「ひきこもり」と言うと、全ての世代で男性が多いイメージがあるが、そのイメージを覆す調査結果を内閣府が3月31日にまとめた。

4月に内閣府から担当を引き継いだ「こども家庭庁」によると、調査は2022年11月、全国の10~69歳の男女3万人を対象とし、1万3769人が回答した。

この調査で、15~64歳でひきこもり状態にある人は推計146万人。
そして、40~64歳の中高年でひきこもり状態にある人のうち、女性が52.3%で半数を超えた。
男性は47.7%だった。

国のひきこもりの統計は当初、「専業主婦(主夫)」や「家事・手伝い」を除外していた。2018年(平成30年)の調査から、「専業主婦(主夫)」や「家事・手伝い」でも「最近、6カ月間に家族以外の人と会話をしましたか?」という質問に対し、「ほとんど会話しなかった」「全く会話しなかった」と回答、もしくは「無回答」の場合、「ひきこもり」に含めるようになったという。

「中高年でひきこもり状態にある人のうち、女性が半数を超えた」という実態をどのように受け止めればいいのか?

また、今回の調査結果を踏まえ、どのような対策・支援策が必要なのか?


「特定非営利活動法人・KHJ全国ひきこもり家族会連合会」の池上正樹・副理事長に“背景と必要な対策”を聞いた。

「見ないふりをされてきた声が顕在化してきた」

――今回の調査結果、どのように受け止めればいい?

元々あった女性たちの声や存在が、ようやく顕在化してきた結果だと受け止めています。

その背景には、日本の伝統的な家父長制度や生産性を重んじる男性社会によって、ひきこもりにされてきた女性たちの歴史、世間の抑圧的な価値観があったと考えます。

男性が外に出て女性は家を守る、家事や出産、子育て、嫁姑問題、介護でも「女性なんだから背負って当然」という世間のまなざしがあり、妻は口答えをせず、おとなしく従うべきという価値観は、今も根強くあります。

「女性はこうあるべき」という同調圧力の中で、自分の生きがいや夢を諦めて、自分の心を偽って生きてきた、日本の「家」という縛りの中で我慢と自己否定を強いられてきた女性が、ようやく、そのつらさを声に出してもいいと思ったのではないでしょうか。

しかし、その一方で、「主婦はひきこもりではない。女は家に居て当然なのに、なぜ、ひきこもりなのか」といった無理解の声は絶えません。

このような社会的偏見があったからこそ、声を押し殺して生きざるを得ない女性たちは、多く存在したと思います。

そのような女性たちにとっての居場所が広がりを見せたのは、2016年です。

一般社団法人UX会議などの当事者団体による「ひきこもり女子会」や「ひきこもりママ会」などの活動です。

女性の生きづらさを知り、「私も同じ」「自分だけじゃなかったんだ」と気づいた女性たちが少しずつ声を届け始めています。

ひきこもりの女性たちの受け皿が増えてきたことも、今回の結果につながったと考えます。

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――中高年の女性のひきこもりは、元々、多かったのが顕在化した?それとも、近年、増加してきた?

これまで、社会から見ないふりをされてきた女性たちの声が顕在化してきたと思います。

「受け皿を全国的に作っていくことが必要」

――女性のひきこもり当事者の方と接することはある?

あります。

長年、他者から理解されることをあきらめていた、誰にも受け取ってもらえないだろうと押し殺していた気持ちを「とにかく聞いてほしい」「誰かに分かってもらいたい」と切望している女性は、とても多いと感じています。

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――今回の調査結果を受け、ひきこもり当事者の方に対して、どのような対策・支援策が必要だと思う?

ひきこもりは、社会的要因から、誰が、いつなっても、おかしくないと思います。

「もしかしたら、自分もなるかもしれない」「自分の大事な家族も、なるかもしれない」と、私たちひとりひとりが自分事として受け止めて、想像していくことが重要です。

社会に出ることへの恐怖から一歩を踏み出せない方は、自分を守るためにひきこもっていてもいいし、今、自分で自分を責めてしまう苦しみの中にいる人には、「あなたは悪くない、あなたのせいではない」と伝えたいです。

ちゃんと気持ちを聞いてくれる人、理解してくれる人を求めている女性も多いです。

誰かは必ず、あなたの言葉を受け止めてくれるから、自分のタイミングで自分のつらさを言葉に出していい、周りを頼ってもいいということを伝えたいです。

そのためにも、「自分だけではない」「自分と同じ思いを持った人と出会いたい」というニーズに応えられる受け皿を全国的に作っていくことが必要だと思います。

行政は、女性たちが自分たちの居場所を自分たちでつくる動きをバックアップしてほしいです。

自分で自分の居場所、人生を選び取っていいこと、誰もが希望を持って安心して生きていくためには何が必要なのか、私たちひとりひとりが問いかけながら、みなさんと一緒に考えていきたいと思います。

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これまでの価値観からひきこもりとされていない人たちが顕在化したといえる今回の調査結果。
「“自分だけではない”“自分と同じ思いを持った人と出会いたい”というニーズに応えられる受け皿を全国的に作っていくことが必要」という池上さんの提案が多くの自治体に届き、受け皿が作られることを期待したい。

プライムオンライン編集部
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FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。