4月9日に行われた統一地方選の前半戦。維新は大阪府知事・大阪市長の「W選」、大阪府議選に加え、市議選でも過半数を獲得するなど、これまでにないような圧勝を遂げた。裏を返すと「圧倒的」な敗者がいるということだ。それは“大阪自民”である。

大阪自民の「若手エース」 3期目を目指す戦いはこれまでと違う様相が…

大阪府議選告示前の3月30日。大阪府内で桜が見ごろを迎えていた。

「また大阪でコロナ増えて来ているので、万が一かかったときの相談先一覧ですんで何かあったらここに連絡してください。困ったことあれば言ってください」 箕面市内の有権者の家を1軒1軒回って声をかけていたのは、自民党大阪府議団幹事長(4月14日時点)の原田亮さん(36)だ。

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2011年、25歳で箕面市議選に立候補し、全国最年少議員として初当選。その後、大阪府議選に自民党公認で立候補し、2期連続当選。府議団の幹事長も務めることなった。まさに大阪自民の「若手エース」だ。

個別訪問は日頃から行っている。河川の改修や信号機の設置の要望などこれまで1800件の相談に耳を傾けてきた。「府議会議員がどんな仕事をしているのかよくわからない」と言われることが多い中で、有権者と顔を突き合わせ、地元の声を議会に届けることを大事にしているからだ。

町を歩けば、「亮君や。頑張って」と住民から頻繁に声をかけられる。しかし、3期目を目指す今回の選挙はこれまでとは異なる様相を呈していた。 

今回の大阪府議選挙では、定数が88議席から79議席に減った。区割りが変わらないまま1人区が5つ増えた。原田さんの選挙区「箕面・豊能郡」も、これまでの2議席から1議席となった。維新、共産党の新人と合わせて3人が、1つの議席を争う。

この選挙区では、2015年、2019年の選挙で、維新の候補がトップ当選し、原田さんは2位当選だった。今回、新人とはいえ維新の看板を持つ相手候補は強敵だった。そんな中で3期目を狙い立候補。選挙戦が始まった。

「大阪維新の会」公認の新人・堀江優さん(38)の陣営には、政界引退を直前に控えた松井一郎日本維新の会顧問(当時)や、吉村洋文大阪維新の会代表のほか、国会議員や現職の箕面市長(大阪維新の会顧問)らが続々と応援に入った。「松井・吉村」という“維新の顔”が来くれば、街宣車の前には多くの人が集まり、演説に耳を傾けた。

対照的に、原田さんの陣営に党本部から名の知れた議員が応援に入ることはなかった。原田さんは街頭演説を繰り返し、商店街などを練り歩き、2期8年の実績を地道に訴えた。

二元代表制形骸化を指摘「府議会には野党が必要」訴えたが…

「大阪府議会には、維新の知事に問題を指摘して改善を促す健全な野党が絶対に必要なんです」 選挙戦で原田さんは、府議会で12年間単独過半数を占めてきた「維新一強」の現状に警鐘を鳴らした。府議会では野党の立場で苦い経験をしてきたからだ。

2022年4月、原田さんは自民党大阪府議団の幹事長に就任すると記者を控室に集め「議案をどんどん提案していく。大阪府議会で最も改革する団を目指す」と熱く意気込みを語り、維新の改革に改革で対抗する姿勢を見せた。

記者の個人的な印象となるが、「なんだか自民党らしくない人だな」と、この時感じた。維新中心で進む府議会に「風」を吹き込む存在になるのではないか、そんな予感がした。

原田さん率いる自民党大阪府議団は、議員が視察の際に新幹線のグリーン車や飛行機のビジネスクラスの利用を廃止する条例改正案や、成立すれば全国で初めてとなるギャンブル等の依存症対策に特化した条例案など、去年6つの条例案を議会に提出した。

しかし、その全ては議会で過半数を占める維新などの反対多数で否決された。

自民党は、複数会派で協議して取りまとめた議案を議会に提出する「共同提案」も求めたが、維新はそれにも乗らず、独自案を提出。議会では維新案が可決された。

そんな状況でも「改革競争」を仕掛けるなど維新と対峙し続けたのは、府議会での「維新一強」への警戒感だけではなく、「大阪自民」に対しても危機感を抱いてきたからだ。

「維新じゃないとあかん」「維新は改革してきたやん。大阪の自民党はあかんぞ」そんな言葉を有権者から幾度となくぶつけられた。葛藤しながらも原田さんは今回、自民党の看板を隠して戦うことを選んだ。

自民党の看板は、選挙でマイナスになってもプラスにはならない。SNSでは「党」ではなく「人」や「政策」で選んでほしいと訴えた。

離党したわけではないが、SNSや演説などでは自民党の名前を表に押し出さない戦い方を選んだ。ただ、そんな戦略をとりつつ「このままではいけない」とも語っていた。

自民党・原田亮さん:
維新の人気も知事の人気もすごくある中で、大阪の自民党は人気がない。評価されていないと認識しているので、自民党ということを全然訴えていない。でも、そんなんじゃいけないとも思っているので堂々と誇れるような大阪の自民党を作っていきたい

まとまり欠く自民党大阪 3人の“幹事長”が落選

投票日から一夜明けた4月10日午前7時。まだひんやりと冷たい朝の空気が漂う阪急電鉄・桜井駅で、有権者に深々と頭を下げる原田さんの姿があった。憔悴しきった表情には、悔しさや憂いも見えた。1年間以上の取材で、初めて見る表情だった。

「自分の不徳の致すところ。一から出直します」と言い、1人駅で頭を下げ続けた。開票結果は、維新の堀江優さん2万8548票、原田さん2万8435票。わずか113票差での落選だった。

今回の選挙では、「府議団」幹事長の原田さんのほか、大阪府議選に立候補した自民党大阪「府連」幹事長の西恵司さん、大阪市議選に立候補した自民党大阪「市議団」幹事長の川嶋広稔さんも落選。大阪自民の3幹事長がそろって落選した。

川嶋さんは、10日の午前1時になって落選を知った。支援者らと開票の結果を待っていた会場で、スマートフォンに届いた落選のメッセージを数秒間じっと見つめ「大変申し訳ありません、残念ながら及ばずでございました」と頭をさげた。

予期せぬ敗北に会場はざわめいた。 自民党は今回、大阪市議会で3議席、大阪府議会で9議席を失った。

川嶋広稔さん:
(Q.選挙での敗因について)
維新のブランドイメージができ上がっている中で、我々は維新をしのぐものにならなかった。彼らに大阪を代表する政党みたいなイメージがある中で、どう対峙していくのか考えないといけない。総合的に負けている

原田さんは、維新と対峙できる政党になるためにも、自民党大阪府連は壊滅的出直しが必要だと言う。「維新と切磋琢磨できるような2大政党を大阪で機能させないと、独裁のような状態になってしまい(維新の)議員は府民の声を聞かなくなる」と危機感を露わにした。

自民敗退の一方で、悲願だった大阪市議会での単独過半数を占めた大阪維新の会。吉村洋文代表は「政策をスピーディに実現していきたい」と意気込む。「維新一強」の大阪で、議会が首長の行政運営をチェックする「二元代表制」がどう機能するのか注目される。
 (関西テレビ 大阪府政担当記者:菊谷雅美)

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