北朝鮮の最高指導者金正恩総書記が3月27日に、先端が赤く樽のような形をした物体が10個以上並んでいる場所を視察したと労働新聞など北朝鮮メディアが報じた。

「火山31型」核弾頭(?)を視察する金正恩総書記。「火山31型」は画面に10個以上見える。(労働新聞・3月28日)
「火山31型」核弾頭(?)を視察する金正恩総書記。「火山31型」は画面に10個以上見える。(労働新聞・3月28日)
この記事の画像(26枚)

この樽型のモノについて、韓国の中央日報紙(3/28)は「直径40~50cm、全長約90cm」との推定値を弾き出していた。

また、ウクライナ状況の情報で著名な軍事情報サイト「Oryx」日本語版管理人、Tarao Goo氏も、この”樽型”のサイズを画像のピクセル数などから独自に計算。「直径44~50cm、全長94~110cm」と割り出していた。

この樽のような形のものは、何なのか?

記事本文中には、この樽型の物体を特定、説明する表記はなかった。

しかし金正恩総書記の視察が「核兵器適用手段と作戦の目的と打撃対象に従う新しい戦術核兵器の技術的諸元及び構造作用特性、各々の武器体系との互換性などについて具体的に了解」「準備された核反撃作戦計画と命令書を検討」「強力な抑制力を備蓄した朝鮮核武力」「想像を超越する強力で優勢な核武力」など、「核」という単語を含む記述が記事内に繰り返されていた。

また、記事のタイトルが「敬愛する金正恩同志が核兵器兵器化事業を指導した」とあるので、核兵器関連のものだということが強く示唆されている。

「火山31型」核弾頭(?)を視察する金正恩総書記。壁のパネルに「火山31型」を装備可能な兵器のイラスト。(労働新聞・3月28日)
「火山31型」核弾頭(?)を視察する金正恩総書記。壁のパネルに「火山31型」を装備可能な兵器のイラスト。(労働新聞・3月28日)

そして、金正恩総書記の後ろに飾られたパネルの1枚に「〈火山31〉装着核弾頭」と題したパネルがあった。その下には、樽型の物体を填め込んだ8点のイラストが描かれている。

「火山31型」核弾頭(?)を搭載する8種類の兵器のイラスト(労働新聞・3月28日)
「火山31型」核弾頭(?)を搭載する8種類の兵器のイラスト(労働新聞・3月28日)

イラストは左上から、下へ:超大型放射砲の誘導弾先端部、無人潜水艇「ヘイル(津波)-1(後述)」、戦略巡航ミサイル「ファサル(矢)-1」「ファサル(矢)-2」、右上から、戦術誘導弾(KN-24:通称、ATACMSモドキ)、変則軌道可能弾道ミサイル(KN-23)、新型戦術誘導兵器(小型KN-23),それに、変則軌道可能/潜水艦発射弾道ミサイル(KN-23系列潜水艦発射弾道ミサイル)と書かれている。

それぞれ、どのように「火山31型」核弾頭をはめ込むのかも具体的に図示されていた。

前述の画像の樽型の物体の前半部には、小さな溝が認められるが、ミサイルや無人潜水艇(核魚雷)内部の突起で、しっかりと固定するための仕組みとみられる。

これらの図が”樽型”の物体を指すのであれば、北朝鮮は、複数の核兵器の核弾頭を共通化するということなのだろう。

「火山31型」は2017年に公開された核弾頭よりも小型化

北朝鮮は、2017年9月にも、ひょうたん型の核弾頭または、その実大模型とおぼしきモノの画像を
公開していた。

火星14型大陸間弾道ミサイル用と見られる水爆核弾頭実物大模型。最大直径推定約75cm。今年北朝鮮メディアが公開した「火山31型」はこれよりかなり小型化している(朝鮮中央通信・2017年9月)
火星14型大陸間弾道ミサイル用と見られる水爆核弾頭実物大模型。最大直径推定約75cm。今年北朝鮮メディアが公開した「火山31型」はこれよりかなり小型化している(朝鮮中央通信・2017年9月)

2つの球体をつないだからこそのひょうたん型であり、球体の1つは原爆、もう1つが原爆を起爆装置とする核融合反応装置で、ひょたん型全体として水爆と推定され、北朝鮮は水爆を保有したと考えられた。

しかし、最大直径約75cmとなると、重量は500~750kgあると推定され(前述、中央日報)、搭載出来るミサイルは限定されると考えられてきた。

だが、今回の”樽型”は、それより、はるかに小さくなったことがうかがわれ、重量が200kg以下になるなら、超大型放射砲を「核兵器」にできるとも考えられるという(前述、中央日報)。

「火山31型」核弾頭…超大型放射砲に搭載可能?

