東京都江戸川区が「ひきこもり」の大規模調査を行ったところ、70万人の区内に約9000人のひきこもりの人がいることが初めてわかった。
世代別では40代が最も多く、性別では女性が男性より多かったという。
江戸川区は昨年7月から今年2月にかけて、15歳以上で給与収入での課税がなく、介護など区の行政サービスを利用していない人がいる約18万世帯を対象に、アンケートや訪問調査を実施。最終的に得られた約10万3000世帯の回答を集計した結果、7919人のひきこもりがいる事が判明した。
また14歳以下は不登校児として教育委員会が把握しており、この1113人と、調査前からひきこもり支援を受けていた64人を加え、区内のひきこもりは9096人としている。
割合をみていくと、年代別では40代が最多の17.1%で、続いて50代の16.6%。ひきこもっている期間は1年~3年未満が28.7%と最も多く、次に10年以上が25.7%となっている。
また、ひきこもりをしている当事者に“求めているもの”を聞いたところ、最も多かったのは「何も必要ない、今のままで良い」の32%。続いたのが「就労に向けた準備、アルバイトや働き場所の紹介」(21%)、「短時間(15分から)でも働ける職場」(18%)と仕事に関する答えが多かった。
生活の困りごとは「自分の健康」が最多
さらに外出状況は、最も多かったのが「一人で買い物に出かけることはある(日常生活に必要なことのみ)」(50.4%)、続いて「一人で趣味や遊ぶために外出することはある(社会的な関わりを持てる)」(25.2%)で、合わせて約75%は一人で外出可能の傾向があった。
なお、ひきこもったきっかけ(複数回答)を聞くと、「その他」を除いて上位は「長期に療養を要する病気にかかった」が20%、「職場に馴染めなかった」が14%、「就職活動がうまくいかなかった」が11%。
しかし「その他」が46%あることから、区は「きっかけがはっきりとしないこと、または当事者にしか分からないきっかけがあることがうかがえる」としている。
生活の困りごと(複数回答)については、「自分の健康」が61%、「家族の健康」が59%、「収入・生活資金」が58%で、この3つの答えが多くの割合を占める結果に。
なお、ひきこもりになった「きっかけ」が1個以下の人が74%だった一方で、「困りごと」が2個以上の人が76%だったことから、区は「1個の『きっかけ』でひきこもる要因になるが、ひきこもり当事者および家族は1つではない複数の『困りごと』を抱えていることがうかえる」としている。
江戸川区は以前から ひきこもりを問題視
今回の調査で初めて分かった江戸川区の“ひきこもりの実情”。
発表された調査報告書を見ると、冒頭に「本区においては、ひきこもりがかねてより問題視されていた」とあった。なぜ江戸川区はひきこもり問題に注目していたのか? また年代で40代、性別で女性が多いことに理由はあるのか?
江戸川区「ひきこもり施策係」の担当者に聞いてみた。
――なぜ調査をした?江戸川区は前からひきこもりを問題視していた?
斉藤猛区長が江戸川区の福祉部長時代に(2014年~2018年)、ひきこもり当事者の親御さんが、「この子のためなら50万円でも100万円でも出してもいい」とお願いする言葉を聞きました。その後、区長になった今も、ひきこもりの問題はそのままにしておいてはいけないという思いを持ち続けているそうです。
内閣府の調査によれば、日本にひきこもりの方は115万人いて、人口と比べると出現率は1.5%になります。江戸川区は人口約70万人ですので、計算上では区内にひきこもりの人は約1万人いることになります。ところが、2019年度にひきこもりの調査を匿名で行ったところ681人でした。
「こんなに少ないわけがない」と、そこで2020年度にできた「ひきこもり施策係」で、今回の実態調査を行ったわけです。
――調査対象を、給与収入がなく区の介護サービスを受けてない人にしたのはなぜ?
人口が70万人弱いて全員に送るとかなりの数になってしまいますので、明らかにもひきこもりではない人は対象外にしました。まず、お仕事に出て給料をもらっている方は違うでしょうから、給与収入を得て課税されている方は対象外としました。また、区の行政のサービスを受けている方は、ひきこもりについての情報を事前に持っているので対象から外しました。こうすると対象者は24万人弱と、18万503世帯になりました。
40代や女性が多い理由
――40代や女性が多いことは想定していた?
「40代」については想定はしていました。どの自治体が行っても、サンプリングで出すと40代が一番多いと思います。40代は第2次ベビーブームなので絶対人数が多いのです。そして、就職氷河期に該当している世代なので、一番多い想定はしていました。
性別は、一般的には男性の方が多いと言われていて、2019年度の調査でも男性が圧倒的に多かったのですが、今回は若干女性の方が多くそこは意外でした。
――なぜ女性が多い?
今回の調査は専業主婦の方も対象になっています。「一定の期間、社会にかかわることなく家にずっといる人はいますか?」という聞き方をしているので、もしかしたらコロナ禍の影響もあって、そのような人がチェックした可能性もあります。
私たちは、ひきこもりを基本的には「仕事や学校等に行かず、家族以外の人との交流をほとんどしない方」としていますが、これを定義だと捉えていない人がいるかもしれません。今回はひきこもりの調査ですが、みなさんが正直に該当する部分をチェックした結果になっているのだと思います。
「何も必要ない」が3割以上…そのまま信じていいのかが課題
――ひきこもりの人が求めているもので「何も必要ない」が3割以上なのはなぜ?
これをそのまま素直に信じていいのかが私たちの課題です。ひきこもり当事者の方は結構、奥ゆかしい方が多いです。自分が外に出ることで迷惑をかけるかもしれない、という思いで、ひきこもらざるを得なくなったという方が多いのです。
家の中で、自分の存在は社会にはいらないのではないかと思いつつも、しかし死んでしまうまではいかないという状態です。お話を聞いていると、そのような方は本当は社会の役に立ちたいという気持ちがある方ばかりです。
ですので、何も要らないと書いているのは、諦めの境地もあると思いますが、本心ではないというパターンも中にはあるだろうと思っています。もちろん本心の方もいるでしょうが、私達の中では、社会の役に立ちたいと思っているひきこもりの方が多いので、そのまま鵜呑みにはできないと思います。
――この調査を受けて、これからどのような対策を講じていく?
もうすでに個別支援に進んでいる方もいます。まず最初にお一人世帯の方は必ずひきこもりの当事者が回答していますので、訪問して「どうしてそう答えたのか?」「今の状態はどうなのか?」を詳しく聞いて、本当に支援が必要かどうかの希望を伺っています。
また、同居している方々も多いのですが、中には家族に黙って回答してくださっている方もいます。その場合、ダイレクトに訪問してしまうと、家族関係を壊す可能性があるので、回答した方に対して第2次調査という質問票を送っています。
今回の調査では実態がつかみづらかったひきこもりに関する様々なことがわかった。しかし未回答率が42.83%だったことから、区はこの中に、支援が必要なのに手を挙げられない人たちが含まれている可能性があるとしている。
ひきこもっている人を1人ぼっちにせず、社会とつなぐための地道な対策を続けてほしい。