静岡県がリニア工事を認めない大きな理由は、大井川の流量減少の懸念だ。水を利用する市町などは協議会を立ち上げ、JR東海と向き合っている。その協議会に流路が最も長い静岡市は不参加だ。新市長が参加の意向を示し、知事も「これまでが異常だった」と歓迎したが、知事と“不仲”と言われた前市長も参加を希望していた。

新市長がリニア対応で方針変更

2023年4月13日、静岡市に新市長が誕生した。川勝知事のもとで、副知事を2期8年務めた難波喬司 新市長だ。

就任あいさつで訪れた難波市長と握手する川勝知事(県庁)
就任あいさつで訪れた難波市長と握手する川勝知事(県庁)
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就任あいさつに訪れた新市長を知事は握手で出迎え、静岡市を難波市長、浜松市を中野 新市長に任せ、自分は県内の他の市町に力を入れる考えを伝えた。
知事から全幅の信頼を寄せられた難波新市長は、就任会見でリニア対応をめぐる方針の変更を打ち出した。

難波市長の就任会見(2023年4月)
難波市長の就任会見(2023年4月)

静岡市・難波 喬司 新市長
静岡市も流域です。大井川の流域で市町が作っているものに参加していないというのは、普通に考えると変だなと

「大井川の水問題を話し合う協議会に、静岡市が加わらない選択はない」と述べた。

源流の南アルプスでリニア工事が予定される大井川
源流の南アルプスでリニア工事が予定される大井川

「大井川利水関係協議会」はリニア工事による大井川の流量減少問題に「オール静岡」でJR東海と交渉にあたろうと、流域の市町と利水団体と県が2018年8月に立ち上げた。

大井川利水関係協議会(2018年8月)
大井川利水関係協議会(2018年8月)

市町は、島田市・焼津市・藤枝市・牧之原市・御前崎市・菊川市・掛川市・袋井市・吉田町・川根本町の10市町だ。

大井川は上流部が静岡市の山間部を流れていて流路延長も最長だが、静岡市は協議会に入っていない。

「これまでが異常」知事が方針変更を歓迎 

難波新市長の参加意向に対し、川勝知事は「もっともなことだと思う」と述べた。

川勝知事の定例会見(2023年4月)
川勝知事の定例会見(2023年4月)

静岡県・川勝 平太 知事
(難波市長は)個人的にもそういう(工学的な)能力を持っていて、公人として市長としても入るのが望ましい。これまでは異常な状態だったと受け止めているので、正常に戻すためにも入るのが望ましいということで私は歓迎している

川勝知事は難波市長から正式に加入の打診があれば、協議会の会員に諮るとした。
ただ、静岡市が参加を希望したのは、これが初めてではない。

前市長も参加を希望したが…

2018年8月の協議会発足の際に静岡市が参加しない理由を問われ、当時の田辺信宏市長は次のように述べた。

協議会不参加の理由を説明する田辺市長(2018年8月)
協議会不参加の理由を説明する田辺市長(2018年8月)

田辺市長(当時)
(協議会メンバーは)大井川流域の利水団体の方々なので、私たちにはその資格がない。「私たちも加わって一緒に県に要望にいきたい」とメッセージを伝えました。伝えましたが、「今回は、静岡市はその枠組みにないので遠慮してほしい」ということだった

大井川利水協議会の県への要望(2018年8月)
大井川利水協議会の県への要望(2018年8月)

静岡市によると、協議会と、協議会の川勝知事への要望に、静岡市も参加する意思を示したものの、「静岡市は大井川の利水者ではない」「要望は協議会が行うもの」として、協議会と要望のどちらへの参加も断られたということだ。

静岡市とJR東海が「県道整備と工事協力」で合意

なぜ、静岡市が参加を断られたのか。

合意文書を発表する田辺市長とJR東海社長(2018年6月)
合意文書を発表する田辺市長とJR東海社長(2018年6月)

協議会発足2カ月前の2018年6月、静岡市とJR東海は「リニア建設と地域振興に関する合意文書」を交わした。
静岡市が求めていた県道の整備やトンネル建設をJR東海が進め、静岡市は南アルプスのリニア工事に協力するというものだ。

リニア工事で交通量増加が予想される静岡市井川地区
リニア工事で交通量増加が予想される静岡市井川地区

工事が始まると静岡市山間部の井川地区に1日200台を超える工事車両が行き来すると予想された。市や住民はJR東海に対し、安全のため市街地につながる県道の整備やトンネル新設を求め、JR東海は工事に応じた。約140億円を負担する。

JR東海と合意した理由を説明する田辺市長(2018年6月)
JR東海と合意した理由を説明する田辺市長(2018年6月)

田辺市長(当時)
自然環境の保全と地域振興の両立をどこで折り合いをつけていくか。市長として本当に考えに考えた

この合意会見の際、田辺市長(当時)は、「(JR東海は大井川の流量減少問題で)現実対応可能な技術的な最大限の提案をしていると思っています」とJR東海に理解を示す発言をした。

田辺市長発言に抗議する川勝知事のコメント(2018年6月)
田辺市長発言に抗議する川勝知事のコメント(2018年6月)

この発言に対し、川勝知事は「問題の本質を全く理解していない」と猛抗議し、田辺市長(当時)に発言の撤回を求めた。田辺市長(当時)は6日後に発言の撤回に追い込まれた。

リニア新幹線 山梨実験線
リニア新幹線 山梨実験線

知事と“不仲”と言われた前市長が退任し、知事の“腹心の部下”と言われてきた新市長が誕生した。
この交代は、こう着状態が続くリニア問題にどんな影響をあたえるのだろうか。
何かを変える良いきっかけにはなるかもしれない。

(テレビ静岡)