ロシアとの戦闘で負傷したウクライナの元志願兵イゴール・ユカリチュクさん(46)が、空手の団体を頼って長野県高森町に避難してきた。NBSの単独インタビューに応じ、自身が見た戦地の現実と今の願いを語った。

空手道禅道会のウクライナ支部長

歓迎会で禅道会小沢隆首席師範とウオッカで乾杯(2023年4月23日)
歓迎会で禅道会小沢隆首席師範とウオッカで乾杯(2023年4月23日)
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来日したイゴール・ユカリチュクさん(46)。飯田市に本部を置く空手道禅道会のウクライナ支部長だ。

4月23日夜の歓迎会では、避難を手配した小沢隆首席師範と、ウオッカを酌み交わすという「念願」を果たした。

イゴール・ユカリチュクさん:
小沢先生に会えて、とてもうれしい。長い間、一緒にウオッカを飲みたかったけど、一緒に飲めて心からうれしい

ウオッカを亡くなった戦友に捧げる
ウオッカを亡くなった戦友に捧げる

別の「おちょこ」にウオッカを注ぐイゴールさん。亡くなった戦友たちに捧げた。

「国を守りたい」志願して戦闘参加

戦地のイゴールさん(提供写真)
戦地のイゴールさん(提供写真)

イゴールさんは元志願兵。ロシアとの戦闘の最前線にいた。

イゴール・ユカリチュクさん:
(左脚の)ひざの腱は全部切られました。爆破に巻き込まれて足がからまって、自分の体と足が切り離されそうになり、とても難しい手術をしました

イゴールさんはロシアとの戦闘で大けがをし、膝にはボルトが入っている。

禅道会ウクライナ支部(提供写真)
禅道会ウクライナ支部(提供写真)

元々はウクライナ中西部・ビンニツァにある大学の教授で、その後、門下生およそ1万人を抱える禅道会の支部長として活動していた。

状況が一変したのは2022年2月。ロシアによる侵攻が始まったのだ。

イゴール・ユカリチュクさん:
故郷が侵略されてとても悲しいし、自分の故郷だから悲しみの次に守りたいという気持ちが起こり、国を守る選択肢しか自分にはありませんでした。勝利を手に入れるまで国を守りたいとみんな思っています

戦地のイゴールさん(左・提供写真)
戦地のイゴールさん(左・提供写真)

侵攻が始まった翌月には志願して入隊。首都・キーウや東部のルハンシク州やドネツク州で、半年間、戦闘に参加した。

イゴール・ユカリチュクさん:
自分は対戦車の大砲を扱う部隊でした。(戦闘では)爆発が起きて隠れていた壁も倒れるなど、死ぬ思いを何度も経験しました。東部は戦いが今でも続いています。ウクライナ全土にミサイルが飛んできて、ドローンの攻撃もあるのでウクライナに安全と言える場所はありません

5度負傷し後遺症

小沢隆首席師範はイゴール支部長の身を案じ、メールで連絡を取り続けた(2022年3月撮影)
小沢隆首席師範はイゴール支部長の身を案じ、メールで連絡を取り続けた(2022年3月撮影)

侵攻が始まってすぐに小沢さんは、門下生の家族を日本に呼び寄せることを決める一方、イゴールさんの身を案じメールのやり取りを続けた。

空手道禅道会・小沢隆首席師範(2022年3月):
とても身を案じていて、いてもたってもいられない気持ちになってる。(メールで)「命を大事にしてくれ」「またウオッカを飲めたらいいな」と言ったら「戦争に勝って、また先生と一緒にウオッカを飲みたいと思います」と

病床のイゴールさん(提供写真)
病床のイゴールさん(提供写真)

その後、イゴールさんは5度、足や頭を負傷し2022年8月に除隊した。大きな手術で歩けるようになったが、脳振とうにより視力や聴力は低下したまま。

小沢さんによると、支部の指導者4人が戦死したという。

長野県高森町で静養へ

弟のイワンさんと高森町の町営住宅での生活をスタート
弟のイワンさんと高森町の町営住宅での生活をスタート

除隊から8カ月。小沢さんの手配で付き添いの弟・イワンさんと共に来日。しばらく、高森町で静養することになった。

禅道会と町による受け入れは、2022年の門下生家族に続き2回目だ。

イゴール・ユカリチュクさん:
みんなと会えて、これから住む所に着いて、ほっとしています

日本の子どもたちの稽古を見学
日本の子どもたちの稽古を見学

4月22日、早速、日本の子どもたちの稽古を見学した。ウクライナでも徐々に稽古を再開しているということだ。

イゴール・ユカリチュクさん:
みんな礼儀正しく一つ一つの動きも丁寧にやっていて、とても感動しました。(稽古したくて)腕が鳴っています

歓迎会でしゃぶしゃぶを食べる
歓迎会でしゃぶしゃぶを食べる

4月23日夜の歓迎会。禅道会や町の関係者などおよそ50人が出席した。

イゴール・ユカリチュクさん:
日本からたくさんの支援をいただいてるから、今回、日本に来ることができました。友情を確かめられて感動しました

空手道禅道会・小沢隆首席師範:
ウオッカで乾杯できてよかった。4年前のイゴールとはちょっと違う、彼の戦闘経験からの心の傷だと思うので、癒やしてあげたい。ちょっとずつ武道への理解を深めるのが本人の心の癒やしにもつながると思うので、そんなふうにしていきたいと思う

「母国にリハビリ施設を」

歓迎会であいさつするイゴール・ユカリチュクさん
歓迎会であいさつするイゴール・ユカリチュクさん

イゴールさんにはいずれ、母国に戻って取り組みたいことがある。

イゴール・ユカリチュクさん:
自分もけがを負ったけど、自分より後遺症が重い人がウクライナにはたくさんいます。体、心のリハビリが必要でセンターを建設したいと思っています

「心の距離をもっと近く」

戦い、傷ついた元兵士。滞在期間は未定だが静養しつつも、日本人に「ウクライナの現状を訴えたい」とイゴールさんは話す。

イゴールさんは戦闘で左足に重いけがを負った
イゴールさんは戦闘で左足に重いけがを負った

禅道会 ウクライナ支部長・イゴール・ユカリチュクさん:
ウクライナの現状をみんなに知ってほしいし、できるだけ詳しく正しく広めたい。ウクライナと距離は離れているけど、心の距離をもっと近くにしてほしい。そして、募金や技術への支援をいただけるとありがたい。日本や世界にウクライナの現状を知っていただけたら、それだけでうれしいです

禅道会は引き続きウクライナ支援の募金活動を行っている。

(長野放送)

長野放送
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