そして、この分析を裏付けるように、金正恩総書記が視察した同じ室内には、まず、先述のパネルにもあった「超大型放射砲」の弾体の先端部が立てかけられ、それとは別に横倒しになった超大型放射砲の弾体(のモックアップ)があった(画面 左端)

画面左は"超大型放射砲"の前端部。核弾頭の装着はこの部分と推定される。(労働新聞・2023年3月28日)
画面左は"超大型放射砲"の前端部。核弾頭の装着はこの部分と推定される。(労働新聞・2023年3月28日)
画面左に超大型放射砲の弾体(またはその実大模型)(労働新聞・3月28日)
画面左に超大型放射砲の弾体(またはその実大模型)(労働新聞・3月28日)

超大型放射砲の弾体については、従来、西側では、推定全長8.2m、推定重量3トン、そして、直径は600mmと推定されていて、2017年に画像が公開されたひょうたん型の「推定 水爆」は、搭載出来そうもなかったが、今回公開された“樽型”なら、北朝鮮メディアが公開したパネルにある通り、すっぽりと填め込むことが出来そうだ。

労働新聞(1/1)は、昨年末に「600mm超大型放射砲贈呈式を盛大に進行」したことを紹介する記事を掲載した。

それに添えられた画像には、金正恩総書記の背後に「600mm」と大書されていた。

北朝鮮自身が直径「600mm」と公然と認めていたことになる。

600mm超大型放射砲贈呈式(労働新聞・1月1日)
600mm超大型放射砲贈呈式(労働新聞・1月1日)
左:600mm超大型放射砲贈呈式に登場した"超大型放射砲"。右:金正恩総書記の後ろに「600mm」と大書されている(労働新聞・1月1日)
左:600mm超大型放射砲贈呈式に登場した"超大型放射砲"。右:金正恩総書記の後ろに「600mm」と大書されている(労働新聞・1月1日)

そして、金正恩総書記は、昨年末の贈呈式典で行った演説で、“600mm超大型放射砲”について「南朝鮮(=韓国)全域を射程とし、戦術核搭載まで可能」(労働新聞1/1)として、戦術核兵器にすることも、すでに認めていたのである。

従って、推定直径40~50cmの“樽型”なら、全長90cmあっても、推定全長8.2mの弾体に収まる可能性が低いとは断定できないだろう。

「火山31型」核弾頭…KN-23弾道ミサイルに搭載可能?

さらに、“樽型”と同じ労働新聞の紙面には金正恩総書記が、変則軌道での飛翔が可能な短距離弾道ミサイルKN-23、または、その実大模型を視察する様子もあった。

金正恩総書記が視察した「火山31型」が並ぶ同じ部屋に置かれていたKN-23弾道ミサイル(または実大模型)(労働新聞・3月28日)
金正恩総書記が視察した「火山31型」が並ぶ同じ部屋に置かれていたKN-23弾道ミサイル(または実大模型)(労働新聞・3月28日)

KN-23については、金正恩総書記の“樽型”視察を報じた同じ日付の労働新聞が、3月27日に、「地対地戦術弾道ミサイル2発で核空中爆発打撃方式の教育デモ射撃を進行」という記事を掲載していた。

KN-23変則軌道ミサイルと見られる"戦術地対地弾道ミサイル"の発射試験(労働新聞・3月28日)
KN-23変則軌道ミサイルと見られる"戦術地対地弾道ミサイル"の発射試験(労働新聞・3月28日)

この「戦術地対地弾道ミサイル」は、画像を見る限り、その形状からKN-23系列のミサイルと推定される。

北朝鮮のKN-23系列のミサイルは、噴射口の周りに4枚の動翼が配置されているほか、噴射口の中にも、外周からベーンという4枚の動く耐熱板が配置されていて、噴射の向きを変え、ミサイルを機動できるようになっている。

