医療の正しい知識を有する名医たちが、健康に関するお悩みを解説する「名医のいる相談室」 。今回は耳鼻咽喉科の専門医、日本医科大学多摩永山病院・耳鼻咽喉科の後藤穣(みのる)准教授が「花粉症」について解説。

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対症療法だけでなく、根本的な治療法や、花粉をなるべく取り込まないための服装、鼻うがいのポイントなども解説する。 

花粉症とは

花粉症は「Ⅰ型アレルギー疾患」といって、原因となる花粉と抗体が反応することによって、アレルギー反応が起こるものです。

ヒスタミンという物質がアレルギーの反応を最初に起こし、くしゃみや鼻水・鼻づまりという症状が出てきます。

「ヒスタミン」という物質が最初にアレルギー反応を引き起こす
「ヒスタミン」という物質が最初にアレルギー反応を引き起こす

花粉症はアレルギー性鼻炎の中の一部です。

花粉症というと、スギ花粉が原因のものも、イネ科の花粉症も、秋になるとブタクサの花粉症などもありますが、全体的には“アレルギー性鼻炎”という病気の中の一部です。

現在、スギ花粉症は非常に増加している疾患です。全国の有病率調査では、約38%の方が症状を有していることになっています。さらに、いまだに数が増えていたり、小さいお子さんにもスギ花粉症の方が増えていることが、最近の報告として分かってきています。

花粉が飛びやすい時期

スギ花粉症を例にとりますと、花粉はやはり晴れた日にたくさん飛ぶことがわかっていますし、例えば気温が高くなった時、空気が乾燥している時にも多く飛ぶと言われています。

また雨の日は花粉が飛びにくくなりますが、そうすると今度は雨が上がって翌日になるとたくさんの花粉が飛ぶことがわかっています。

飛散する時間帯は、今までの研究結果では日中の1時~3時くらいにたくさん飛ぶという報告もありました。しかし最近“リアルタイムモニター”というものを使って研究した成果では、夜中でも、気象条件が揃うと大量の花粉が飛んでしまうことも分かってきました。

この季節は、天候や風の強さなどに十分注意していただくと、翌日の花粉症の症状が自分にとってどれくらい辛くなりそうか少し予想できるのではないかと思います。

花粉症の診断

花粉症の診断について。

花粉症という病気は、非常に自己判断する方が多いのですが、我々としては、正確な診断をつけなければいけないと思っています。

例えば、アレルギーの検査ではどんなことをやるのかというと、血液をとることによって、数十種類の原因のアレルゲンについて、「IgE抗体」が陽性かどうかがわかります。この「IgE抗体」がたくさんあれば、重症化しやすいだろうということになります。

また、どの物質に対してIgE抗体が陽性かを知ることによって、自分が何に対してアレルギーを起こすのかが正確に分かります。

自己判断だけではなくて、正しい検査をしていただいて、正確な診断をつけていただきたいと思います。

花粉症の治療法

花粉症の治療としては、薬の治療と、それから手術という方法ももちろん選ぶことができます。もう一つ我々が重要だと思っているのは、「アレルゲン免疫療法」です。

まず薬による治療法としては、代表的なものとして「抗ヒスタミン薬」があります。

薬による治療の一つは「抗ヒスタミン薬」
薬による治療の一つは「抗ヒスタミン薬」

アレルギー反応が起こると「ヒスタミン」という物質が出てきますので、その物質を抑えることによって、くしゃみや鼻水・鼻づまりの症状を抑えていくという薬が、抗ヒスタミン薬です。

それからもう一つ、我々がよく使うのは、鼻に点鼻をするステロイド薬です。アレルギーによって鼻の粘膜が炎症を起こしてしまうので、そういう炎症を全体的にとっていく薬で、非常に効果の高い治療法です。

これも定期的に、内服薬と同様に正しく使っていくことが、症状をよく抑えるためには必要です。

もう1つ、薬の治療法の中で最近出てきたものとして、「抗IgE抗体療法」というものがあります。IgE抗体というものがアレルギー反応を起こす、と先述しましたが、そのIgE抗体を抑えてしまうことによって、アレルギーが起きにくくなるという方法です。

しかしこれは、スギ花粉症にだけ使えることになっていますし、さらに、重症な方にしか使えない。若干縛りがある治療法です。ですのでこれは、医療機関の先生方によく病状を評価してもらい、相談した上で使わなければいけない治療法です。

そしてもう一つ「アレルゲン免疫療法」について。これは根本的な治療法です。

薬の治療法は対症療法なので、決してアレルギーの原因を治しているわけじゃないのですが、免疫療法は“アレルギー体質を根本的に治していこう”というものです。

アレルギー体質を根本的に治すのが目的の「アレルゲン免疫療法」
アレルギー体質を根本的に治すのが目的の「アレルゲン免疫療法」

少し時間がかかりますが、原因物質を注射をしたり、または舌下、舌の下に入れたり、そういうことを定期的に行います。一般的には3~5年続けなければいけないと言われていますが、そうやって長期間行うことによって、アレルギーの体質を抑えて根本から症状を抑えていく治療法です。

