世界中から電子機器のゴミが集まる、ガーナの首都・アクラ近くに位置するアグボグブロシー。世界最大の「電子廃棄物の墓場」とも呼ばれ、深刻な問題となっている。これらのゴミを集めて、アート作品にして販売し、現地の生活向上に生かす美術家の思いを追った。

なぜ「電子機器のゴミ」をアートに?

5月2日、福岡市のデパートで、会場を回り一つ一つ指示を出していたのは、今、注目の美術家・長坂真護(まご)さん、38歳。九州では初めてとなる個展が実現した。

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長坂さんの作品には、“ある特徴”が。

テレビ西日本・赤木希アナウンサー:
男の子の鼻の部分にはアイロン、そしてパソコンに使われるマウスなど、家電や電子機器のゴミが使用されています

アートに使われているのは「電気電子機器廃棄物」。これらのゴミはアフリカ・ガーナから拾ってきたものだ。

なぜ、ゴミを使ってアートを作っているのか。

長坂真護さん:
2017年に初めてガーナのスラムを訪れたときに、先進国が投棄したゴミをここの村の若者たちが、野焼きして溶け出して、残った金属を販売してなりわいにしていると聞いて。プラスチックのゴミとか燃やしたものが、空気中、大気中に放出されてガスが出てガンになったり、短命で命を落としたりする若者がたくさんいて…。それは、資本主義の僕たちのせいだと思った

東京・新宿の路上で絵を描いていた長坂さんがアフリカ・ガーナのアグボグブロシーを訪れたのは、2017年のこと。電子機器のゴミを燃やし、有毒ガスを吸いながら、日給500円で生計を立てている人がいるという現実に衝撃を受けた。

以来、「サテスナブル・キャピタリズム(持続可能な資本主義)」を提唱して、スラム街の廃棄物からアート作品を作り、その売り上げを現地の人へと還元する活動を続けている。

これまでに学校やリサイクル工場を設立

個展開催前日、長坂さん自ら電動工具を手に準備を進めていた。

長坂真護さん:
やるしかないですね。(九州初個展というのは)うれしいですね。1人で始めたことが路上の絵描きですよ。路上でやってたことが…、すごいうれしい

準備は朝から夕方まで続いた。そして翌日、九州で初となる個展の初日を迎えた。

長坂真護さん:
きょう本当に楽しみにしてきて、「福岡の人たちはどういうリアクションをとってくれるか」とかすごく興味があります。特に思い入れがあるのは、きのう、ずっとやっていた「オスマンの家」っていう作品です

長坂さんが特に思い入れのある作品
長坂さんが特に思い入れのある作品

個展開催前日に自ら組み立てていた「オスマンの家」と題された作品は、実際にスラムの子どもが住んでいる家を表現。

長坂真護さん:
よかったら買ってください。ちなみにお値段2,200万円。普通に一戸建て買える値段ですね(笑)

今回の個展では、3万円台から4,000万円を超えるものまで、200点以上が展示されている。

長坂さんはアートなどの売り上げから必要経費を除いた全ての金額をガーナのスラム街撲滅のための活動に使っていて、これまでに、スラムの子どもたちが無料で通える学校やリサイクル工場を設立した。

現在は、2030年までにガーナの人々1万人を雇用し、スラム街を撲滅することを目標に活動している。

現地人と長坂さんの信頼関係

しかし、ここまで来るのは容易なことではなかった―。

長坂真護さん:
初めてガーナを訪れたときには、石を投げられたり、近くにオニオンマーケットやトマトマーケットがあるんですが、売れ残ったもので殴られたりしていた。「金を置いて出て行け」とすごく言われていたが、今、そういうことを言う人はいない

少しずつ積み上げてきた現地の人との信頼関係。今では、自らが設立した学校に通う子どもたちやリサイクル工場の従業員が率先してアートに使用できるゴミを拾ってくれて、そこから作品を作っているという。

こうした背景を持つ長坂さんのアートに、来場者からは称賛の声が多く聞かれた。

来場者:
実際に見た方が心に残るのですごいなと思った

来場者:
スラムの問題というのは詳しく知らなかったが、作品を見て現状というのを目の当たりにして。そういったところを伝える力がすごい

来場者:
こういうかたちで教えていただいて、その先の現状を、自分たちもちゃんと考えながら何かをしていかないといけないのかなと

開催初日から長坂さんの活動に感銘を受け、アートを購入した人もいた。

ーーお値段は?

アートの購入者:
40万円弱です。現地の方のために少しでもなるのであれば、購入する意味が生まれるのかなと思いました

一歩一歩の取り組み「微力でも無力ではない」

無事に初日を終え、長坂さんが繰り出したのは福岡名物、中洲の屋台。自然と顔もほころんでいた。

長坂真護さん:
絵は、すごく売れました。でも、まだもっと来てほしいなと思っていて。力を貸してください。ははは。(今後の目標?)いっぱいあります。やっているプロジェクトも、ものすごく多いので、全て成功させたい。それはアーティストとしても起業家としても、全て成功させたいという気持ちはあります

ーースラム撲滅のため?

長坂真護さん:
全部のプロジェクトは、スラムをなくすためのプロジェクトです

長坂さんが目指している、2030年までにガーナの人たち1万人を雇用するという目標だが、現在の雇用人数は32人、達成率は0.32%だ。

一歩一歩の取り組みではあるが、長坂さんは「自分を無力だと認めればゼロ。微力でも無力ではないと思えば、その積み重ねが明るい未来につながる」と話す。

アフリカ・ガーナのスラム街撲滅。これまで誰も成し遂げられなかったことをアートで実現する美術家、長坂真護の活動は続く。

「長坂真護展Still A “BLACK” STAR」は、博多阪急で2023年5月15日まで。

(テレビ西日本)

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