そして、推進材が燃え尽きて、噴射終了後も動翼で、ミサイルを機動させることが出来、結果として、変則軌道で飛べるとみられている。

この日の発射について、防衛省は、2発とも最高高度約50km、飛翔距離約350km程度で「変則軌道の可能性」を強調していた。

しかし、今回興味深いのは、標的の島の上空の一定の高度でミサイルが2発とも爆発し、その画像を記事に添えたということ。地上からの高度を図る何らかのセンサーや瞬時に起爆させる装置が装備されていると言わんばかりである。

標的の島の高度500mで爆発した2発の"戦術地対地弾道ミサイル"(労働新聞・2023年3月28日)
標的の島の高度500mで爆発した2発の"戦術地対地弾道ミサイル"(労働新聞・2023年3月28日)

なお、この日の発射はミサイル部隊の教育のためであったと労働新聞は強調している。

攻撃実行の手続きを熟練させるとともに「射撃準備訓練では、核攻撃命令認証手続きと発射承認システムを検閲し、核攻撃命令受付手続きと規定された標的に核襲撃を加えるための標準戦闘行動規定と火力服務動作に対して試験教育を実施」「戦術弾道ミサイルには核戦闘部(弾頭)を模擬した試験用戦闘部を装備」「教育中隊は平壌市力浦区域で咸鏡北道金策市前目標の島を狙って仮想的な核襲撃を進行しながら標的上空500mで(ミサイル先端部の)戦闘部を空中爆発させた」と書かれている。

標的の島の上空で爆発した直後の"戦術地対地弾道ミサイル"(労働新聞・2023年3月28日)
標的の島の上空で爆発した直後の"戦術地対地弾道ミサイル"(労働新聞・2023年3月28日)

つまり、“核”弾道ミサイルを想定したデモンストレーション・訓練発射ということだろう。

この記述から類推すれば、この教育訓練に使用されたミサイルには、「火山31型」を模擬したであろう、 樽型弾頭に爆薬を装填し、何らかの手段で、所定の高度で起爆させた、ということだろう。

北朝鮮が、電波高度計などのセンサーや微妙なタイミングで作動する起爆装置を実用化していたのだとすると日本の安全保障上も気がかりなことではある。

だが、KN-23系列のミサイルには、さらに気がかりな点がある。

異例のサイロ発射型弾道ミサイル…日本も射程に?

北朝鮮の国営メディア、朝鮮中央通信(3/20)は「核反撃仮想総合戦術訓練」という記事を掲載した。

「戦術核任務遂行の手順と工程に熟練させるための総合戦術訓練が3月18日、19日の両日に行われた」とし、この訓練では「金正恩同志が、核反撃仮想総合戦術訓練を指導した」と書かれている。

左:ミサイル発射訓練を視察する金正恩総書記父娘。右:ミサイル発射前に二手に別れて噴き上がる噴射炎。(朝鮮中央通信・2023年3月20日)
左:ミサイル発射訓練を視察する金正恩総書記父娘。右:ミサイル発射前に二手に別れて噴き上がる噴射炎。(朝鮮中央通信・2023年3月20日)

添えられた画像には、地下から二手に分かれて吹き上がる炎と、訓練を見守っているのであろう金正恩父娘の姿もあった。

吹き上げられた炎の間から上昇するミサイルはKN-23系列のミサイルの特徴の一つである、垂直に上昇しつつ、斜めに機動している様を捉えた画像もあった。

地下から噴射炎が吹き上がっているということは、ミサイルの噴射炎を地下で斜めに逃し、ミサイル本体に当たらないようにしている発射方式なのだろう。

従って、このミサイルは移動式発射機ではなく、地面から垂直に掘った穴を発射装置とする地下サイロから発射されたものと推察される。

1.二手に別れた噴射炎の間から上昇するミサイル(地下サイロ発射?)。2.上昇途中で機動し始めたKN-23系列と見られる弾道ミサイル。3.遠景から撮影されたKN-23系列と見られるミサイルの軌道。4.発射されたKN-23系列と見られるミサイルの軌道を示す噴煙。(朝鮮中央通信・2023年3月20日)
1.二手に別れた噴射炎の間から上昇するミサイル(地下サイロ発射?)。2.上昇途中で機動し始めたKN-23系列と見られる弾道ミサイル。3.遠景から撮影されたKN-23系列と見られるミサイルの軌道。4.発射されたKN-23系列と見られるミサイルの軌道を示す噴煙。(朝鮮中央通信・2023年3月20日)

