地球環境に優しいカキ養殖を目指して、“今までにない養殖用パイプ”で実証実験が始まっている。広島県が日本一の生産量を誇るカキ。一方で、養殖に使われるパイプが海に流出する問題がある。その解決策となるのか。

海岸に漂着するカキパイプのごみ

生産量・日本一を誇る広島のカキ。波の穏やかな広島湾で、カキ養殖のいかだが浮かぶ光景を目にする。

カキの水揚げ風景
カキの水揚げ風景
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養殖にはホタテ貝の貝殻が使われ、貝殻を長いワイヤーに一定間隔で取り付けた「垂下連」をいかだにつるす。その際、海中でカキが大きく成長するよう貝殻の間隔を保つための“パイプ”が必要になる。

いかだから海中へつるされた「垂下連」
いかだから海中へつるされた「垂下連」

しかし、従来のポリエチレン製のパイプは台風などの自然災害で流されると分解されずに海を漂い、やがて漂着するのが現状。

広島県の調査によると、2021年度は県内の海岸に発泡スチロール製フロートや生活由来のプラスチックごみなど合わせて約48トンの漂着物が確認された。そのうち「9%」はカキの養殖用パイプ(以下、カキパイプ)だった。

生分解されて“形が残りにくい”素材へ

カキパイプのごみ問題を解決しようと、呉市音戸町にある県立水産海洋技術センターで2023年2月、「プラスチックごみを出さないカキ養殖」の実証実験が始まった。大阪市の化学製品メーカー「ダイセル」が広島県と共同で実用化に向け取り組んでいる。

経過観察のため、水中から養殖用のワイヤーを引き上げた。そこに使われているのは、従来とは異なる「酢酸セルロース」のカキパイプだ。

 
 

ダイセル 新規CA事業構築プロジェクト・樋口暁浩 プロジェクト統括マネージャー:
石油系プラスチックは海中で生分解されず、燃やすと二酸化炭素が増えてしまう。その観点から、われわれは酢酸セルロースを85年前の1938年から製造しています。カキパイプの素材を従来の石油系プラスチックと置き換えるのに、酢酸セルロースが使えるだろうと

酢酸セルロースは、木材などから抽出した植物繊維と酢酸を組み合わせた自然由来の素材。

微生物によって分解される「生分解性材料」として、海に流されても形の残りにくいカキパイプの実用化が期待されている。実証実験では、これまで広く使われてきたポリエチレン製のカキパイプと一緒に海に沈めて耐久性などを比較している。

従来のポリエチレン製のパイプ(左)と酢酸セルロースのパイプ(右)
従来のポリエチレン製のパイプ(左)と酢酸セルロースのパイプ(右)

カキが育つ3年後まで耐えられるか?

県立総合技術研究所 西部工業技術センター・田平公孝 部長:
今回のように企業と協力しながら実証実験を行うのは工業技術センターとしても初めての取り組みです。非常に興味深く、結果がどうなるのか楽しみな実験です

酢酸セルロースのパイプがカキの養殖で使われるのは今回が初めて。

ストロー程度の大きさだと1年ほどで分解されて海に溶けてしまうため、カキが大きく育つ3年後まで持ちこたえることができるかが焦点だ。
実際に、取材を担当した五十川記者が手で触れてみると…

五十川裕明 記者:
海から引き揚げられた酢酸セルロースのカキパイプは、真新しいパイプと比べても硬さが変わらないように感じます。付着物はありますが、非常に硬くてしっかりしています

酢酸セルロースのカキパイプの硬さを確かめる五十川記者
酢酸セルロースのカキパイプの硬さを確かめる五十川記者

ダイセル 新規CA事業構築プロジェクト・樋口暁浩 プロジェクト統括マネージャー:
この材料がしっかり2年後、3年後もカキパイプとして使えて、生分解によってきれいな海が保てて…。広島県のカキの新しいブランドにでもなったら、面白いなと思っています

地球環境や海洋生物への影響を最小限にする生分解性材料「酢酸セルロース」。その分解速度と耐久性のはざまに、カキ養殖の未来がかかっている。

(テレビ新広島)

テレビ新広島
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