転職で悩ましいのが、新しい企業での待遇。職場環境は変わったが、給料は以前より減ってしまったというのはよくある話だ。こうしたイメージが変わるかもしれない。人材総合サービスの「エン・ジャパン」によると、同社のサービス利用者の転職後の年収が、初めてプラスに転じたという。

転職で年収が増える時代に

「エン・ジャパン」は2017年から、自社のサービス「AMBI」「ミドルの転職」で転職した20~50代を調査対象に、年収(中央値の概算)の変化などをまとめている。※調査対象数は非公開。サービスの登録者数はAMBIが約80万人、ミドルの転職が約200万人。

転職後の年収の変化推移(提供:エン・ジャパン)
転職後の年収の変化推移(提供:エン・ジャパン)
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それによると、転職後の年収は17年が22万円減、18年が21万円減、19年が16万円減、20年が18万円減、21年が15万円減とマイナスが続いていたが、22年は7万円増と初のプラスになったというのだ。

賃金を上げていく動きがある(提供:エン・ジャパン)
賃金を上げていく動きがある(提供:エン・ジャパン)

また、転職時の決定年収(企業が提示する初年度の年収)は、17年が495万円、18年が522万円、19年が540万円、20年が544万円、21年が545万円、22年が550万円と上昇傾向にある。

エン・ジャパンの担当者によると、企業が転職者の待遇を良くする動きもあって、転職後の年収が増加に転じたことが考えられるという。

コロナ禍を経て企業の価値観に変化

以前は「35歳限界説」などと言われたが、こうした動きはなぜ起きているのだろう。年収の増加が期待できそうな人に、共通点はあるのだろうか。AMBI、ミドルの転職の事業責任者で、エン・ジャパンの峯崎直哉さんに聞いた。


――2022年、転職後の年収が増加したのはなぜ?

コロナ禍では企業の経営が厳しくなり、事業規模を縮小する動きもありましたが、21~22年ごろから新しい事業に動く企業も出てきました。さらに、日本でも労働者の能力評価が当たり前になってきたことで、経験やスキルがある人材の需要が高まった結果だと思います。

経験やスキルでの評価が当たり前に(画像はイメージ)
経験やスキルでの評価が当たり前に(画像はイメージ)

――転職=待遇が下がるイメージもあるが?

確かにそうでした。過去(前職)の経験を新しい職場で生かせると限らないため、企業のリスクになること。既存社員のモチベーションを下げてしまうかもしれないこと。こうしたところで年収を高くしづらかったのです。ただ、今はジョブ型雇用も普及し、企業でも仕事に応じた給料テーブルが作られるようになったので、年収も上げやすくなったと思います。

年齢を気にしない企業が増えたという(画像はイメージ)
年齢を気にしない企業が増えたという(画像はイメージ)

――以前は、転職に「35歳限界説」もあったが。

今は基本的にありません。実力やスキルを重視するようになったため、年齢は気にしない価値観の企業が増えていると思います。年代別の転職後決定年収を見ると、20代後半~40代は需要が高いと思います。20代前半は企業が“ほぼ未経験”として捉えますね。50代はデータだと厳しい結果ですが、年収が低い人、高い人の二極化が進んでいる印象です。

年収が増えやすいのはスキルの「タグ」を持つ人

――転職で年収が増える人、増えない人の違いは?

ポータブルスキル(業種や職種を超えて通用するもの)、専門的スキルがある人は評価されますね。例えば、マネジメント経験が豊富、特定分野の開発や研究で成果を出している、法務や経理でスペシャリストの領域になると希少価値は高くなります。私たちはスキルの「タグ」を持つ人と呼びます。

一方で受動的な仕事でしたり、機械に代替されやすい定型業務のみの経験だと、年齢相応の専門的スキルがない、誰がやっても同じという評価になりがちです。転職による年収も上がりにくいと言えます。

業界についての知見やスキルが大切に(画像はイメージ)
業界についての知見やスキルが大切に(画像はイメージ)

――転職で年収の増加が期待できそうなケースは?

よくあるのは、原資がある成長産業への転職ですね。例えば、利益率が30%と50%の会社では社員に還元できるお金も違います。また、業界についての知見やスキルが求められる仕事だと、育成するより引っ張ってきた方が早いので、待遇を良くすることもあります。


――未経験の仕事だと、年収を増やすのは難しい?

企業は業務のミッション達成のため、何が期待できるかを評価軸とすることが多いです。未経験は厳しいと思います。例えば、経理の人が営業をいきなり任されても困りますよね。転職したいと考えている場合は、自分の職種のスキルを生かせるかどうかで探すと仕事も見つかりやすいでしょうし、結果的に年収も上げやすくなるのではないでしょうか。

年収増に惑わされず、転職は慎重に

――転職者の年収が増加すると、企業や仕事を求める人にはどんな影響が出そう?

企業はコストが増えますし、人材獲得の難易度も上がると思います。人が働き続けるには、お金だけではなく、成長を感じられるかどうか、評価されるかどうか、人間関係が良好かといったところも重要なので、評価制度の整備や能力開発に取り組む必要があるでしょう。求職者は能力次第なので、スキルの「タグ」がある人、ない人で評価が二極化しそうです。学び続ける努力が必要になりますし、転職はより慎重に行うべきだと思います。

転職先で苦戦する可能性も(画像はイメージ)
転職先で苦戦する可能性も(画像はイメージ)

――年収増が期待できても、転職は慎重にすべき?

はい。今の若手社員は「ここでずっと働こう」と考える人は少ないかもしれません。しかし、転職したら前職での経験が通用しない、評価もされなくなった。ということも考えられます。年功序列という言葉は揶揄されますが、違う考え方をすれば信頼の貯蓄です。この会社はどうなってもいいというスタンスで働くと、企業から求められなくなることも考えられます。求職者や労働者は勘違いをせず、慎重になる必要があると思います。


――転職後の年収は今後、どうなりそう?

景況感が影響するので難しいですね。今後も上昇傾向になるかと思いますが、外資系企業のレイオフなどの要素を鑑みると何とも言えません。二極化が進み、企業は高いスキルを持つ人には高い提示という構造になりそうな気もするので、年齢相応の専門性を磨くことが必要になると思います。



労働者を実力で評価する考えが広まったこと、企業が人材を求めていることが、待遇の良さに影響しているようだ。ただ、実力で評価される分、転職はより慎重に考えるべきかもしれない。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。