なぜ、KN-23系列のミサイルでこれまで使用されてきた移動式発射機ではなく、地下サイロなのだろうか。

あくまでも可能性の話だが3つの理由が考えられる。

(1)移動式発射機の数両が足りないのでサイロ式発射装置を作ったのではないか。

(2)サイロの蓋を囮として多数並べ、本物のミサイルの入ったサイロを防護しやすくする。

(3)将来、核弾頭を搭載する場合、移動式発射機より地下に固定されたサイロのほうが核弾頭の管理が容易となる、

などがあげられるだろう。

地下サイロからの発射と推察されるミサイルの噴射炎。(朝鮮中央通信・2023年3月20日)
地下サイロからの発射と推察されるミサイルの噴射炎。(朝鮮中央通信・2023年3月20日)

日本にとって、気がかりになるのは、前述の朝鮮中央通信の以下の記述だろう。

「平安北道鉄山郡で発射された戦術弾道ミサイルは、800km射程に設定された日本海上の目標上空800mで正確に空中爆発して、核戦闘部(核弾頭)に組み込まれる核爆発制御装置と起爆装置の動作の信頼性が再度検証された」という。

KN-23のもともとの射程は約450kmで、ミサイルを拡大したバージョンは約690kmとされてきたが、800kmとなると、日本の一部も射程内となりかねない。。さらに、第二次大戦中に原爆リトルボーイは、広島上空約600mで爆発したことを想起すると高度800mという数字もまた気がかりだ。

既存のミサイル防衛での迎撃が難しい変則軌道での飛翔が可能な“核弾頭”搭載弾道ミサイルが一部とはいえ日本に届くとなれば日本の安全保障上、無視できるものだろうか。

だが、日本の安全保障にとって、気がかりな北朝鮮の装備はこれだけではない。

ファサル戦略巡航ミサイル…日本全域をほぼ射程内とする核ミサイル?

前述の労働新聞(3/28)の画像で、金正恩総書記が一緒に写っている装備で、白と黒に塗り分けられたミサイルは、胴体中央で左右に主翼を展張していることから、戦略巡航ミサイル「ファサル(矢)-1」「ファサル(矢)-2」(または、そのモックアップ)であることが分かる。

さらに、北朝鮮の朝鮮中央テレビは、ファサル-1とファサル-2の飛行シーンを動画で放送し、ファサル-1がまっすぐ飛行するだけでなく、高度を変化させながら飛ぶシーンもあった。

北朝鮮は、迎撃システムをかわす目的で、巡航ミサイル用の自動的に地形に沿って飛行する地形追随能力を完成、実用化したのだろうか。

地形追随をしながら飛行しているように見えるファサル-1戦略巡航ミサイル。(朝鮮中央テレビ・2023年3月24日)
地形追随をしながら飛行しているように見えるファサル-1戦略巡航ミサイル。(朝鮮中央テレビ・2023年3月24日)
金正恩総書記の左にファサル戦略巡航ミサイル(または実大模型)。画面右に並ぶ「火山31型」核弾頭(または実大模型)(労働新聞・3月28日)
金正恩総書記の左にファサル戦略巡航ミサイル(または実大模型)。画面右に並ぶ「火山31型」核弾頭(または実大模型)(労働新聞・3月28日)
ファサル戦略巡航ミサイル(または実大模型)の前端部にセンサー観測窓(労働新聞・3月28日)
ファサル戦略巡航ミサイル(または実大模型)の前端部にセンサー観測窓(労働新聞・3月28日)

前述の労働新聞(3/28)には、ファサル戦略巡航ミサイル(または、モックアップ)の前端にセンサー観測窓のようにみえる箇所を強調しているような画像も添えられていた。

