気温30度を超える炎天下の中、幼い子供2人を車の中に放置し死亡させた罪に問われている母親の裁判が先月28日から、横浜地裁小田原支部で始まった。母親は「とても反省している」と述べた一方で、法廷では、事件が起こる前にも、たびたび子供を車の中に放置していたことが明らかになった。

炎天下の中 2幼児を車内放置

記者たちが法廷に入ると、長沢麗奈被告(22)は、すでにグレーのスウェットを着て長い髪を一つに束ね着席していた。裁判員が席に座る前には、すでに、長沢被告は持っていたハンカチで涙を拭っていた。

送検される長沢麗奈被告(22)(去年8月 小田原署)
送検される長沢麗奈被告(22)(去年8月 小田原署)
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長沢被告は、去年7月、神奈川県厚木市で長女の姫梛ちゃん(ひな・当時2歳)と長男の煌翔ちゃん(こうが・当時1歳)を車内に放置し、熱中症などにより死亡させた保護責任者遺棄致死の罪に問われている。

事件当日の午後1時半すぎ、長沢被告は、当時、交際していた男性宅に向かった。車を、男性宅の近くに止めた長沢被告。子供2人を、車の中に放置したまま、1~2時間、男性宅で過ごしたとされる。

2月28日から、長沢麗奈被告の裁判が始まった(横浜地裁小田原支部)
2月28日から、長沢麗奈被告の裁判が始まった(横浜地裁小田原支部)

交際相手の男性の証言では「腕まくらをして寝ていた」そうだ。そして、長沢被告が、車に戻ると、ぐったりした状態の2人を見つけたとのこと。すぐに119番通報した長沢容疑者だが、そこから、今にも死にそうな我が子2人を前に、「ウソ」を重ねることになる。

7月だけでも7~8回放置

被告人質問(弁護側)
弁護士:交際相手の部屋にいる時、子供のことは気になっていた?
長沢被告:(交際相手に)帰るねと言ったとき、(交際相手が)眠ったときに気になった。
弁護士:なぜ車に子供を放置したのか
長沢被告:いつも大丈夫だからその日も大丈夫かなと思った。いつも平気だから、その日も平気かなと思っちゃった。
弁護士:子供の車内に置いていなくなるというのは前にもあった?
長沢被告:7月8日より前にもあった
弁護士:何回くらいありましたか?
長沢被告:7、8回。短くて5分くらい。長くて1時間くらい。
弁護士:1時間くらい放置したのは何回くらいありますか?
長沢被告:2回くらい。

逮捕直後、厚木署から移送される長沢被告。大勢の報道陣に、驚いた様子を見せた(去年8月)
逮捕直後、厚木署から移送される長沢被告。大勢の報道陣に、驚いた様子を見せた(去年8月)

長沢被告は、事件があった去年7月だけで、子供2人を車において交際相手の家で過ごすことは7、8回あったとのこと。動機は、「自分が交際相手の男性と一緒にいたいという気持ちを優先させた」のだという。

事件当時、長沢被告は、車のエアコンをつけたまま、車を離れていたとのこと。この点について、長沢被告は、法廷で、「下がると思っていました、最低の温度にしていたので、車内の温度は下がると思っていました」と釈明した。

幼い姉と弟が意識不明の状態で見つかった車(去年7月29日 神奈川・厚木市)
幼い姉と弟が意識不明の状態で見つかった車(去年7月29日 神奈川・厚木市)

しかし、神奈川県警が行った再現実験によると、エアコンの温度を18度に設定しても、日が当たる場所では、車内の温度は30度を下回らなかったそうだ。救急隊員は、搬送時、煌翔ちゃんの体温が42度にまで達していたことを明らかにしている。

「迷惑かかる」「捨てられる」

車の中で子供2人がぐったりしているのを見つけ119番通報した長沢被告。しかし、電話をしながら、交際相手の自宅からおよそ180メートル離れた「ぼうさいの丘公園」まで、車を移動させていたのだ。

長沢被告は「子供2人は後部座席で寝ていて、自分は運転席でスマホを触っていた」などとウソの説明をしていた。
長沢被告は「子供2人は後部座席で寝ていて、自分は運転席でスマホを触っていた」などとウソの説明をしていた。

駆けつけた救急隊員に対して、長沢被告は、「公園で遊んでいたら子供たちが寝たので、後部座席に寝かせて、自分は運転席でスマホを触っていた、30分くらいして様子を見たら、ぐったりしていた」とウソの説明をした。

被告は、その後、自分の母親や警察官に対しても、同じようにウソの説明を続けている。自分が、交際相手の男性と一緒に過ごしていたことを隠そうとした理由は、「迷惑がかかるから」だったという。

母親にもウソの説明をしていた長沢被告。「捨てられると思ったから」とその動機を語った。
母親にもウソの説明をしていた長沢被告。「捨てられると思ったから」とその動機を語った。

弁護士:なぜ、母親にもウソの説明をした?
長沢被告:(母親)捨てられると思ったからです。交際相手の部屋にいたと言ったら、(母親に)怒られると思いました。
弁護士:119番通報をした時、『放置したの?』と言われ否定しているが、なぜ?
長沢被告:放置していないと思いたかったからです。

去年5月、元夫と、正式に離婚していた長沢被告。その後、7月に入り、高校時代の”彼氏”だった男性と、再び交際を始めたという。我が子2人を連れて、男性宅で過ごすこともあったとのことだが・・・。この日、2人だけの”逢瀬”を優先した代償は、あまりにも大きかった。

「ママと呼んでもらえるよう罪を償いたい」

被告人質問で、亡くなった姫梛ちゃんと煌翔ちゃんについて話が及ぶと、長沢被告は、涙ながらに、次のように語った。

長沢被告:ちゃんと罪を償いたい、今のままじゃ姫梛と煌翔を迎えにいけない。ママと言ってもらえるように罪を償って迎えに行きたい。会いたいです、会いたいし、ちゃんと謝りたいし、もっと大切にできたのに、母親としての自覚が薄かった。もっと楽しいことを味わわせてあげられたのに、それを奪ったので、申し訳ない気持ちでいっぱいです。

証言台に立った長沢被告は「ママと呼んでもらえるよう罪を償いたい」と語った。
証言台に立った長沢被告は「ママと呼んでもらえるよう罪を償いたい」と語った。

検察側は、「幼い命が2つも奪われた結果は重大。常習的に子供を置き去りにしていて、保護者の自覚を欠いている」として、懲役8年を求刑。

一方、弁護側は「日常的な虐待はなく愛情をもって子育てをしている。今回の事件で、最大の苦しみを味わっているのは被告自身だ」として懲役3年が相当とした。判決は、今月8日に言い渡される。

(フジテレビ社会部・横浜支局 魚住菫)

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社会部
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魚住菫
魚住菫

1990年福岡県直方市生まれ。警視庁捜査一課担当を経て神奈川県警担当に着任。好きなものはお酒ととんこつラーメン、ごまさば。ホームシックと闘いながら日々奮闘しています!