多くの報道陣にもみくちゃにされる、ピンク色の服を着た女。
彼女は今、タイを震撼させる連続殺人事件の容疑者。サララット・ランシウタポーン容疑者(36)だ。ニックネームは「エーム」。

報道陣に囲まれるサララット・ランシウタポーン容疑者(36)
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ほほ笑みの国・タイの地元テレビ局が連日、大きく報道している「エーム事件」。エーム容疑者は、2015年から今年にかけて15人に毒物を飲ませ、14人を殺害したとされる。

現地メディア司会者:
社会を揺るがす重大な事件が起きました。亡くなったのは、14人です。

タイのテレビ局は連日、「エーム事件」を大きく報道
タイのテレビ局は連日、「エーム事件」を大きく報道

一体どんな手口なのか。「Mr.サンデー」はタイへ飛んだ。

緊急現地取材!防犯カメラに“犯行の瞬間”

入手したのは、防犯カメラの映像。そこには被害者が倒れる瞬間が捉えられていた。

ディレクター:
被害者の1人は、お寺のすぐ脇にあるこちらのベンチで突然倒れ、亡くなりました。

亡くなったのは、プーさん(38)。知人のエーム容疑者に「お参りに行こう」とお寺に連れ出されたという。ベンチに座っていた被害者とエーム容疑者。

お寺のベンチに座る2人。被害者は現役の警察官で、頭から崩れ落ち、エーム容疑者は救助せず立ち去った
お寺のベンチに座る2人。被害者は現役の警察官で、頭から崩れ落ち、エーム容疑者は救助せず立ち去った

防犯カメラの映像には、被害者が頭から崩れ落ちる様子、そして被害者を救助せずにその場を立ち去るエーム容疑者の姿が映っていた。殺害された被害者は、現役の警察官だったという。

さらにその約2週間後、別の女性が川岸で突然倒れ死亡した。亡くなったのは、ゴイさん(32)。

お寺での事件から約2週間後、川岸で突然倒れ死亡
お寺での事件から約2週間後、川岸で突然倒れ死亡

その死に不審な点があると疑ったのが、友人のラピーさんだった。

死亡したゴイさんの友人・ラピーさん:
防犯カメラに映った女性が後にエーム容疑者だと分かったんです。

ゴイさんが死亡した日の様子を捉えた防犯カメラ映像には、道を並んで歩くゴイさんとエーム容疑者の姿があった。

並んで歩く2人は川へ降りていったが…
並んで歩く2人は川へ降りていったが…

やがて、ゴイさんは川の方向へ。しばらくした後、エーム容疑者も川へ降りていったが、戻ってきたのはエーム容疑者ただ1人。ゴイさんのものとみられるスマホを手に、その場を立ち去っていた。

戻ってきたのはエーム容疑者だけ。ゴイさんのものとみられるスマホを手に、立ち去った
戻ってきたのはエーム容疑者だけ。ゴイさんのものとみられるスマホを手に、立ち去った

この時、ゴイさんは…。

ディレクター:
被害者は突然、この場所で倒れたということです。

ラピーさんはこの映像を公開し、映っていた女性を捜すと、なんとエーム容疑者本人から連絡が来たというのだ。その時の音声がある。

エーム容疑者:
みんな私が(ゴイさんを)助けてないと言うけれど、助けてないわけがない。防犯カメラ映像を見てよ。(ゴイさんが)倒れた時に、私は近くの人に助けを求めた。

「私は助けを求めた」と訴えるエーム容疑者。だが、不審に思ったラピーさんは、この情報を警察に提供。やがて警察は、ゴイさん殺害の疑いでエーム容疑者を殺人の疑いで逮捕した。

この事件が発覚すると、他にもエーム容疑者と接触した後に亡くなったと遺族たちが声を上げ始めた。2015年からの8年間で、14人が殺害された疑いが浮上したのだ。

司法解剖で検出された「青酸カリ」

ゴイさんの姉:
エーム容疑者とは10年以上親しくしてたのに、なんで私の妹を殺すの?

ゴイさんとエーム容疑者は、市場の店員として働いていた10年前からの知り合いだったという
ゴイさんとエーム容疑者は、市場の店員として働いていた10年前からの知り合いだったという

「Mr.サンデー」の取材に答えたのは、殺害されたゴイさんの姉。

ゴイさんとエーム容疑者は、市場の店員として働いていた10年前からの知り合いだったというが、その関係に変化が起きたのは最近のこと。

ゴイさんの姉:
ゴイは、お金を借りて投資に回そうとしたんです。恐らくエームにだまされました。

ゴイさんがエーム容疑者から投資話を持ちかけられ、銀行から借り入れた金額は…。

ゴイさんの姉:
200万バーツ(約800万円)です。でも最後には40万バーツ(約160万円)しか残っていませんでした。

ゴイさんは、日本円にして600万円以上の現金をエーム容疑者に渡したとみられている。ゴイさんの死を不審に思った家族は司法解剖を依頼。すると、遺体からは「青酸カリ(シアン化カリウム)」が検出された。青酸カリは、微量でも呼吸や意識に障害を引き起こし、最悪の場合、死に至らせる毒物だ。