朝鮮中央通信(3/24)は「3月22日、各戦略巡航ミサイル部隊を戦術核攻撃任務遂行の手順と工程に熟練させるための発射訓練が行われた。…戦略巡航ミサイルには、核戦闘部を模擬した実験用戦闘部が裝着された。…発射された戦略巡航ミサイル「ファサル(矢)―1」型2発と「ファサル―2」型2発は、日本海に設定された約1500kmと約1800kmの距離を飛行して目標を命中打撃した。」と書いている。

そして前述の通り、労働新聞(3/28)の画像には、ファサル―1であれ、ファサル―2であれ、「〈火山31〉装着核弾頭」を嵌め込むことを示唆するイラストがパネルに書かれていた。

射程1500km、1800kmといえば、ほぼ日本全土が射程内となりうる。

それが核弾頭装着可能であり、迎撃が難しい地形追随能力のある巡航ミサイルとなるなら、これも、日本の安全保障上、無視できるものではないだろう。

北朝鮮はミサイル以外の核兵器開発を進めている。

核無人水中攻撃艇ヘイル…核弾頭搭載し海中から艦隊や陸地を狙う?

「核無人水中攻撃艇『ヘイル(津波)』」と命名された新しい水中攻撃型兵器システムに対する実験を3月21日から23日まで、行ったとして、金正恩総書記が、ヘイル(または、モックアップ)らしき物体の横に立つ画像が掲載されていた(朝鮮中央通信3/24)。

しかし、「今から11年前である2012年から新しい時代の戦争様相を研究…水中核戦略攻撃兵器システムの開発を行ってきた」(朝鮮中央通信3/24)結果とされるヘイルの全体形状が分かる画像を北朝鮮メディアは公開していない。

ヘイルは、何を目的とする兵器なのか。

「敵の艦船集団と主要作戦港を破壊、掃滅することである。この核無人水中攻撃艇は、任意の海岸や港で、または水上船舶が曳航して作戦に投入することができる」と北朝鮮メディア(朝鮮中央通信3月24日付)は説明する。

その試験については「3月21日、咸鏡南道利原郡の海岸で訓練に投入された核無人水中攻撃艇は、日本海に設定されだ楕円および「8」字形針路を80~150mの深度で59時間12分を潜航し、3月23日午後、敵の港を想定した洪原湾水域の目標点に到達し、実験用戦闘部(=弾頭)が水中爆発した」(朝鮮中央通信3/24)という。

金正恩総書記と"核"無人水中攻撃艇ヘイル(全体形状は不明)(朝鮮中央通信・3月24日)
金正恩総書記と"核"無人水中攻撃艇ヘイル(全体形状は不明)(朝鮮中央通信・3月24日)
海中を航行し目標海域で水中での起爆試験を行う無人水中攻撃艇ヘイル(朝鮮中央通信・3月24日)
海中を航行し目標海域で水中での起爆試験を行う無人水中攻撃艇ヘイル(朝鮮中央通信・3月24日)
水面近くを航行し(左)、水中での起爆試験を行う"核"無人水中攻撃艇ヘイル―1(朝鮮中央通信・3月28日)
水面近くを航行し(左)、水中での起爆試験を行う"核"無人水中攻撃艇ヘイル―1(朝鮮中央通信・3月28日)

そして、北朝鮮は「(3月)25日から27日にかけて、核無人水中攻撃艇「ヘイル(津波)1」型の実験を行った」(朝鮮中央通信3/28)という。

では、へイル―1とは、どんな大きさの兵器なのか。

前述の軍事情報サイト「Oryx」日本語版の管理人、Tarao Goo氏は、北朝鮮メディアが発表したヘイル―1の画像のピクセル数等を元に、「直径約80.7~92.3cm、全長約502~574cm」との推定値を出している。

北朝鮮が保有する潜水艦のうち、一般的なロメオ級潜水艦が装備する魚雷管は533mm魚雷管なので、このヘイル―1は、それを上回る直径であり、何か、特別な発射装置を搭載しない限り、ロメオ級潜水艦からの発射は難しく地上から海中へ投入するか、水上の船舶が曳航して発射するということになったのかもしれない。

では、25~27日の実験は、どのように行われたのか。

無人攻撃艇は25日午後、日本海側の元山(ウォンサン)湾に投入。

「約600km辺りの距離を模擬した、のこぎり型および楕円形の針路を41時間27分潜航して、3月27日午前、予定の目標水域である咸鏡北道(ハムギョンブクト)花台(ファデ)郡沖合いに到達し、試験用戦闘部が正確に水中起爆した」(朝鮮中央通信3/28)という。

