2023年のゴールデンウイーク。宮城県内の観光地にも、多くの観光客の姿が見られた。一方、急激に人出が戻ったことで、旅館などの受け入れ側からは、人手不足に悩む声があがっている。新型コロナの5類移行に伴い、今後、対応を余儀なくされる観光地の今を取材した。

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にぎわい戻る観光地

宮城県を代表する観光地であり、日本三景の一つにも数えられる「松島」。
4年ぶりの行動制限のない大型連休を迎えたこの日、多くの観光客でにぎわいを見せていた。

新型コロナの感染拡大前以来の県外旅行だという、栃木から来た2人組は、「楽しいし帰りたくない」と笑った。4年ぶりに行動制限の無くなった大型連休を満喫しているようだ。

栃木から来たという2人組 県外旅行はコロナ禍前以来
栃木から来たという2人組 県外旅行はコロナ禍前以来

イタリアから観光に訪れたという男性は、松島観光の目玉の一つ、遊覧船での松島湾周遊が楽しみだと話してくれた。この男性のように、海外からの観光客の姿も少なくない。

イタリアから観光に訪れた男性
イタリアから観光に訪れた男性

松島町によると、行動制限の緩和や国際線の運航再開などを受け、2023年1月から3月までに松島を訪れた人はコロナ禍前の2019年とほぼ同じくらいまで回復しているという。

松島観光の代表の一つ 遊覧船乗り場には多くの人の姿があった
松島観光の代表の一つ 遊覧船乗り場には多くの人の姿があった

土産物店もにぎわいが戻ってきたことを歓迎している。

鈴木屋物産店 鈴木健一専務
鈴木屋物産店 鈴木健一専務

鈴木屋物産店 鈴木健一 専務
観光客が増え、本当にうれしい。松島に活気が戻ってきたと感じる。

そんな「うれしい悲鳴」の一方で、手放しでは喜べない事情もあるという。

戻る「人出」戻らない「人手」

鈴木屋物産店 鈴木健一 専務
従業員の数を調整せざるを得ず、コロナ禍前より減ったが、お客さんが戻ってきた時に募集して増えるかと思ったらうまくいかなくて。

5類移行を前に直面した「人手不足」。2022年の秋ごろから従業員を募集しているものの、半年間で応募は数人ほど。なかなか雇用には結びついていない現状があった。

現在、従業員は6人。平日は3人、休日は5人ほどで対応しているが、観光客の増加によって、1人あたりの仕事量が多くなり、レジの待ち時間が長くなったり、品出しが遅れたりすることもあるという。

実際、鈴木さん自らレジで対応する姿も。人手が足りない時は、家族総出で対応することもあるという。

鈴木屋物産店 鈴木健一 専務
一番忙しい時に人がいなくて店が回らなくなる状況だけは避けたい。時給を上げたり、臨時ボーナスを出したりして従業員の士気を上げていきたい。

地域経済の専門家は、5類移行で需要が戻っても、人手不足など観光業への影響はしばらく続くと見ている。

七十七リサーチ&コンサルティング首席エコノミスト 田口庸友さん
観光分野、飲食や宿泊業は業界全体からみれば、生産性が低く賃金が上げられない、労働条件が厳しいこともあり、コロナ禍で“不安定な業種”になってしまったことから、需要回復し人手を集めようとしても集まらないという問題が非常に根深い。

人手不足解消の手立ては

韓国出身 イ・ドンヒョクさん
いらっしゃいませ。

日本語で接客する韓国出身のイ・ドンヒョクさん(25)。イさんは韓国で日本語を勉強し、2023年3月に来日、2週間前から松島の旅館でフロント業務を担当している。

韓国出身 イ・ドンヒョクさん
アニメが大好きで日本に就職することに決めました。人と話すことが好きでサービス業を選んだ。

イさんの手元にはいつも、韓国語で書かれた接客マニュアルが…。マニュアルに沿って丁寧な接客を行うイさん。

イさんの接客マニュアル
イさんの接客マニュアル

韓国出身 イ・ドンヒョクさん
お客さまが利用するさざなみというレストランでございますので1階へお越しください。

一緒に働く日本人スタッフも、「語学も堪能でフロントにいてくれると助かる。とても頼りになる存在」とイさんに一目置いている。

人手不足に悩むこの旅館は、インバウンドへの対応も兼ねて、外国人の雇用を積極的に行っている。

松島温泉 小松館好風亭 小松篤司 専務
お客さまが戻ってきて、スタッフ不足が顕著に出ている。外国人スタッフの採用に力を入れていまして、インバウンドのお客さんもたくさんいらっしゃるようになり、旅館業界には必須の人材だと考える。

さらに、業務の効率化のため、2022年から2023年にかけて紙の案内帳をタブレット端末に変えるなどIT化を進めている。

案内帳をタブレット端末に変更するなどIT化を図る
案内帳をタブレット端末に変更するなどIT化を図る

松島温泉 小松館好風亭 小松篤司 専務
IT化を進めることによって、裏方に割いていた時間を短くして、お客さまと接する時間を増やしていきたい。

松島温泉 小松館好風亭 小松篤司専務
松島温泉 小松館好風亭 小松篤司専務

本業を大切にしつつ、変化に対応していく。専門家も観光業復活の鍵のひとつはIT化にあるとみている。

七十七リサーチ&コンサルティング首席エコノミスト 田口庸友さん
生産性を上げていく取り組みも必要ですし、例えばデジタル化を進めていき、人手不足を補うような総合的な取り組みで少しずつ解消していく必要があると思う。

にぎわいが戻ってきた観光地。新型コロナで変わってしまった状況に対応する新たな戦略を求められている。

(仙台放送)

仙台放送
仙台放送

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