
そうですね

代理店には被害者から問い合わせが複数来ているということですが代理店と被害者との間には契約がなく「何もできない」のが現状だと語った。

代理店の関係者:
ここ(販売店Sと購入者)の契約が見えないんですよ、うちではね。お客様と販売店さんとの契約で。例えばこれ今日注文頂きました。例えば半年後に注文されていても、うちは全然分からないです。お金の流れも向こうのお金の流れも全然分からないです

メーカーはこの事案をどう考えている?

メーカーは、今回の事案をどのように考えているのか?メーカー本体であるスズキの広報が電話取材に応じた。

記者:
「スズキという名前を信用した」と皆さんおっしゃっています。許可を得てスズキの車を販売していた販売店が、こういったトラブルを起こしたということに関してはどう考えている?

スズキ広報:
そうですね。これはもうあくまでもその販売店に対して今後、引き続き誠意ある対応求めるという態度で、こちらの方は接してまいりたいと思っております

今回の事案に対する被害者への対応は、あくまで販売店Sが行うものだという回答だった。

しかし、経営状態の悪化していた販売店Sを正規の販売店としていたことに問題はなかったのか?

スズキ広報:
(正規販売店とする)審査は正当だったというふうに思っています

(Q:このままでいいと思っていらっしゃいますでしょうか?)
スズキ広報:
(審査の)内部規約の方は今のところ変えるつもりはございません

メーカーが認める正規の販売店で購入したのに…メーカーが一切の責任を負わないことにBさん夫妻は納得がいかないと話す。

Bさん夫妻:
スズキ(のロゴ)が入っている注文書じゃないですか。これを信じないってことはスズキを信じないってことですよね。スズキは車を作る会社。その関連子会社で販売部門がスズキ自販。そのスズキ自販が管理しているのが副代理店とか販売店なわけですから、当然管理していますよね。だから「関係ない」はないと思います

同様に奈良のダイハツ代理店にも取材を申し込んだが、書面による回答が得られた。そこには販売店Sと取引があったことを認め、スズキと同様、あくまでも“購入者に対応するべきは販売店Sである”との記載があった。

元大手中古車販売会社の幹部が語る“背景”

車の販売業界について詳しい元大手中古車販売会社の幹部だった中野優作さんは被害が拡大した背景について…

中古車販売「BUDDICA」中野優作社長:
当初は問題なかったと思うんですね、この会社も。だから経営が悪化してきた時に、なんかヤバそうだなっていう雰囲気になった時に、いわゆるフィルターになるような自浄作用が働くようには多分なっていない

その上でトラブルを防ぐために気を付けるべきことについては…

中古車販売「BUDDICA」中野優作社長
新車・中古に限らず、「全額を先にくれ」はかなり注意するところですね。おかしいですね。いわゆる手付金、これは契約によるんですけど、例えば1割とか払うんですけど。ジムニーの200万円のうち20万円ぐらいしか払わないので僕らは。それ(車の代金)を1年も前からくれっていうのは、もう絶対ありえないです、まず新車は。これはもう気を付けた方がいいです。手付けを1割以上望んでくるところは、かなり経営が怪しいと

Mの破産通知が車の購入者のもとに届いてからおよそ1カ月半。彼らが愛車を手にすることはできないのか。

販売店と購入者間に起きた“トラブル” メーカー側に責任は?

スタジオでもあらためて今回のトラブルについて考える。

Aさんのケースでは、車は実際には発注されておらず、納車遅れについて問い合わせると車に必要な半導体不足など社会情勢などを理由にごまかされたということだ。

また、Bさんのケースは、人気の車種で通常発注から納車まで1年くらいかかるそうなのだが、「先行発注しているので納車が早い」とうその説明を受け、M氏の個人口座に全額一括で先払いするよう求められたということだ。

(Q:このようなケースですが詐欺の疑いは?)
菊地幸雄弁護士:

「ない」とは言えないです。例えばAさんのケースでは発注もされていなかった。もしかすると、発注するつもりがないのにも関わらず、「お金を下さい」ならだましている…ということにつながり、詐欺の可能性が出てきます。一方、Bさんのケースでは、発注がされているということであれば、ちゃんと仕事はしていたんだけど経営が悪化し、結局渡せなくなった…ということで、資本主義社会の日本の中ではたくさんあるケースになります

(Q:メーカーに責任は問える?)
菊地幸雄弁護士:
契約の主体で考えると、販売店、代理店、メーカーそれぞれ別々です。購入者と実際に法律関係があるのは販売店だけになる。そうなるとその間で起きたトラブルは基本的に販売店と購入者の間で解決すべき…メーカーなどは契約の外にいる形なので、基本的には“責任はない”という原則になってしまいます

(関西テレビ「newsランナー」2023年5月11日放送)

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