興味深いことのひとつは、「のこぎり型」針路という言葉だろう。

前述のTarao Goo氏は、この「のこぎり型」針路という言葉に着目。

ヘイル―1は、海岸線に沿って、潜行する能力を目指している可能性を指摘し、陸地に沿って、約600km潜航できるなら、「理論上は、北朝鮮の元山から韓国の釜山港に到達可能」との結論を導き出した。

地形に沿って600km航続出来ると北朝鮮の元山から韓国の釜山にまで物理的には到達可能か。(Tarao Goo氏作成)
地形に沿って600km航続出来ると北朝鮮の元山から韓国の釜山にまで物理的には到達可能か。(Tarao Goo氏作成)

こうしてみると、北朝鮮は「火山31型」核弾頭で、弾道ミサイル、巡航ミサイル、無人攻撃艇を同一種類の核弾頭で核兵器化を目指していることになる。

その核弾頭の威力について、高性能爆薬(TNT)換算「最大20キロトン」で「第二次世界大戦で広島(約15キロトン)と長崎(約20キロトン)に投下された核爆弾」に匹敵(韓国中央日報3/28)との分析もあった。

前述の通り、サイロ発射型KN-23系列弾道ミサイルやファサル-1、ファサル-2巡航ミサイルは、日本を射程にしうるかもしれない兵器だ。

それらが核兵器となる可能性は、日本の安全保障上も無視できるものではないだろう。

「火山31型」は完成した核弾頭なのか?

北朝鮮は共通の小型核弾頭で八種類の核兵器プロジェクトを進めようとしている?(労働新聞・2023年3月28日)
北朝鮮は共通の小型核弾頭で八種類の核兵器プロジェクトを進めようとしている?(労働新聞・2023年3月28日)

しかし、ここで気にかかるのは、「火山31」とパネル表示され、樽型の物体が並べられている写真が初めて掲載された3月28日付の北朝鮮メディアの記事本文には、「火山31」という記述が一言もなかったことだ。

従って、北朝鮮に「火山31型」核弾頭プロジェクトが本当にあったとしても、金正恩総書記が視察している樽型の物体が「火山31型」核弾頭そのものであるかどうかをあえて、記事中では明示することを避けているようにも見える。

では、あの「樽型」の物体は、あらためて何なのか。

前述の通り、北朝鮮は核兵器化を前提とした弾道ミサイル、巡航ミサイル、無人攻撃艇で、核弾頭を模擬し、爆薬を詰めた弾頭を使って、相次いで試験を行っている。

北朝鮮メディアの記述を信じる限り、爆薬を詰めた“模擬弾頭”は存在するし、金正恩総書記が視察していたのは、ミサイル等の兵器に実際に組み込めるかどうかを確認する実大模型の可能性もあるかもしれない。

従って、同記事の画像で、北朝鮮がどのような核弾頭の小型化を目指しているかは、示唆されているが、実現の段階にあるかどうか、確認できたとは言い難いだろう。

北朝鮮の火星17型大陸間弾道ミサイル(資料)
北朝鮮の火星17型大陸間弾道ミサイル(資料)

そして、もし、「火山31型」核弾頭が完成するなら、米国本土にも届く「火星15型」、「火星17型」大陸間弾道ミサイルにも搭載され、複数核弾頭、または、核弾頭+デコイという防御側にとっては厄介な存在につながるかもしれないし、そう示唆することが、金正恩総書記が率いる北朝鮮の狙いかもしれない。

【執筆:フジテレビ 上席解説委員 能勢伸之】

極超音速ミサイルが揺さぶる「恐怖の均衡」

極超音速ミサイル入門 |

能勢伸之
能勢伸之

情報は、広く集める。映像から情報を絞り出す。
フジテレビ報道局上席解説委員。1958年京都市生まれ。早稲田大学第一文学部卒。報道局勤務、防衛問題担当が長く、1999年のコソボ紛争をベオグラードとNATO本部の双方で取材。著書は「ミサイル防衛」(新潮新書)、「東アジアの軍事情勢はこれからどうなるのか」(PHP新書)、「検証 日本着弾」(共著)など。