広島県の観光地・宮島の名産品「もみじ饅頭」。数ある店の中で「藤い屋」は大正14年に創業して以来、98年間も味を守り続けている。“変えない勇気”の一方で、次々と新たな挑戦に踏み出す老舗企業を取材した。

材料の卵不足でも“変えない味”

広島市佐伯区にある「藤い屋 IROHA village(イロハビレッジ)」。伝統の製法と新たな菓子作りを追求する生産工場として、ショップやカフェを併設し2018年にオープンした。

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ここでは1日に数万個ものもみじ饅頭が作られている。

宮島 藤い屋・藤井嘉人 社長:
創業当時の手焼きを守り、今でも人の手をかけて焼くことにこだわっています。創業当時から変わらない小豆のこし餡を宮島の店で炊き、小麦粉も弊社用にひいてもらってオリジナルの小麦粉で生地を作っています。小麦粉の風味で味がすごく違う

この施設では、もみじ饅頭が作られる様子をガラス越しに見学できる。焼きたてのもみじ饅頭の表面温度は約100度だが、その焼き加減を職人が素手で確認。ほとんどさわらずとも、軽く触れるだけで判断できるそう。製造工程は機械化されても、随所に、職人の技が生きている。

職人がもみじ饅頭の焼き加減を確認し、ケースに移していく
職人がもみじ饅頭の焼き加減を確認し、ケースに移していく

しかし今、そのもみじ饅頭にピンチが…。材料に欠かせない卵の不足と高騰だ。

宮島 藤い屋・藤井嘉人 社長:
卵の供給はかつかつの状況で、難しさもあるのですが、近くの農場などから卵を仕入れています。新鮮な卵を使ってふっくらと焼き上げることを今も大切にしています。昔ながらのやり方しかできないというか

“変わる勇気”がコロナ禍を支えた

もみじ饅頭の製法を変えない一方で、藤井社長は就任以来、さまざまなことにチャレンジし続けている。その一つがパッケージ。色鮮やかな包装紙で包まれているように見えるが、デザインを工夫して箱のまま販売している。

イロハビレッジ内にあるショップ
イロハビレッジ内にあるショップ

宮島 藤い屋・藤井嘉人 社長:
以前は、箱にさらに包装紙を巻いていましたが、今は違います。この箱は環境に配慮した紙やインクで作られています

取材する木村仁美アナウンサー(左)と藤井社長(右)
取材する木村仁美アナウンサー(左)と藤井社長(右)

商品の包装を簡略化して、環境に配慮する取り組みである。

さらに、2016年に新たな菓子のブランドを立ち上げた。これまで培ってきた和菓子の技術を洋菓子に生かし、瀬戸内の果実などを使った美しいスイーツがショーケースに並ぶ。コロナ禍でお土産の需要が激減した時期には、新ブランドのスイーツが大活躍した。

宮島 藤い屋・藤井嘉人 社長:
コロナの時期には観光客がいなくて、お土産菓子は本当に難しい時期がありました。しかし、このような日常菓子は地元の人にご利用いただいて。そういう意味でも支えになっているお菓子たちです

素材を追求し、自社農場で小豆を栽培

イロハビレッジには生産工場やショップのほかに、素材を研究するための畑がある。

イロハビレッジの敷地内に作られた「畑ラボ」
イロハビレッジの敷地内に作られた「畑ラボ」

新緑がまぶしい畑を散策。小道の脇にはアーモンドの木が植えられ、小さな小麦畑も。「畑ラボ」と名付けられたその場所には、藤井社長の思いがあふれていた。

宮島 藤い屋・藤井嘉人 社長:
もみじ饅頭の原料の小麦や小豆がどのように育ち、どのようにもみじ饅頭が作られるかを見てもらいたい。一つ一つの素材を突き詰めた商品作りをこれからもしていきたいと思っています

「畑ラボ」で育てられている小麦
「畑ラボ」で育てられている小麦

「突き詰める思い」が、藤井社長をさらなるチャレンジへと駆り立てていく。

宮島 藤い屋・藤井嘉人 社長:
やはり、もみじ饅頭は小豆のこし餡がないとできない。そのために始めたのが、小豆の畑です

廿日市市内の「藤い屋 はつかいち農場」
廿日市市内の「藤い屋 はつかいち農場」

藤井社長が始めた新たな挑戦。それは2019年からスタートした農業だ。廿日市市内の「藤い屋 はつかいち農場」で小豆の栽培を行っている。

宮島 藤い屋・藤井嘉人 社長:
耕作されていない土地を借りて、自分たちで耕しました。最初の年は、僕と畑をやってくれる専属の社員1人とで小さな手押しの耕運機と鍬(くわ)で耕して種をまいて、収穫時には鎌で刈り取って…という作業をしました

収穫前の小豆
収穫前の小豆

農薬を使わない有機栽培。この農場で取れた小豆だけで作られる「もみじ饅頭」は約2万個。数量は限定されるが、販売も行っている。

宮島 藤い屋・藤井嘉人 社長:
商品に使っているものと同じ種類の北海道小豆をここでも作っていますが、この土地のもみじ饅頭の味はどこか優しい味です。それはそれで“この土地の味”としていいなと思っています

取材時は小豆の種まき前で、肥料用の麦が植えられていた
取材時は小豆の種まき前で、肥料用の麦が植えられていた

人生で誰しも一度は直面するであろう「変えない勇気と変わる勇気」。変わらない根本があるからこそ、新しい枝葉を伸ばせるのかもしれない。新緑の中で、焼きたてのもみじ饅頭を食べてみたくなった。

(テレビ新広島)

テレビ新広島
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