「我が子を取り戻したい」フランスでも起きた旧統一教会問題
この記事の画像(6枚)日本だけでなく、世界各国で活動を続ける「世界平和統一家庭連合」(旧統一教会)。
なかでも、フランスでは...
UNADFI(カルト被害者と家族を守る協会)元副会長ジュグラ氏:
1980年から85年にかけて、入信した子供と連絡を取りたくても、どうしても取れない両親が出始めました。このような経験をした両親らによって意識が高まり、フランスでは政治レベルまで問題意識が高まったのです
こう語るのは、元弁護士でありフランスで「反セクト法」なる法律を作るきっかけとなった団体「カルト被害者と家族を守る協会」の元副会長ジュグラ氏。
「反セクト法」の「セクト」とは社会的に警戒を要するカルト団体のこと。
つまり「反セクト法」とは、「反カルト団体法」という意味になるのだが、立法のきっかけとなった、この協会が生まれた理由は…
UNADFI元副会長ジュグラ氏:
子供が統一教会に入り、連絡が取れなくなった両親たちから始まりました。しかも、政府が興味を持ったのは、極右政党の幹部の1人がフランスの統一教会の代理人だったのです
実はフランスでも、きっかけは旧統一教会であり、これまた日本と同じく政界とのつながりがあったからだという。
旧統一教会と政界の関わり
日本では、安倍元首相の銃撃事件以来、様々な政治家が旧統一教会との関係について、言い訳とも、開き直りとも取れる発言を繰り広げてきた。
自民党 福田達夫総務会長:
統一教会さんと関係があるのではなくて、統一教会で信教の自分の自由を行使している方が応援してくれているんだけど、「これは統一教会さんから応援を受けてくれるということになるのかねぇ…」とかいう話もありまして
自民党 木原誠二官房副長官:
政府として“反社会的勢力”という言葉をあらかじめ限定的かつ統一的に定義することは困難であると考えておりまして…
政治家のこれらの言い分に、国民は納得できるのか?
フランスの「反カルト法」できるまで
そこで今回、Mr.サンデーでは法案成立のきっかけとなった団体の関係者と専門家たちを緊急取材。果たして、日本でも同じような法律は作れるのか?
そもそも、旧統一教会がフランスに広がったきっかけは何だったのか?
教えてくれたのは大阪大学大学院法学研究科の島岡教授。
大阪大学大学院法学研究科 島岡まな教授:
いわゆる1968年のパリ革命ってご存知でしょうか?パリ大学の学生が校舎に石を投げた、それが始まりなんですよ。それまで権威とされてきた教授とかが権威が落ちて、学生が中心になってきた。やっぱり不安を感じるじゃないですか、それぐらいの大きな出来事があると。鬱になったり、そういう人が増えた時にスッと入り込んできたのが統一教会だと言われています
時は、1960年代… 日本で学生運動の嵐真っ只中だった頃、フランスでもまた学生運動が広がり、不安を抱える人々が増えていたという。
大阪大学大学院法学研究科 島岡まな教授: その人たちを集めて、慰めるような感じで広まって、70年代にかなりフランス社会に浸透してきたらしいんですよね、統一教会が
しかも、その時のフランスは…
同志社大学神学部 小原克博教授:
当時できた言葉ですけど、“マインドコントロール”みたいなことをして、進路を大きく変えてしまったりとか。学業放棄であるとか、職場に来なくなって宗教活動にのめり込んでいったりとかですね、人生が大きく変わっていくような人たちが出てきました
こう語るのは、同志社大学で神学を教える小原教授。
では、日本の政治家たちがあれほど難しいと言っていた問題に、フランスはどう立ち向かったのか?