ゴイさんの友人・ラピーさん:
事件には共通点がありました。被害者はみんなエーム容疑者に金を貸していたんです。恐らく動機は金のトラブルです。

エーム容疑者は、良い投資があるなどの誘い文句で被害者たちから金を引き出し、返金を迫られると、青酸カリを飲ませ殺害しようとしたという。果たして、その毒を飲ませる手口とは。

“せき止め薬”として渡された黄色いカプセル

「Mr.サンデー」は、エーム事件の被害者の中で、タイのメディアも取材が叶わなかった“唯一の生存者”に、初めてインタビュー取材。聴取に訪れていた警察署内で話を聞くことが許された。

毒物を飲まされながらも死を免れたというエーム容疑者の友人、プラーさん(38)。

“エーム事件”の唯一の生存者・プラーさん:
エーム容疑者はおしゃべりで、初めて会った人でも親しくなれる人です。付き合いも長く子どもたちも同年代で、よく一緒に遊んでいました。

なぜ事件は起きたのか。

“エーム事件”の唯一の生存者・プラーさん:
お金目当てだと思います。彼女に25万バーツ(約100万円)を渡しました。彼女は商売が好きだから、投資したいと言われたんです。

投資話を持ちかけられ、約100万円をエーム容疑者に渡したという。すると…。

“エーム事件”の唯一の生存者・プラーさん:
当時、私は新型コロナの後遺症で、せきが1カ月ほど続いていました。私がせきをすると、彼女はある薬を差し出しました。透明の袋の中に入った黄色いカプセルでした。私は何も考えずにそのまま飲みました。

エーム容疑者からせき止めの薬だと渡された、黄色いカプセル。それを飲んで10分ほどすると…。

“エーム事件”の唯一の生存者・プラーさん:
呼吸が苦しくなり、手が硬直してきました。救急車に乗った後、息ができなくなって、意識不明になったんです。病院で「心肺停止だった」と言われました。

プラ―さんは一時、心肺停止となったが近くの病院にすぐ搬送されたこともあり、九死に一生を得たという。その時、プラーさんは毒物を飲まされたとは思っていなかった。

“エーム事件”の唯一の生存者・プラーさん:
4月にゴイさんの事件がニュースになって、「もしかしたら私も?」と思ったんです。

薬と称して「青酸カリ」を渡す、これはエーム容疑者の常套手段だった。逮捕のきっかけとなったゴイさんのケースでも…。

ゴイさんの姉:
ゴイは、うつっぽい状態が続いていたので、きっとエーム容疑者は抗うつ薬と言ってゴイに毒を飲ませたと思います。

またある女性は、ダイエットの薬として送られ、漢方薬入りの水やサラダをもらった人もいる。

集めた金の総額は約3億円?「30人殺した」発言も…

死亡した14人の被害者の中には、エーム容疑者の内縁の夫、デーさん(35)もいた。これは亡くなる約1カ月前のSNSでのやりとり。

14人の被害者の中には内縁の夫も
14人の被害者の中には内縁の夫も

内縁の夫・デーさん:
もう借金は作らないで。

エーム容疑者:
この話はやめて、気が重くなる。

内縁の夫・デーさん:
きちんとしておけば、気が重くなることなんてない。

エーム容疑者には借金があり、そのことを注意されていた。さらに…。

内縁の夫が亡くなる約1カ月前、SNSでのやりとり
内縁の夫が亡くなる約1カ月前、SNSでのやりとり

内縁の夫・デーさん:
どう言えば反省するんだ。

エーム容疑者:
さっさっと死ね。お前が嫌いだ。

デーさんは、このやりとりの約1カ月後に自宅で倒れ、亡くなった。

被害者15人を始め、周囲から集めたという金は約3億円。そのほとんどをオンラインカジノに使っていたとみられるエーム容疑者。逮捕前には、証拠隠滅を図ろうとしたのか不審な行動も。

エーム容疑者の知人・ダワンさん:
500バーツで(エーム容疑者から)「黒い袋を土に埋めてくれ」と頼まれました。

また別の知人には、こう言ったという。

エーム容疑者の知人・マイさん:
「私は30人を殺した。だから31人でも、32人でも殺すことができる」と。

被害者はまだまだいるということなのか。だとしたらなぜ、これまで発覚しなかったのか?そこには、ある衝撃の事実が隠されていた。

警察幹部の元夫も逮捕 共犯関係は?

ディレクター:
エーム容疑者の元夫は、この警察署の副所長で当時事件の捜査責任者でした。

“タイ史上最悪”とされる連続殺人事件。エーム容疑者の元夫は、地元警察の幹部だった。

タイ国家警察副長官 スラシェット・ハックハン氏:
元夫である副署長を汚職・文書偽造などの容疑で逮捕状を請求しています。

その後、国家警察のナンバー2が自ら指揮を執ったことにより、捜査は一気に進展。

元夫の自宅の庭には、何かを大量に燃やした痕跡があり、焼け焦げたビンも押収された。今後、事件の共犯についても取り調べが行われる予定だ。

この事件の影響で今、タイでは、自分の周りにいる人について疑心暗鬼になっているという。

“エーム事件”の唯一の生存者・プラーさん:
私は彼女の本当の正体を知らなかったのかもしれません。

(「Mr.サンデー」5月14日放送分より)