アレルギー体質を根本的に治すのが目的の「アレルゲン免疫療法」。舌の下に、原因物質を少し入れる方法も
アレルギー体質を根本的に治すのが目的の「アレルゲン免疫療法」。舌の下に、原因物質を少し入れる方法も

これらの治療法は、患者さんによってどの治療法があっているかということもありますし、重症の度合いによって何を選ぶかというのもあるので、アレルギーの診療の詳しい先生方とよく相談をした上で、自分に合った治療法を続けていただくのが重要だろうと思います。

花粉症の予防法

花粉症の予防法としては、原因物質がたくさん入ってくれば重症になるので、できるだけ少なくすることが重要になります。

マスクやメガネによる花粉量の軽減もあなどれない
マスクやメガネによる花粉量の軽減もあなどれない

マスクやメガネをするというのは昔から言われていますが、だいたい花粉の量を3分の1くらいとか、場合によっては2分の1くらいに減らすんじゃないかという実験結果もあります。

薬の治療など以前に、患者さんのセルフケアという意味ではやっていただきたいと思います。

花粉が引っ付かないよう、着る素材にも注意
花粉が引っ付かないよう、着る素材にも注意

花粉は、換気の時に室内に入ってくる量は決して多くないと言われています。

玄関から人が入ってきた時に、服に付いたものが、室内に入ってしまうことが最も多いだろうと言われています。ですので、玄関から家の中に入る時に、花粉を持ち込まないことも重要だと言われています。

その際にはやはり、着ている素材もツルツルしたものだと、花粉がなかなか付きにくいんじゃないかという話もあります。この時期は、着るものについて注意をしていただくのも重要ではないかと思います。

玄関に置くことで若干症状が軽くなるという例も
玄関に置くことで若干症状が軽くなるという例も

以前、空気清浄機を患者さんに使ってもらって研究したことがあるのですが、玄関に置いておくと、室内に入り込む花粉を少なくするんじゃないかと。花粉症の時期、玄関に空気清浄機を置くことによって若干症状が軽くなるというようなことも、経験したことがあります。

鼻を傷めないよう、生理食塩水で行うのがポイント
鼻を傷めないよう、生理食塩水で行うのがポイント

家に帰ってきてから、うがいしたり手を洗うことも重要だと思いますが、いわゆる「鼻うがい」。鼻粘膜に花粉が付着してしまっている場合に、鼻の中を洗浄することによって、長い間花粉が鼻の中にあるよりも早く出してあげるということも必要かと思います。

その際には、水道水などは逆に粘膜を傷めてしまいますので、生理食塩水。食塩を混ぜた一定の濃度になったものを使っていただくのが、粘膜にも優しいです。異物を外にということでは、理にかなっている方法じゃないかなと思います。

2023年の花粉飛散量の傾向

2023年のスギ花粉の飛ぶ予測が出ていますが、例年に比べて、東北~関東地方、特に太平洋側は非常に多いという予測が出ています。西日本も、例年よりは多い地域がほとんどになっています。

「例年と比べて」と言われても、なかなかの自分のイメージとしてピンと来ないことが多いと思います。去年(2022年)と比べるとどうかというと、去年との比較の方が、よりたくさん飛んでくるだろうという予測です。

非常に花粉が多い年というのは、重症になってしまったり、その年に初めてスギ花粉症の症状が出る方も多いのが特徴です。ですから季節の間中は、しっかりとした対策をしていただく必要があります。

継続的な治療が重要

花粉症のシーズン、スギ花粉の場合は約3ヶ月間続きますが、花粉の飛ぶ量が多い日・少ない日が分かれています。少ない日にちょっと油断してしまって、治療を中断することがないように、最初から最後まで治療を続けていただくのが重要だと思います。

名医のいる相談室
名医のいる相談室
後藤穣
後藤穣

現職 日本医科大学耳鼻咽喉科学 准教授、日本医科大学多摩永山病院 部長
日本耳鼻咽喉科学会:専門医、専門研修指導医
日本アレルギー学会:常務理事、指導医・専門医、アレルゲン免疫療法委員会委員長

経歴 1991年 日本医科大学医学部卒業
2004年 日本医科大学耳鼻咽喉科学 講師
2011年 日本医科大学耳鼻咽喉科学 准教授
2013年 日本医科大学多摩永山病院 部長
2014年 日本医科大学多摩永山病院 病院教授
2018年 日本医科大学付属病院 
2022年 日本医科大学多摩永山病院 部長