南西地域の防衛体制の強化が進められる中、陸上自衛隊の石垣駐屯地が2023年3月16日に開設した。

2018年に市民の意思を示す機会が必要だとして「住民投票を求める会」が発足したが、市議会はこれを否決した。住民投票に向けて奔走した男性に思いを聞いた。

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対立する住民同士の光景に感じた違和感

石垣市で農業を営む金城龍太郎さん。
陸上自衛隊の石垣島への配備を巡り、市民が計画への賛否を示す機会を設けようと、2018年から住民投票の実施に向けて奔走し続けている。

金城龍太郎さん:
住む人とか作業する人、駐屯地に配属される人とかそういった方は本当に末端同士で関係がぎくしゃくしてしまいます

石垣島の高校を卒業後、大学進学のためにアメリカに渡った金城さん。

卒業後、故郷への思いが強くなり家業の農業を継ごうと石垣島に戻ったが、自衛隊の配備計画を巡って対立する住民同士の光景に違和感を感じたと振り返る。

金城龍太郎さん:
これから島で生きていく中で、島の先輩方もそうですし、みんながちょっといがみ合っている状態だと暮らしづらいなっていうのは感じていました

中山市長が受け入れ表明 頭ごなしの決定だと島が二分

石垣島に自衛隊を配備する目的について、政府は周辺諸国の情勢などを説明しつつ災害が発生した際の自衛隊の実績を強調していた。

中山義隆 石垣市長:
防衛省に対し、配備に向けた諸手続きを開始することを了承する旨を伝達することをご報告させていただきます

中山市長は受け入れを表明したが、住民からは頭ごなしの決定だと反発する声も上がり、その賛否をめぐって島が二分された。

互いの意見を尊重して正解を探るきっかけを作りたい

こうした中、市民の意思を明確に示す必要があると考えた金城さんは、住民投票の実現に向けて活動を始める。

金城龍太郎さん:
島外で安全な場所にいる方がこの計画を進めたりしています。住民投票をしてお互いの意見を尊重しあいながら、島内での正解を探るきっかけを作りたいと思いました

地方自治法で住民投票条例の請求に必要な署名は有権者の50分の1。
金城さんたちは精力的に署名活動をし、およそ1か月で有権者の4割近い1万4263人分の署名が集まった。

金城龍太郎さん:
反対だから書くよ、賛成だけど書くよ。みんなの意見を意思表示する機会というのはどっちみち大事であるはずだからという言葉にはすごく背中を押されました

なんでもありの市政運営になるのではないか

石垣市は請求に基づいて市議会に条例案を提案したが、議会はこれを否決。

市民から託された思いをどうにか結実させたい金城さんは、有権者の4分の1を超えた場合、市長へ住民投票の実施を請求できるとした条例を根拠に市を相手取る裁判を起こした。

金城龍太郎さん:
実施しなくてもいいという前例ができてしまうと、今後も何でもありの市政運営になってしまうのではないかという懸念があります

裁判は最高裁まで続き、2021年の8月、住民の訴えは退けられ敗訴が確定した。

中山市長「国の安全保障全体を危機にさらす」

駐屯地の開設まで1週間を切った2023年3月10日、沖縄テレビのインタビューに対し、中山市長は安全保障にかかわる政策に住民投票で賛否を示すことはふさわしくないと述べた。

中山義隆 石垣市長:
これは国の安全保障全体を危機にさらすことになりますので、ひとつの地域の住民投票だけでやる・やらないを決定するのは難しいのかなと。住民投票は基本的に意見を出すところであって、その後に法的拘束力は無いと言いますので私は、それはもう必要ないかと思います

2021年、市長を支える与党は市の自治基本条例から住民投票を定めた条項を削除する改正案を提案し、議会で可決された。

国防の中に住民も入っているのか疑問に感じる

こうした市民の声を奪うような動きに金城さんは懸念を強めている。

金城龍太郎さん:
国防の中に僕たち周辺住民も入っているのかすごく疑問に感じます。切り捨てられたというか、すごく残念な思いです

浜田防衛相「配備しないと説明していたが今後どうなるか分からない」

政府は2022年12月、安保3文書を改定し敵基地攻撃能力、いわゆる反撃能力の保有を明記した。

2023年1月、沖縄防衛局は石垣駐屯地に反撃能力を持つミサイル部隊の配備予定はないと説明していたが、浜田防衛大臣は国会で含みを持たせる答弁をした。

浜田防衛大臣:
(石垣市に)配備しないと説明していましたが、我々からすればいろいろな能力を考えると今後どうなるか分かりません

住民投票の可能性がある限りは続けていく

金城さんは現在、別の裁判を起こして、住民投票の実施を求めて再び市と法廷で争っている。

金城龍太郎さん:
行政の計画を支持する人だけが住民ではないので、住民の中でも様々な意見があって、計画に反対する人もいます。可能性がある限りは続けていきたいと思います

安全保障の名の下に、当事者であるはずの住民が議論から置き去りにされ、意思を示す機会も与えられていない現状がそこにある。

(沖縄テレビ)

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