大阪大学大学院法学研究科 島岡まな教授:
「問題を“信教の自由”とは全く切り離して、それは全く侵せないっていうことが大前提で、それとは別に、このような指標があれば、これは信教ではなくて。実はもう反社会団体なんですよっていう、そういう切り込みで浸透させていった」
“教え”ではなく“反社会的”かどうかで判断
1995年、フランス政府が行ったのは「いい宗教」か「悪い宗教」か、教えの内容を判断するのではなく、その団体が反社会的な行動をしているかどうかでジャッジをする方法だった。
判断基準となるのは、以下の10項目。
①精神的不安定化
②法外な金銭要求(献金など)
③元の生活からの意図的な引き離し
④身体に対する危害
⑤子供の強制的な入信
⑥反社会的な説教
⑦公共の秩序を乱す行い
⑧重大な訴訟違反
⑨通常の経済流通経路からの逸脱(高額な物品販売など)
⑩公権力への浸透の企て
日本でカルトと言われる団体にも当てはまる活動ばかりだが、フランスではこの1つにでも該当すれば「セクト」、つまり「カルト団体」のリストに載ることとなり、1995年当時その数は172にも上ったという。
確かに、こうした団体のリストがあれば政治家が、信教の自由などとは関係なく、付き合ってよいかどうかを判断出来る。こうした準備を元に「反セクト法」がフランスで施行されたのが2001年。それ以来…
同志社大学神学部 小原克博教授:
きちんと国家が監視の目を光らせているぞというようなものが非常に強く伝わった結果だと思うんですけれども、少なくとも表に出てこなくなったという点では、一定の効果があったというふうに言っていいと思いますね
そして、表に出なくなった理由については…
UNADFI元副会長ジュグラ氏:
統一教会は、フランスで得られるものはたいしたことはない。なのでここに投資しても意味がないとなったのでしょう
大阪大学大学院法学研究科 島岡まな教授:
日本みたいに、やりやすいからこそどんどん増えたわけであって、やりにくかったら普通やめますよね。無駄なことやってもしょうがないから
こうしたことからフランスでは旧統一教会の規模が縮小していったという。
良いことばかりにも思えるが、専門家の主張には異なる点もある。小原教授は、こうした法律の日本への導入については、慎重さも必要だという。
同志社大学神学部 小原克博教授:
フランスの場合は日本とは違う形で、非常に厳格な政教分離をしてきたっていう歴史があるので、こういったもの(法律)も成立できるわけです。日本の場合、そもそも政教分離をどう考えるかっていうところの議論をしないと、こういった強烈な法案、法律って作れないと思うんですよ
確かにフランスでは、1世紀以上前から政教分離が徹底され、例えば大統領の就任式でも、アメリカの様に聖書に手を置くなどといった宗教的な式典は一切ない。さらに難しいというのが…
同志社大学神学部 小原克博教授:
それが過剰に適用された場合に、いわゆる信教の自由が侵害されるのではないか。それから、実際にはセクトかどうかっていうのは、どうしても曖昧な部分がありますので、それが無制限に広がっていった場合に、結果的に魔女狩り的なものへと道を開くのではないかというですね
逆にカルトと見抜けなかったのが、後に教祖が死刑にまでなったオウム真理教だという。
同志社大学神学部 小原克博教授:
(当時は)専門家もですね、オウムは非常にユニークな宗教なんだからいいんじゃないかみたいな、非常に肯定的な意見を言った人も結構いますし。問題があるかっていうことをきちんと見分けるっていうことが非常に難しいと。それがオウムが教えてくれた教訓の1つなんですね
どんな専門家を集めてもある団体をカルト認定することの難しさ。しかし、だからといってこうした問題を見過ごしていていいのだろうか?
大阪大学大学院法学研究科 島岡まな教授:
だから(宗教本体ではなく)違法行為を中心に考えればいい。フランスと全く同じような切り口でやっていけばいいと思いますし。本当に困っている人を助けましょうっていう精神なので。ぜひそのカルト法は必要だと思っています
もともと、「我が子を取り戻したい」と願う親の訴えで始まったフランスの「反セクト法」。
その成立に尽力した協会の元副会長は取材の最後に、こう言い切った。
UNADFI元副会長ジュグラ氏:
各国政府は、宗教という仮面の裏に“権力を握りたい”という思惑があることを認識しないといけません。カルトは自立した個人の人格を全否定し、自由意思を侵害しているのです
(「Mr.サンデー」7月31日放送分より)