子どもに輸血を受けさせない行為は「虐待」にあたるとして、弁護団は2月27日、宗教団体「エホバの証人」を厚生労働省に通報した。

エホバの親に育てられ、幼少期には“むち打ち”の体罰などに苦しんだと話す、元2世信者の小松猛さんに、教団の教えや今も続く苦悩などについて聞いた。

おしりに“ベルトむち”で懲らしめ

ーーどのような幼少期だった?
物心がついた頃から私の生活はすべて「エホバの証人」の教えに囲まれていました。

「エホバの証人」元2世信者の小松猛さん
「エホバの証人」元2世信者の小松猛さん
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幼い頃は平手でおしりをパチンとやられるだけで済んでいましたが、ある時を境にビニール製のベルトを二重三重に折り曲げてガムテープでぐるぐる巻きにして、それを“手製のむち”として、生身のおしりを叩くという懲らしめが始まりました。

懲らしめの原因は、週3回、約2時間に渡って「エホバの証人」の教えを聞く教団の集まりがあり、そこで足をばたつかせた、落ち着きがなかったという理由で、教団施設内の授乳室やトイレなど隔絶された空間に連れて行かれ、むちを打たれ、子供の泣き叫ぶ声が響き渡っていました。

私も、母親から「天に居るお父さん・エホバ神が悲しむから」と言われ、おしりにむち打ちされました。2歳から中学生ぐらいまで続き、歯を食いしばって涙を堪えていた記憶があります。

終わった後は、みみず腫れで痛くて、椅子にも座れず、翌日の学校は中腰で授業を受けていました。

教団のホームページに記載される“ムチ”に関する聖書の言葉
教団のホームページに記載される“ムチ”に関する聖書の言葉


教団のホームページには、聖書の言葉として「むちを控える人は子供を憎んでいる。子供を愛する人は懲らしめを怠らない」との一文が紹介さている。

では、“懲らしめ”の対象は何なのか。小松さんは、「エホバの証人が教える理想像」に基いて決められていると話す。

“戦隊ヒーロー”は禁止

ーー懲らしめの対象は?
聖書に基いてエホバの証人が独自に解釈した出版物があり、その内容から逸れる行為に対して、むちが行われました。

例えば、「エホバ神は戦いを望んでおられない」という教えを理由に、“戦い”をテーマにした戦隊ヒーローやアニメを見たり、キャラクターグッズを集めることはダメでした。僕は子どもの頃、戦隊ものの筆箱を隠れて使っていることが親にばれてしまい、懲らしめを受けました。

ーー親はなぜ懲らしめを行う?
親は子供をしつけようと思って、子供の幸せを真剣に考えた上で懲らしめを与えるので、子供が憎くてやってるわけではないんです。

私が従順であれば、とても優しいし、そういう母親が好きでした。

助かったはずの多くの命が失われた

一方、輸血に関しては、聖書の「血を食べてはならない」という教えをもとに、“輸血拒否カード”を365日身に着けていたという。

子どもが身に着ける“輸血拒否”を示す身元証明書
子どもが身に着ける“輸血拒否”を示す身元証明書

ーーなぜ輸血をしない?
教団の集会では、医学の進歩によって無輸血でも代替治療があるから決して命を軽視しているわけではない。無輸血治療は体に良く、リスクも避けられる素晴らしい治療だという説明がされて信者は安心していました。

しかし、本当は助かったであろう命が失われた事例を大人になってたくさん見聞きしました。

そうして亡くなった子供たちがまるで英雄のように雑誌の表紙を飾り、教団内では喜ばしいことであると教えられていることに対しては、激しい怒りを感じますし、残念な気持ちでなりません。

「隣の家に生まれたかった」

一方、13歳から20歳まで信者だった小松さんは、20年前に教団を脱会した。

しかしその後は、20年経っても、両親・兄との交流は途絶えたままだという。

ーー家族との交流は?
教団と「断絶」した人とは、家族であってもコミュニケーションをとってはならないという取り決めがあり、共に食事をしてはならない、声を掛けてはならない、となっているため、私も父、母、兄とそういう状況です。

脱会して20年経ちますが、家族からは「戻って来なさい」と数年に1回手紙が来ます。

直接会って「孫も生まれたから家族としての交流を再開できないか?」と、話し合いも重ねてきましたが、「あなたが戻ってこない限りは再開はできない」と言われています。

ーー他の家族を見てどう感じていた?
幼少期のころは友達が誕生会やクリスマス会など楽しそうにしていたり、家で好きなテレビを見て、好きなおもちゃやゲームで遊んでいるのを見て、すごく羨ましかったです。

「どうして自分の家はエホバなんだ。隣の家に生まれたかった」というのが正直な気持ちでした。

今は自分の家族もできたので、この家族を大事にしようと生きています。

大学進学を含め、多くの選択肢を失った

さらに、エホバの家に生まれたことで、部活動や恋愛など多感な青春時代も奪われたと小松さんは話す。

ーー自分の人生が狭められたと感じることはある?
それは強く感じます。

むちによる懲らしめで、人生の多くの選択肢を奪われたという気持ちはぬぐえません。
大学進学すら最初から諦めていたし、部活動もやりたくて直談判したけど許してもらえなかったし、多くの人が普通に経験するであろう青春時代は帰ってこないし、悔やんでも悔やみきれません。

自由な恋愛とか、多感な時期を多感に過ごせなかった。
喧嘩したり、失恋したりして多くのことを学んで人格というものが形成されるのではないかと思いますが、そういう経験ができなかったのが非常に残念です。

部活動は、宗教活動には不要なもので、必修科目ではないという位置付けでした。

また恋愛は、信者同士の結婚でないと認められないのと、「若さの盛りを過ぎた頃」というのが教えとしてあって、だいたい30代ぐらいで模範的な信者は結婚していましたが、それまでは恋愛関係に陥る必要もないというのがセオリーだったと思います。

ーー今振り返ってエホバの証人の教えはどうだった?
私が今強く言いたいのは、「エホバの証人」は今現在も“この世の終末”を謳っています。

まもなくこの地球全体がアルマゲドンによって滅ぼされ、新しい世界が楽園となってくる。だから今この苦しみを喜んで耐え忍ぼう。そして一人でも多くの人を楽園に導こうというのが根幹にあります。

僕が子供のころは、「あなたは大人になることはない。運転免許を取るころには楽園が来ている」と口酸っぱく言われて育ちました。

「きょう、明日終わりが来てもおかしくない」と何十年も同じことを言っています。
終わりが来た時に子供がエホバにとって良くないことをおこなっていたら滅ぼされてしまうんだと、終末論を謳って信者の焦燥感を煽っています。

その教えが非常に悪だと思っています。

ーー最後に、今後の願いは?
家族との交流が絶たれるのを恐れて、疑念を持ちながらも抜け出せないでいる人たちが救われること。そして、私のように家族との交流が絶たれたままの人が救われることを強く望みます。